『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク③

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第3回】田んぼや畑には、「意味のない人」はいない。_23_PKY17617_0130
撮影/岸本 剛

同じ寝っ転がっても、
室内と戸外では大違い

里:同じ仕事でも、戸外と室内では、はたらく人の心理がずいぶん変わってくるのですね。

杉:室内にいたら、すごくできてへんこととか気になるんですけど、外に出たら外見るから、人のことはあんまり気にならなくなりますよね。

磯:畑にいたら、ある程度自然体で接することができて。
ちょっとうちの「困ってるグループ」があったんですよ。施設の中で奇声を上げるし、鉄のロッカーに囲まれたところで内職作業やっていて、職員も、「もう無理です、お手上げ状態のグループ」でした。

こんな重度の人たちを俺らは支援してるんだよ、って雰囲気になっちゃうんですよね。被害者心情ですね。その班のてこ入れをずっとやってたんですけど、状態は変わらない。

思い切って、作業場所を変えたんです、外に。草むらの上でやったらどうなるんかな、と。そしたら急に職員が、「めちゃくちゃ楽しいです」と言い出しまして。外で寝転がってる人もいるんですよ。障害者のやっていることは何も変わらない。室内で寝転がってる人は、ちょっと「うわっ、なに?」って感じだったんですけど、草むらの上に寝転がってたら「いい活動やってるな」みたいに感じる。職員の心が、自然の中だと受け止め方が変わってくる。

里:障害者は変わっていない。職員の感じ方が変わる。

吉:人から聞いた話なんですが、とある特例子会社で、室内では、自分に何言われてるか気になっちゃって仕事にならない子が、農場に行くとのびのびやれるらしいんです。そういう解放感みたいなのが、みんなにあるんじゃないですかね。人のこと気にしない。

室内では、わたしよりちゃんとやってるとかやってないとか、気になってたのが、外に出ちゃうと関係なくて、自分が気持ちよけりゃいいやって。

里:人と競争をしない。だから、人と比較もしない。人が気にならない。自分も思い通りにできることにつながっていく。

磯:そういう効果はあると思うんですけど、昔の自分だったら、そうじゃなかったな、畑やっていても。

今週、日曜日、名古屋の子どもたちがうちに芋ほりに来たんですよ。これからスナップえんどう植えるために、いったんきれいに耕起したところがあって、さつまいもを三畝だけ残していたんです。で、子どもたちに、こっちは入らんでねって言うところです。昔だったら耕起したところをあんまり走り回られたら、「ちょっと踏み固めるなよ」とか、言っていました。最近そういうのが気にならなくなった。さつまいもの畝とか歩き回ったりしても、いちいち止めなくなった。自分も少し変わって来たかなと思いますね。

自然の中ではルールはない。人間のつくったルールなんかつまらない。そんな気にさせます。農福連携やって、職員が変わるんです。ときどき、無門さんなんでそんな重度の人も農作業やってるんですか、とか言われるんですけど、みんなが成長したというよりも、職員の心構えが変わったっていうのが一番大きいかなと。

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撮影/岸本 剛

障害者を管理するんやない、
いっしょに農業をすればいい

里:職員がラクになるんですね。管理の負担が薄れる。おおらかな気分になる。何を細かいこと言うてんねん、という気になって、いっしょに過ごすような気持になるんでしょうね。

社会がとても息苦しい、その空気を吸って職員も息苦しい、その息苦しさを受けて、障害者はもっと生きぐるしくなる。ほどく順番は、障害者ではないですね。

杉:僕も、よくわかる。最初は、たくさん実らせなけりゃいけない、いいものいっぱい売らなあかんっていう焦りがあった。成果に焦りがあったら、スタッフを焦らすことになっちゃうし、スタッフの焦りは、いっしょに働いている利用者さんに行くんです。だからやらなきゃいけない。寝転がってたら「なに寝転がってんねん、こんなときに」てなって、全部悪循環になっちゃうんですよね。

焦ったときにやることって大体失敗しますよね。焦って種まいたら大体失敗する。いまやってることをいかにして楽しむか。楽しんでやったものって、その後絶対に良くなるっていうのを、何年かやってたらわかってきます。スタッフが楽しんで余裕持ってやるってことは、最終的にいちばん影響受けるのはメンバーさんやから、メンバーさんにいいようにってなったら、スタッフがちょっと心のゆとりを持って楽しんでもらえる環境をいかにしてつくるかっていうのはすごく大事やなって、ここ2、3年ずっと思ってますね。

磯:いままでは僕たち、やっぱり障害者っていう人は支援の対象で、「なんとかせなあかん」って仕事の場をつくる、っていうスタンスだったんですよね。でも農業の魅力にはまって、みんなが福祉っていうより農業をやろうと思ったときに、心が変わったことに気付きました。何をやらせようっていうスタンスよりは、いっしょにこれをみんなでやっていこうぜ、ってなったときに、考え方とか接し方が大きく変わった気はしましたね。

吉:福祉施設というか、授産施設の下請け作業って、もともとそうですよね。せっかく預かってるから、昼間何かやらせること見つけなあかんってときに、何もしないよりいいから安い下請けでもやるかって、仕事をやりくりして作る。だから、仕事が楽しくないでしょ。でも農業は、自分でつくって売ったり食べたりするから、そこに楽しさがあるじゃないですか。その差はすごく大きいのかなと。

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撮影/岸本 剛

豊かな農業と、
貧困な農家

磯:農業って本当は楽しいんですよね。向き不向きってあると思ったんですけど、うちは幸い全員活きるんですよ。花形事業っていうのもあるかもわからないですね。たしかに一から十までやってると、役割はたくさん、一個の内職作業よりはあって、みんなも関われますし。

農家さんってほんとみんな、「農業っていいよ」なんて一言も言わないですよね。孤独ですし。でも、そんなに大変かな。ほんとうは楽しいところあるじゃないですかって、言っちゃいけない世界になってますよね。楽しいことが罪悪でもあるような雰囲気がある。言ったら絶対怒られる、なめてんのかって。

だけど、やっぱりそこの価値観ちょっと変えないと。これはオフレコですけど、うち1.5反に、大根とカブをまいたんですよね。野沢菜もまいたんです。全部うまくいってるんです。めちゃめちゃ美味しい。種代は数千円しかかかってない。何千円の世界で、畑一面こんなに採れて、カブでみんなでバーベキューやったりとかして、楽しむ。

生産性もすごい。じゃあ毎日草取りしてるかっていったら、たいして何もしてない。種まいて、その後間引きして、収穫してるだけなんで、賞味3日くらいしか働いてなくて。そら、お金にうまくつなげられますかって言われると、そんなに儲からないような気もするんですけど。これだけおなか満たせるし、生きる上ではいいと思うんです。

吉:農業の質を変える可能性をすごく感じる、農福連携って香川のマッチング事例なんかだと、農家のお手伝いに沢山の人がやってきて、ワイワイやって、ガーっと引き上げていく。今まで見たことない農業をやっているので、周りの農家も見に来て。すごい勢いで仕事終わっているのを見て、うちも頼もうかな、みたいな感じになる。いままでになかった農業が展開されていて、農家にうちもやってみたいと思わせるパワーがある。

アゲインさんって兵庫にある事業所では、農業大学校の卒業生を各班の班長にして、何年か働いた後に、農家として独立するかどうか訊かれるんだそうです。自分で農業してもいいし、職員として残ってもいいけどどうするって? そうするとだいたいみんな、楽しいから残らせてくださいってなる。農業の仕方が変わるっていうんですかね。孤独でつまらない、大変な仕事が、障害者といっしょにやると楽しい仕事になる。

里:その方式なら、新規就農者と障害者福祉の職員を同時に増やせますね。それも見事な人材の農福連携です。

第4回(3/6金)へ続く>