【梶原真智 連載コラム ワンハンドキッチン】自分リズムのスコーン

onehandkitchen

自分リズムのスコーン

ないならつくるの精神はハンデが磨く。
今では片手でほとんどのこと、やっていますが両手を使っていたころにしてみると、時間も手間もやはり必要です。そして何より思い知るのはこれまで以上に体力気力が持たないこと。要領よくはなったけれど、細かい動きは全身運動にもなって思いのほか、疲れてしまう。ハンデを持つようになってからの、いわゆる「あたり前の生活」は、1.8倍位早くて、3.6倍位もどかしい感じです。上手く言えませんが、けして倍のマイナスじゃない。ほんの少しだけは自分努力を加味してもいいかな、とは思うのだけど。

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明日を生きていくためには、食べる過程は重要です。そんなこと、言われなくてもわかってる。だけど、自分のために頑張るばかりじゃなくて、つかの間の休憩が欲しいときもある。ある日そんな気分でぼんやりしていたら、急にいい香りがしました。香ばしい小麦の、胸いっぱい吸い込みたくなるような、ふっくらあったか焼けたパン独特の、誰もを瞬間幸せにするのあの香り。顔をあげるとそこには、公園に到着したばかりの移動販売パン屋さん。いいなあと近くにいこうとしたら、その時はこう声をかけられました。「車いすの人は来ないでね」「お店に人に悪いでしょう」「食べ物が汚れたら買えなくなるから」少し困った顔で笑いながら、だけどありありと当然と。今でもよくある話です。当事者にしか見えないカタチで、目線やしぐさを変えながら。こちら側とそちら側を区別するのは、カギのかかったドアや厚い壁でもなく、軽い優しい言葉です。

車いすでしか移動できない身としてはタイヤの回転なしには進めません。タイヤは確かにゴミや砂を巻き上げてしまう。それは変えようのない真実です。食事や買い物や仕事や生活の中で、大多数の前に我慢するのはあなただけで十分でしょ?と突き付けられる度に、あの時のパンの香りが過ります。
お金があっても売ってもらえない。私はパンが食べたかった。買えないのであればどうするか。力の弱くなった片腕に抱えるには大きすぎる課題のように思いました。だけどそもそもパンって、どうやって出来ているのか。材料は。発酵は。こね方は。焼き台は。頭の中で作りだしたら、気がつきました。
あ、なんだ、できるかも。

たしかにこれは、パンではありません。一番近いのはスコーンだと思います。でも、材料3つで簡単に作れてしまう自分リズムで覚えてもらえたら。みんなに優しい、美味しい時間を是非。余裕ある日の朝ごはんにも。

【材料】
グラノーラ、ヨーグルト、ホットケーキミックス粉

【使う道具】 
ボウル、フォーク、キッチンはさみ、滑り止めマット、クッキングペーパー大1/小1、オーブンレンジ

【手順】
①材料をフォークで混ぜていく。ポイントはグラノーラ:ヨーグルト:ホットケーキミックス粉を1:2:3の割合にすること。混ぜやすくするために最後にグラノーラを入れること。
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②クッキングペーパー(大)を鉄板に広げる。丸まる方向を下にすると広げやすい。
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③ ①を2つに分けて鉄板に置く。
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④クッキングペーパー(小)越しに手の形を利用して塊を丸くつぶし成型する。
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⑤キッチンはさみで半分のところに切れ目を軽く入れる
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⑥オーブンレンジで焼く。180℃で18分。
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⑦オーブンレンジから出し、冷ます
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辛そうな香りにドキドキするのはきっと強烈な口元の熱さが。
苦そうな香りに逃げ出したくなるのはきっと我慢の咳込む息が。
美味しい香りに微笑むのはきっと楽しい思い出が。
時間や手間が愛じゃない。
一緒に食べるは、奇跡の連続。
いただきます、ごちそうさま。
伝えているのはきっと毎日の当たり前への小さな願い。
今日も誰かの笑顔のために自分リズムのスコーン、出来ました。

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