『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク①

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第1回】まず、親の立場から、農業のよさに気づきました
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撮影/岸本 剛

畑でたのしそうに、
障害者が働いている

里見:今日は、ありがとうございます。吉田行郷さんをはじめ、自然栽培パーティの理事長・磯部竜太さん、副理事長の杉田健一さんも加わっていただいて、農福連携の現状とこれからを話し合っていきたいと思います。

まず、農福連携の始まりについて、吉田さんにお聞きしたいのですが、研究を始められる前に農福連携の実態はあったんですか。

吉田:わたしたちが研究を始めたのは2007年頃でしたが、白鳩会とかが既に農業をやっていました。

里:障害者福祉施設で、障害者がすでに農業を始めていた。

吉:そうですね。農業で障害者をいっぱい雇っている「京丸園」もあった。
でも、まだ点でした。ポツンポツンと事例が全国に10ヶ所くらいあるという感じで、まだ点的な存在でした。そこで、興味を持って調べてみたら、もっと出てくるような予感がして、実際に沢山、実践されている人たちに出会いました。

里:何か期待するものがあったわけですか。

吉:うちの子は自閉症があって、当時7歳でした。当然将来のこと考えますよね。この子ちゃんと働けるのかな、やれる仕事があるのかな、って。仕事をしない障害者の人たちもいるみたいだから、この子は大きくなったら仕事をしないのかもしれない。でも、するとしたらどんな仕事をするんだろうって、日々考えますよね。福祉施設に見学にも行きました。

ある施設では、暗い雰囲気でみんながずらっと並んで、箱折って、黙々と…。なんかここに息子を入れるのはかわいそうだな、と思うわけですよ。そんなときに、テレビで、元気でニコニコ農業やってる障害者のみなさんを見ちゃったわけです。偶然でしたが、ああ、これいいじゃない、って…。もっと他でもこういうことをやっているのだろうか、と思って、研究をはじめたのが最初でした。

濱田健司さんが既に農福連携の研究を手がけていたので、どこ行ったらいいですか?って訊いたら「まずは京丸園ですかねえ」と言われまして、京丸園に行きました。最初にテレビで見たのは横浜のグリーンというところだったんですけど、京丸園へ行って、グリーンにも行って、こころんにも行って、いっぱいいいところあるじゃない、みたいになってきて。

里:元気が出てきますね。

吉:当時、きょうされん熊本支局におられた宮田喜代志さんを通して、きょうされんに持ち掛けて、全国アンケートをしてもらいました。すると、回答してくれた施設の4割が農業していたという結果がでた。びっくりしたわけですよ。4割ってすごい数字じゃないですか。

半分近くの施設が農業をなんらかの形でやってるとわかったので、これはちゃんと実態を知らなければって、なりました。

特に都会の福祉の関係者は農業なんて関係ないと思ってる人が多いから、「全国の4割の福祉施設が農業やってるらしいですよ、ちゃんと実態を知っとかないといけないんじゃないですか?」って、福祉関係者に話をして、農業関係の人には、それぐらい沢山農業に入ってきてる福祉施設があるみたいですよ、って話をしたのが最初ですね。

*濱田健司さん。一般社団法人JA共済総合研究所主任研究員。1969年、東京都生まれ。東京農業大学大学院修了。農業経済学博士。農の福祉力、障害者就農、農福連携などについて調査研究。

 

農業は小さいままでもできる、
大きく育てることもできる

里:そのころには「農福連携」という言葉はないが、実際の活動は生まれていた。

吉:いや、「農福連携」って書かれた紙は見た記憶が残ってます。京丸園に対する調査で静岡に行ったときに、鳥取県庁が作った資料が調査先に置いてあって、「農福連携なんとか事業」(農福連携モデル事業)って書いてあった。

最初、ぼくらの研究所では農業と福祉の連携」って呼び方してました。あるいは、農業と福祉の人がタッグ組んでるといった言い方をしていました。農業の人は福祉をわからないし、福祉の人は農業がわからないから、タッグ組まなきゃいけないんで、連携が必要ですね、そういう話を最初の研究成果の報告書で書いて、2010年12月にプレスリリースもしました。そのときに、「農業と福祉の連携」って長ったらしいから、「農福連携」でいいんじゃないか、となって、僕らが使いはじめたのはそこからですね。

その翌年から「農福連携チーム」って研究チームの名前をつくって研究を続けてきました。でも、歴史的にはたぶん鳥取県が最初ですね。

里:濱田さんがネーミングしたんかなと思っていましたが。

吉:カタカナの「ノウフク」っていうのを、濱田さんと林さんとが組まれて作られて、それを広めてくれて、普及・定着させてくれました。2017年に、福祉系の雑誌「サポート」に、農福連携という言葉の紹介をして欲しいと頼まれて、いい機会だからと思い、文章で使われ方の経緯を整理してみて、濱田さんら関係者にも、農林水産省の担当課にも見てもらって、じゃあそれでいきましょうとなりました。

僕らが研究をはじめたのは13年前なんで、その間に農福連携という言葉はいつのまにか定着していた感じです。農林水産省も、最初は「医福食農連携」という言葉を使っていましたが、いまは「農福連携」という言葉を使っています。

*林正剛さん。NPO法人HUB’S代表。濱田さんとともに、農福連携の普及活動に貢献。

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撮影/河野 豊

 

里:農福連携って、かなり知られてきているのですか。

吉:どのぐらい認知されてるんですかね。言葉は知ってるけど、って人もいるし、はじめて聞いたって人も、まだかなりいますよね。

磯部:福祉業界でも、言葉を知らない人もまだ多いかな、まだ。半分くらいかな。

杉田:そうですね、半分は知ってはるかなと思いますけど。聞いたことあるねん!みたいな人はけっこう多いです。

里:いま福祉施設で、農業を主たる事業にしてるところはどのぐらいあるんですか。

吉:統計データはないです。「きょうされん」のアンケート調査では、農業部門が収益上最大か、副次かは訊いていて、合わせて23%という数字があります。

里:それはいつごろの調査なんですか。

吉:2010年です。その時点では、農業が収益部門になっている施設は多くはない。先のアンケートでも、農業部門が収益上最大と回答している施設は5%強でした。まだまだ片手間で農業みたいな。農業もしてみるかなーみたいなところが多かった。その時点で、農業をメインにしている社会福祉法人というのは、先に紹介した白鳩会とか特殊なところぐらいだったんじゃないですかね。

磯:「主」でやっているところは全国で数例じゃないですか。「主」っていうとらえ方も難しいですね。農作業の規模は庭先程度でやっているものでも、それ以外に仕事がなければ「主」って言えちゃいますし。そういう「主」をのぞけば、愛知県では3か所くらいですかね。

里:「主」いうのはどういう条件でしょうね。

杉:売上の半分以上とか?

吉:あとは人数。利用者が18人いて、10人でやってるとか。

磯:アンケートだとなかなか読み取れないですけど、月額工賃500円で、利用者1人、主たる作業は農業っていうところもあります。

吉:山梨県の八ヶ岳名水会という社会福祉法人は、最初は農業してなかったんです。それが、いつしか、農業メインかなっていうところまで来ちゃって。仕事を受けているうちに、でかくなってくるパターンはありますよね。こころんも、設立当初は農業をしてませんでした。まだ発展途上にあると思うんですけど、彼らのやっている農業部門はどんどん広がってるじゃないですか。もう数年して、養鶏も農地面積も拡大していけば、絶対農業が主になりますよね。

杉:最初のときに農業だけって決めてスタートするのは、そうとうハードル高いんです。土地の手当てもしなければいけませんし…。うちは最初に農業を決めてやりましたけど、けっこうきつかった。他の仕事を持ちながら農業もして、ちょっとずつ農業の方が主になっていく方が主流ですね。

里:福祉と農業の兼業。さらに、農業を核に兼業をひろげる。兼業を重ねていくのが、農福連携のコツですかね。

第2回(2/28金)へ続く>