【対談企画】避難者がいなかったことにならないために。
−「ほっと岡山」代表理事・服部育代×『コトノネ』編集長・里見喜久夫−

一般社団法人ほっと岡山は、2011年に前進団体「うけいれネットワークほっと岡山」としてはじまり、避難者支援に取り組んできました。ほっと岡山が2021年に発行した避難者のインタビュー集、『つむぐ 3.11避難者の声』の制作に『コトノネ』編集部も協力をしています。

震災直後から、岡山県へ避難・移住してきた方へ向けた相談窓口を設け、暮らしを再建するための支援を続けてきたほっと岡山。避難者からは「実家のようだ」「ここに来れば、日常の会話ができる」と言われ、なくてはならない心のよりどころとなっています。

しかし昨年、補助金の交付要件が大幅に変更され、存続の危機にあります。
支援活動を継続するため、2023年3月14日(火)までクラウドファンディングを実施しています。

震災から12年。避難者たちの置かれた現状、いまだからこそ、伝えたいこと。
ほっと岡山代表理事・服部育代さんと、コトノネ編集長・里見の対談の模様をお届けします。

崖っぷちの支援

コトノネ44号の表4広告

服部:昨年11月発行の『コトノネ』では、裏表紙で応援広告を掲載くださって、ありがとうございました。ご連絡をいただいた時も本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

里見:いま、事務とかしてくれる人は残ってるんですか。

服部:ひとり残ってくださって。週4日午前中、今日も出勤してくださっています。でも、人件費も本当に厳しくて。福島県の補助金だけの予算はもう8分の1になってしまって…。

里見:「8分の1に減らされた」やなくて、「8分の1になった」んですか。

服部:そうなんです。委託事業の方もなくなったので…。せめてもうちょっと前から、次年度の補助金がどのように変わるか、数年単位での行政の事業計画などが具体的にわかれば、いろんな手を打てたのかなと思うんですけど。国の復興予算の中の「被災者支援総合交付金」は大きな変化がなかったので、「きっと同じようになるだろうな」と思ってたんです。先が全く見えないなか、4月から例年通り支援事業を始めたものの、福島県の補助金募集開始がいつもより遅く、さらに新聞等で報道された通り、補助金の運用が大きく変更になりました。悩ましいです。

里見:スタッフの方は何名減ったんですか。

服部:相談員さん、事務スタッフあわせて4名と、避難・移住された方で外部スタッフとして広報とおたよりを作成してくださる方、相談手前のゲートキーパーの役割を担ってくださった方にも、関わっていただくことが難しくなりました。

里見:全部、それが動かなくなった。

服部:動かなくなりました。8月までで相談員もスタッフもアウトソーシングの方も終了になりました。いま、クラウドファンディングを行っていて。3月14日までの2カ月を予定しているんですけれども。この時期に当てたというのも、1月17日…昨日(取材日は2023年1月18日)ですよね、阪神・淡路大震災があって。それで、3月11日は東日本大震災があったということで、皆さん関心を寄せていただける時期かなというのもあって。ちょっと「ノロノロ」な感じなので…もう少し頑張っていかないとなっていうところなんですけど。(目標金額)300万円、「オール・オア・ナッシング」っていう方式なんです。300万円いかないと、かえさなきゃいけない。

里見:いままでやったことあるんですか、クラウドファンディング。

服部:ないです、はじめてです。「ほっと岡山」は会員制も取ってないので…。やっぱり、組織が脆弱ですよね。避難者の方たちが会員・受益者という立場なので、その方たちから会費を取るということはやっぱり難しくて。なので、代わりに賛助会員さんを募ってきたんですけど、全然そこも力及ばずで…まだまだ少なくて。

里見:賛助会員は、何人ぐらいいるんですか。

服部:20人くらいですね。

里見:そうですか。ところで今日の裁判(※東電旧経営陣3名の責任を問う、東京高裁での刑事裁判)、どうなるやろね。やっぱりまた同じ結果が出るんやろね。この刑事裁判は、前に負けてますでしょ。でも、あの3人に責任はなかったって言うなら、いったい誰が責任取るのか。あの3人の代わりに、誰かを差し出すのかっていう。

服部:そうですよね。わたしたち、そんなルールで動いてないのに。なんでそこだけ特別なの?っていう。

里見:「こんなの(原発)はやめてほしい」って言われたときに、「大丈夫」と言うた人たちがいるわけですよね。彼らが責任者やから、我々は「その3人」って言いますけども。それが違うっていうなら、ヤクザでも代わりを差し出しますよ。

服部:ほんとですよ。

里見:これ、もう1つの民事裁判は勝ってるんですよね。

服部:旧経営陣4人の責任を問う株主代表訴訟は、この前の夏に手続きが。株主側が「こういう経営でいいのか」って強く訴えていました。これにはさすがに、「やっぱり駄目でしょ」っていう判決が出ましたよね。これまでに全国で提訴された集団訴訟は32件。原告の数はあわせて1万2000人で、東京電力のみを被告とした裁判もたくさんあり、裁判の数、原告の数は実際はもっと多いです。3月14日は岡山訴訟の判決が出ます。

里見:日本の法制度がおかしい。三権分立になってない。「こういう判決にしたら国が乱れるから、止めときましょ」という、そういう発想でしょ。現行重視。「3人」ともアウトにしちゃったら、経済が崩れるとか、そういうのですよね。忖度ですよ。それでは三権分立にならへんから、正すことなんてできへんよね。僕は「3人」が無実だったら、代わりを差し出せよと。国が責任を持って「こいつが悪い奴です」と。

服部:避難者の方が去年まで活用できた支援が、今年はもう、ごろっと制度が変わってできなくなってしまって。これも、どうしてできなくなったのかっていう部分の、つじつまがあわないっていうか。いままでは、わたしたちのところに申請していただければ、どの地域にいても支援が受けられるように運用してきたものが、急に今年は駄目だってなって。聞いた話ですが、支援が受けられず、故郷に帰るのが難しい障害者の方がいたと聞きました。

里見:人権問題ですよ。障害者はウロウロすんなよっていうわけでしょ。

服部:そうです。合理的配慮すらなくて。大変驚きました。人権感覚が麻痺しているのでしょうか。

毎月発行している『ほっとおたよりNEWS』。

コロナ禍では、日本全体が孤立・孤独の問題が顕在化しましたが、避難して新しい土地で
暮らし始めた避難者にとっては、地域とのつながりをつくりはじめていたり、
どうしても希薄なままの中のコロナ禍でした。孤立の度合いはさらに高い状態でした。
ほっと岡山はおたよりを毎月発行し、困った時はいつでも相談できるよう情報発信をしつつ、
避難者とのつながりを絶たない工夫のひとつとして、毎月のおたよりに『つぶやきカード』を
一緒にお送りしました。手にした避難者の方が、ささやかな日常の様子でも気になることでも
気軽につぶやけるカードとして「手紙」のかたちでつながりの機会をつくりました。(服部)

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