『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク④

no_fuku_zadankai_02_colum

毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第4回】障害者は農業から排除されて、地域からも排除された_32_p88_V2A0711
撮影/山本 尚明

座って、手をたたくだけ。
スズメを追い払うのも、仕事

磯:昔はたぶん農業って、もっと大勢でやってたんですよね。

里:歌とか歌ってね。

磯:ちょっとでも人のつながりができれば、収穫物の報告をしたりするんですよね。だからすごいつながりがある。顔が見える生産者みたいになってくるので、つながりが深まると、なんか農業ごと変わってきそうな感じがしてきます。

吉:昔は障害者も農村にいて、居場所があったんです。みんなで共同で作業してたから障害者にもする仕事があったけど、農家の一つ一つが独立して農作業を行うようになり、孤立化して、障害者の居場所がなくなって、しょうがないから家とか施設に閉じ込められちゃって。それは、共同作業がなくなってしまったのが大きいのではないですか。

里:農業が機械化されて、障害者も農作業から排除されて、村で暮らすことからも排除されてしまったんですかね。

杉:時給ナンボの世界に押しとどめると、障害者の農業の中での役割っていうのが急に狭くなりますよね。

磯:やっぱり、問題はお金ですね。

杉:ある利用者さんは、朝からめっちゃしんどくて、「もう帰ります」と言いに来たので、「せっかく電車乗って来たのに、なんで帰んねん!」と思って、帰るぐらいなら、「ここに座って、スズメが来たらパンと手をはたいて追い払ってくれ」と言いました。田んぼに田植え前の苗があって、網を外しててスズメが来る。「座って手をたたくだけやったら、できる」って言って、結局一日中やってくれました。おもしろいでしょ。

でも、それに時給として最低賃金(滋賀県の時給866円)5時間分払えるのかっていうと、急に無理やなってなるんです。でも、一日頑張って手たたいてみて、だんだん調子乗ってきて、遠いところから歩いてこう(パン!と)するようになった(笑)。その発想とか役割は毎日変化するし、常におもしろいことってあるんやと。農の仕事として魅力っていうのは、農福連携ってめっちゃあると思う。

里:農業はクリエイティブやけれど、おカネはついてこない。

吉:スズメに食べられなかった分の農産物をその人の報酬にすれば、みんな、気持ちがすとんと落ちる。

磯:野中さん(農業生産法人 みどりの里代表)のところとか、そうですよね。

吉:京丸園の鈴木代表も野中さんの話を聞いて感激して帰られました。お金で受託作業の料金を払う時に、高い額だとうちの経営上それは困る、安い額だと障害者の励みにならないみたいなことになっちゃうケースがあります。それがモノだと、すとんと落ちるんじゃないかなあと。

杉:得意分野ですもんね。イチゴつくってお金に換えるとなった瞬間に、すごく重くなる。

里:いままでのおカネ以外の対価を考えればいいんです。物々交換とか、物と作業や知恵との交換もありますね。

09_PKY13Z25_0065_1C
撮影/岸本 剛

農福連携は、
A型とB型で分業する

磯:時給はさまたげますね。自由な働き方がむずかしい。

吉:A型が向かないっていうのはそれなんですよね。A型はどうしても最低賃金をどうやって出すか、から農業に入るから、みんな焦っちゃう。

磯:今回、僕ね、自然栽培パーティ全国フォーラム(2020年1月31日滋賀県で開催)のチラシ、A型に配布しない方がいいのかなって思っちゃったんです。向かないよなって思ったんです。結果的にはよかったと思ったのですが、A型事業所は、最初の入り口で、お金が見えないとつまづくかなあと思って…

吉:人数が決まると、月いくら払わないといけないって決まっちゃうんですよね、A型は。それがものすごいノルマになって、楽しさがなくなる部分があるような気がしてて。農業はB型で、加工とか養鶏といった確実にお金が見えるような部門をA型にする、っていうのはいいと思うんだけど。

里:B型だったら、もうおカネを気にしなくてもいいから、A型、B型で農業を分業する?

吉:いいんじゃないですか。楽しければ、時給は少なくてもいい。でもって、稼げるところはどんどん稼げばいい。

里:なんか割り切れんとこがあってね。たとえば、ここに座ったままの人がいる。隣で仕事している人もいる。気になりますよね、僕は。田んぼでやってたら気にならないのか。おんなじことやってるのに、どうしてこっちは気になって、片方は気にならないのか。ボーっとしている人のために、お僕の給料減らされるわけではないのに。どうして、僕が気になるのか。

吉:まあB型の場合だと、この人が稼がない分全体の売り上げが落ちて、みんなの工賃が下がっちゃうっていうのはあると思います。

里:自分に響くからですかね。

杉:響くのは響くんですけど、でも言わはる人はそんなこと気にせんと思いますね。全体の売上の中で、人数分で、っていう基本のところと、頑張る人には別で出す、っていうのがうちのやり方ですけど。

吉:頑張ればそれだけ余計に工賃が出るからな、ってみんな思って納得できるのかもね。

杉:いまおもやでは、もめたりするのって昼ごはんのときとか、休憩時間なんですよ。作業に入ると、みんなそれぞれの持ち場でやるから、もめごとはない。あえて言えば、お手洗いの時ぐらい。

里:じゃあ自分の作業に満足してるわけですね。

磯:人がそこにいて、気になるっていうのは、教えられたルールに沿ってないっていう話だと思うんですよね。自然の中にいると、それはダメだとかはあんまりなくなるんじゃないかなと思います。

里:ダメって言われたことを、俺もほんまは嫌やねんけど、守ってんねやで、お前なんで嫌なことを守れへんねんと、それで腹立つのかな。

吉:人の幸せは自分の不幸みたいな。

杉:それはありますよ、価値観の押し付けみたいな。

磯:会社で職員見てて思ったんですけど、利用者への接し方が悪い人とか。仕事上はちゃんとやってる雰囲気はあるけど、愛情がないなとか。法人が農業やってくぞ、ってときに、農福連携ってつまんねえな、という人は正直困りますよね。

その方には、20何万の給料は出せるんですよ。でも、いつもニコニコ、重い荷物を一生懸命運んでくれる利用者のAさん。なんの害もない、むしろいっしょにいて楽しい。この人には、20万円はとうてい払えないですよね。これってなんなんだろうなと。ほんとにお金なしでどっちといっしょにいたい、っていったらAさんなんですよね。

大学卒業した問題職員が20万円で、Aさんに20万円払えないの、って話なんですけど。変な社会の決め事に、洗脳されちゃってる感じがします。

里:仕事そのものの生産だけでなく、障害者の組織における貢献が話題になりますね。自然栽培パーティはこのエビデンスづくりに取り組んでいきたいですね。

第5回(3/10火)へ続く>