【対談企画】避難者がいなかったことにならないために。
−「ほっと岡山」代表理事・服部育代×『コトノネ』編集長・里見喜久夫−

つながりをつくる、つながる場を守る

全国各地に避難した方たち同士のつながりを保つ、「再会交流会」を実施しました。
横のつながりを持つことで、「一人じゃない」感覚を感じることができたり、
避難した先で感じたことや俯瞰して見えてきた共通の課題なども共有。
同じ避難元の方同士では、はげましあいの機会にもなったと感じます。(服部)

里見:これから、どういうふうにされていこうと思ってるんですか。

服部:課題もどんどん変わってきますでしょう。本当に人それぞれだと思うので、その人その人に応じていくっていうことをできるだけやっていきたいと思うんですけど。何か支援物資をお渡しするとか、具体的なことっていうのは、ニーズが低くなってきてます。

里見:そうなんですか。

服部:はい、そう思います。コロナでまた困窮度合いが高い方たちも出てきたので、サポートするのはもちろん継続していく必要があるんですけど。やっぱりいちばんは孤立している方、地域の中でつながりを築くのが大変だったりとか、あまり周囲との関係性がない方が支援を必要としているように思います。適当な人間関係、PTAとか職場とかそういうのはあるけど、あまり親身になって話せる交流がなかったとか…。孤独の問題ですかね。そういったものもやっぱり長く感じるなって思うんですね。だから何かを具体的・物理的にどうこうするとかっていうよりも、その人がいまいる岡山だったりとか、ゆくゆくは戻る避難元だったりとか…。

里見:戻る可能性はあるんですか。

服部:あると思います。そのとき、ご自身で決定していく力をいっしょに育みたい。それは、やっぱり1人ではなかなか難しい。いろんな方たちと、折り合いって言ったらあれですけど、でこぼこを調整しながらっていうことが大事なのかなと思うので。そういうのを補助したり、お互いに練習できるようにしたり。

里見:相談相手になっていくっていうことですか。

服部:そうですね。お話しを聞いたりとか。わたしが全てじゃなくても、当事者同士で話したりとか。やっぱり話す、言語化するって、すごく重要だなと思ってて。何かをあげるとか、与えるとかのDOの方向性よりも、いっしょにいて、「そうだね」って言ってみたりとか、「そうじゃない」って言ってみるとか。そういったところを回復し続けるというか、そういう役目なのかなと思っています。

里見:どうしても家族の関係に立ち入っていくんですかね。奥さんとご主人の考えが違うとか、おじいちゃんとおばあちゃんで違うとかね。子どもも、ちょっと大きくなってきたら、「もう、ええよ」と言えるし。10年たてば家族の中のこともね。

服部:あります。特にシングルペアレントだったりとか、避難の後に離婚した方ですね。特に母親と娘、母親と子どもの関係性を今後どうするのかって話は、ここ1、2年出るんです。子どもたちの健康を心配して、子どもたちのために避難した。でも、その子たちは成長してやっぱり地元に帰りたいとか、全然違う場所に行きたいとか、独立していきます。それが受け入れがたい親もいて。「わたし、あなたのために来たのに。なんで、わたしだけここにいるの」って、立ち止まる方もいます。

里見:「わたしはもう、人生を捨ててきたのに」というような気持ちですよね。

服部:全然関係のないところ…岡山に1人で残って、「あれ、わたしなんのためにここ居たんだっけ」っていう言葉が、ここ2年ぐらい出てきています。岡山だけじゃなくて、北海道のお母さんともそんな話になりました。それをテーマにした交流会もしましたよ。もう、マイノリティの中のマイノリティですよね。いろんなニーズがあると思うんですけど。関係性もいろいろ変化するので、やっぱり受け入れがたいという…動揺したり、葛藤を産んだり。
だからやっぱり、時間がかかると思うんです。阪神淡路の被災者の方からも、いまだにいろいろ聞きますし。話を聞く・しゃべる場所を守るっていう形で避難者支援を続けていきたい。そういう関係性に着目したようなサポート、ようするに「場」を守ることですよね。そこは細く長く保ちつつ、岡山の災害のためにっていうことをできるようなNPOになるといいなと思っていて。わたしがそこにいなくても、続いていって欲しいなと思う。

里見:ところで、真備の「まびラボ」の多田さん(特定非営利活動法人岡山マインド「こころ」代表)はつなぎましたっけ。

服部:知ってます、いっしょに会議に行ってますよ。真備の被災者見守り支援研修に、わたしも月1で行っていて、在宅避難者部会でもいっしょなんです。今日も、「東京に行くんですよ」って言ったら、「えー!」って言ってました。

里見:そうなんだ。いっそこの際、いろんな障害者施設と組んでみたらどうですか。いま、多田さんが水害にあったところで連携した活動をやろうというお話になってるんですよ。それで熊本の水俣、人吉や、真備と福島。4カ所で合同のシンポジウムができればいいな、って、多田さんたちは言っています。

服部:いいですね。個別避難計画を本当にやらなきゃいけなくなってきていて。国から県、県から市町村、市町村は地域に丸投げしてるんですよ。みんな、地域が悲鳴あげてて。
わたしは岡山市の防災講座の方でアドバイザーとして出たりするんですけど、そういった地域の人たちに会うんですね。「こんなのやれって言われた」って。民生委員って、もう70歳の方とかで、「障害者の人ってどうやって助けるんだ」とか、もうちんぷんかんぷんで。その計画の研修とかに、わたしも参加させてもらっているんですが、実際に障害者の方が「こんな計画、わたし本当に逃れると思わない」って。そういう生の声があるんだけど、周りは「あの人、なんかまた要求してる」みたいなふうにしか言わなくて…。だから、その人も言えなくなって。でもそんなこと言ってたら、災害になったとき助からないと思うんです。障害者の問題は、本当にやっておかないと大変なことになる。普通の方、一般の方にこそ、そのシンポジウムは聞いてもらいたいですよね。イメージをしてもらいたい。

里見:研修って言っても、だいたいがお金出して大学の先生に講演させてとか、そんなんで終わるんですよね。

服部:そうなんです。実際はそうならないんだよ、と思ってます。

里見:いまやったら、ペットは連れて行ってもええのかとかね。そういう問題もあるよね。これ、実際には連れて行かれへんのですよね。

服部:そうなんですよ。研修に出ても、モデル的な進め方をなぞるだけで…。「こんなの、できると思えない!」「いやいや、まずここで一波乱あるでしょ」、みたいな。まず、受け入れるかどうかだって…。避難所に来ても「入らないで」とか、「あなただけが特別じゃない」とかね。そんなことはもう散々じゃないですか。逃げたくなくなりますよね。

里見:多田さんが言うには、「1カ所だけで言うてても、それは消えてしまいます」と。でも4カ所、5カ所がつながったら、それはムーブメントになる。そうなったらマスコミも動くと。つながりを生かして、4つの場所で活動を起こしていこうという話で、いま多田さんはその方向で動いてるんですよ。そこに障害者とか、避難者とか、いろんな人が入ることができたら…。

服部:さっそく言ってみたいと思います。何て言うんですかね、少数者というか、社会的弱者と言ったらあれですけど、そういう方達とやっぱり価値観を共有できると思っています。どうしても外されちゃう側なので。

里見:そうそう。どこか、楽しんでやっていくことができればいいね。避難した人、障害者の人、水俣の人、いろんな人で、まずはなんでもいっぺんやってみたらいいんじゃないかな。

服部:さっきの「最後の1人まで」の発想だと、困難を解決するための答えを持ってるのって、「弱者」の方だったりすることもいっぱいあると思うんです。その視点を持っていれば、「そういうことじゃん」って。そういうことっていろいろあると思うので、やっぱり当事者に当たりなさいよっていう。勝手に決めていかないで、ちゃんと当事者を入れて、子どもだって、外国籍の方だって、女性もそうです。なんか、そこなんですよね。

里見:そうですね。最後に、なにをクラウドファンディングでいちばん望んでますか。

服部:関係性に着目した「居場所」を、やっぱりいちばん最後まで大事にしたいなと思っています。まさに場所、いまのスペースを少しでも長く、守りたい。だから家賃ですね。この場所をキープしたいっていうのがいちばんです。ボランティアも、みなさんが集えばできる。これも場がないと難しい。コロナ禍で、オンラインっていう違う空間も使えることはもちろんわかったんだけど、ご年配の方たちが等しくオンラインの世界でやれるかっていうと、正直厳しかったんですよね。岡山は山の方に行くと、全然電波がとんでないし、インフラがまだまだ追いついてなくて。やっぱり顔を合わせてっていうのを、工夫しながらでも続けていきたい。ここに来たらば、誰かに会える、誰かと喋れる、そういった場所ですね。それで今回のクラウドファンディングは、そこをいちばんメインに。

あともう1つは、「避難者がいなかったことにならないために」っていう言葉を皆さんおっしゃるので、それを前面に出しました。皆さんが話してきたこととか、記述してきたこととか、何かしら表現したこと、存在を表すものをちゃんと蓄積しておく場所が必要だなと思って。「つむぐ」もそうですけど、ああやってちゃんと残しておく。行政が「丸めちゃった」言葉じゃなくて、生の、そのままの言葉をちゃんと残す。岡山の避難者だけじゃなくて、それを一括で集めているところが、いまはないんですよね。
わたしたちもまだまだ足りないんですけど、それを集めて、原発避難だけじゃなく、自治体を外れていくとどれだけ暮らしが大変か。住民票の問題、選挙権の問題、ワクチンや給付金支給の際も問題になったのですが、どこに住んでるかで紐付けられてるので、それを外れると不利益がたくさん出てくる。そういったことや、広域避難の教訓をちゃんと次に伝えるようなことをやりたい、やっていきたいと思って。まだまだ力不足ですけど。次の災害が来る前に準備しはじめないと。

里見:やることいっぱいですよね。そしたら、皆さんにお願いすることは…。

服部:はい、つながり拠点の維持がいちばんですね。死守したいっていうのが、強い願いです。

里見:いまの活動の記録もちゃんと残して、後世に残したい。

服部:そうですね、次の災害にも生かしてほしいなと思う。

里見:これは大きな問題ですよね。必ず、また災害は起こりますからね。

服部:起りますよね。コロナだってそうだと思うんですよ。そのとき、やっぱり「あんた我慢が足りないでしょ」とかそういうことじゃなくて、困っている人がいたら、困ってる人の話をまず聞く。自己責任とかそういうことじゃなくて…。これが、やっぱり大事なことだと思うんです。

里見:そうですよね、ありがとうございます。

昨年からはじめた「ぼうさいカフェ」。

地域の方たちと岡山の災害を考えたり、個別避難計画について、障害者、高齢者の
当事者の声を聞いたり、作成する側の苦悩を聞き合ったりしています。
過去の災害や季節に応じた防災について話題にすることも。
いつでも立ち寄れて、その人その人の防災を一緒に考える場、
防災グッズを手にすることができたり、ハザードマップを一緒に確認したり、いつもの日常に、
防災に触れることができる拠点に育てていきたいと考えています。(服部)

一般社団法人ほっと岡山

●2023年3月14日(火)までクラウドファンディングを実施中! 詳細はこちらから。
●賛助会員(継続寄付)、寄付金も募集しています。詳細はこちらから。

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