『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク②

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第2回】親から引き継いだ畑は、「障害者に任そう」
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撮影/河野 豊

農業から福祉を目指した人
福祉から農業に入った人

里:最初から、福祉と農業の経験がある人もいるんでしょうか。

吉:林博文さん(特定非営利活動法人ピアファーム理事長)は、独立される前は、Cネット福井の施設のひとつで働かれていて、そこで梨の作業を受託していた。手伝いじゃつまらないから、農業中心の福祉事業所を立ち上げたいって言って、農地を貸してください、賃貸契約にしましょうって形に持っていかれて、農業をはじめている。

そこはお手伝いしている長い間があるから、そのときに農業技術も習得された上で、農業を始められています。でも、社会福祉法人くりのみ園の島津隆雄さんは、いきなり農業やってるんですよね。近隣に自然栽培をやってる農家がおられて、その人に背中を押してもらい技術指導も受けられたそうです。

里:島津さんの発想がおもろい。大きな農家をしたかった。別に障害者福祉をやりたかったわけではない。

吉:マインド的に農業っぽいですよね。福祉の人って感じしないですよね。

里:杉田さんの場合は、いきなり農業でしたね。

杉:最初グループホームをやっていました。うちの父が倒れたから、農地を任された。どうしよう。困った。自分でやんのん、嫌やなと思ったんです。そうや、作業所だ!って、障害者にやってもらおう(笑)

磯:そんな動機ですか(笑)

里:いや、杉田さんらしい(笑)

杉:うちの親父が、心臓弱くして、急に弱気になって、「ああ、息子よ、あとは頼んだ」って。心臓の手術を受けるだけやのに、もう死ぬみたいなこと言いはって。「どんだけ田んぼあんねん」って言ったら、たかだか五反。ビニールハウスもあるから、作業所でしたらいいって気が付いて。

里:なるほど、作業所にして、シンドイことは障害者にやってもらってと…(笑)

杉:言い方やらしいですね(笑)。みんなで関わる畑がええなあと。もともと入所施設で働いてたときに農業やって、おもしろかったので、これやりたいと。それでB型作業所おもやができました。

里:誰が農業を教えたの?

杉:うちの父が、ちょいちょい教えてましたけど、いろんな人に聞きまくって、勉強して、自分が教えてました。

吉:そういう人もいますよね、実家が農家だったからって。

杉:そのパターンは、これから増えてくると思います。

吉:どうせやるなら、おもしろい農業したい、って人にはいいんじゃないですかね。

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撮影/河野 豊

歌を歌いながら、しゃべりながら、
みんなとやったら、おもしろい

里:結局、障害者の人といっしょに農業してみて、どうやったんですか、杉田さんは。

杉:前の入所施設では、けっこう重度の障害の方も農作業をしていました。みんなできると思っていました。

里:重度いうのは、身体?

杉:知的障害の方でした。スコップで土を起こす作業とかも、スコップに足をのせてぐっと入れるのって、けっこう難しい。でもそれが、何回もいっしょにやってたら、できるようになっていました。

体のバランス感覚とか、両足の体重移動って、発達の中で絶対大事なことで、畑の中で身についていければいいなあと思っていました。一連作業の中で、何度も繰り返して流れがわかるようになったら一人でできるようになる。そして出来たら楽しくなる。

障害が重い軽いよりも、農業やりたい方募集ってスタートしました。

里:農業するようになったら、いろんな機能が回復するんですか。

杉:わかりやすくできることが増えた方もおられます。もともと養護学校(特別支援学校)で、この人は体力だけが自慢ですから、と来られた人が、「ぼくはジャムづくりがやってみたいです」とか、意外と種まきとかもしたいとか言いだして。力あるから不器用やからって農業って言ったけど、農業っていろんな作業があるから、種まきとかもやってみたかったみたいで。

学校では向いてへんって言われてたことが、力作業はもちろんのこと細かい作業とかもするようになって、今はおもやキッチンで働いてます。全然ちゃうとこ行ってるやん!って思いますよね。これが、農業のおもしろさ。

里:杉田さんは農業やるのがおもろいんですか、それとも障害者といっしょにやるのが、おもしろいんですか。

杉:いっしょにやるのがおもしろいですね。ひとりでやるのもええんですよ、家庭菜園とか。でも、僕は飽き性なんです。1時間ぐらいで、ハーしんどってなるんです。

でもみんなでやってるときって、しゃべったり、歌をうたいながら「もう何やってんねん、おもろい歌うたいやがって」とかって言いながらやると、しんどいのを散らせるというか。今日天気ええし、上向いて、5分みんなで休憩~とか。そういうのができるのは、みんなでやってるからかなあ、と思いますね。

吉:じいーっと人が農作業をしているのを見てて、ある日突然できるようになる人もいるでしょ。

磯:それは多いですね。

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撮影/岸本 剛

育っていく姿を見ていると、
何か、かかわりたくなる

吉:やりたいことは見てて、やろうっていう気持ちを高めてくんじゃないですかね。

磯:興味は湧くと思うんですよね、農業って。自然のものじゃないですか。育ってくものを見てると、なんか関わりたくなるような感じになったり、風で葉っぱがウワーとなってたりとか、自然って刺激があると思います。

この前みんなで植えたけど、あれどうなるのかな、あ、抜けた、ダメになっちゃった、とか。そういう自然に動かされる仕掛けっていうのが、理屈じゃわからないんですけど、感情が揺さぶられるポイントみたいなものが、ある。

施設の中だとあんまり座ってるとまずいな、と思って、色々やらせようとするんですけど、畑の中で座ってても「気持ちいいでしょう」とか「寒いね、こっちおいでよ」とか。自然の中って、座ってる人をも認められる。別にそれに「あー、座っちゃってるだけじゃんこの人」とか、あんまり慌てないんですよね。隣に行って座って、お茶だけ飲んで、「どうですか今日」とかね。そんな関係が築けて。だから、観察できるチャンスも奪ってない。

普通座ってるだけだったら、「ちょっと施設へ帰った方がいいんじゃないですか」とか、言ってしまう。でも農業というフィールドだからこそ…。昔の自分たちだったら、もうこの人ここにいても意味ないなとか、生産性ないってなってたかもしれない。でも、いまは、そういう感じで変化も見れてますし、長い目で見る心が、自分たちの中に出てきたかなあというのは思います。

里:じゃあ、僕がここ(室内)へ座って、ボーッとこないしてるのと全然ちゃう?

三人:違いますね(笑)

杉:やっぱり畑で寝て、土に近づけたら、この時点で生き物おるんで、バッタが今おんぶしておるとか、ここに草もあるし色んな人がいるから、それだけで、もう、ゆったり環境に身を任せてしまう。

里:指導者や仲間は、どう思うの?何もしてない人を見て。

吉:何かするわけじゃないけど、ウロウロしただけなんだけど、いいじゃん調子よくなかったんだからって。そういうおおらかな受け止め方もあるみたいですけどね。

里:どうして?室内の壁の中なら、言うのにね。

吉:やってる仕事が楽しいからじゃないですか。仕事に気持ちが行ってるから、ふらふらしてる人がいても、とか気にならない。

第3回(3/3火)へ続く>