【梶原真智 連載コラム ワンハンドキッチン】崖っぷちからの岩石たまご

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崖っぷちからの岩石たまご

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人は“衝動”の生き物である。
自分の体験からも、その通りだと思います。
ハンデ歴初の料理は「食べたい」という衝動からのスタートでした。実は再び料理を始めたとき、そこはキッチンですらありませんでした。ハンデを負った後の生活は決して穏やかなものではなく。生きづらさを抱えながらも国を出てパフォーマンスの世界に足を踏み入れてから、少しずつ少しずつ自信を取り戻していた時代に苦労したのは怪我でもなく言葉でもなく、実は食事でした。肉。ジャガイモ。強いスパイス。バサバサのパンに限度を超える甘いジャム。胃腸に自信がないわけじゃなかったけれど、さすがに毎日これだときつい。心の底から「和食」が食べたくなって。とはいえ材料もほとんどなくて。でも、何とかしたかった。そこで始めた試行錯誤が、今につながる発想の転換だったように思います。はじまりのメニューは「岩石たまご」。

たまごは丸くてはかなくて、中身を出すのに一苦労した食材でした。扱い上手なプロのように片手でパカッとふたつにできるなら理想だけど、そんなの無理に決まってる。高いところからボウルの中に落とすやり方は聞いたけれど、それだとたまご全体がつぶれてしまう。しかもその後からもっとストレスな殻拾いなんて、考えただけでうんざりでした。そこまでしては食べたくない。だけど、それまでたいして考えることなく作っていた様々な料理を見るたびに、「もうできなくなった自分」を確認もしていて。ほんとはこのままではいたくなかった。今の自分の片方の手で出来ることって何だろう。助けられるばかりの生き方なんてしたくない。だけど、片手の不便さを「わかるー」と、軽くいうのは両手を使える人ばかり。それは理解でも共感でもなくて、味わう心のざわつきに自分自身が嫌になる。情報を調べれば調べるほどに、自分にハンデがあることを突き付けられているような、そんな気分になりました。

だけどある日、ふと思いました。
割り方にこだわる必要なんて、あったのかな?用事があるのは中身だけなのに?
あ、もしかしたら、できるかも。

実は震災の時にも役立った簡単便利な方法です。なんとなく和食が恋しくなった時にでも一度、試してもらえたら。

【材料】
たまご、豆腐

【使うもの】
ビニール袋、グラス、広口の電気ポット(なかったらお湯をいれたコーヒーポット、蓋つきの小鍋でも)

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【作り方】
①ビニール袋をグラスの中に広げて入れる
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②たまごをビニール袋の中に割りいれる
※ポイントは「角」ではなく「平面」に打ち付けていれる「ひび」入れた「ひび」に沿うように親指・人差し指・中指でたまごを支えて持つ「ガマ口財布」を開ける要領で指でひねりをくわえながら「ひび」を広げるこの時にほんの少しだけ、たまごをあえて握るように潰していけるとベスト

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コトノネ
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③グラスから袋を出し、豆腐を入れて潰し混ぜる
※豆腐を容器から出す工夫については次回お伝えする予定です

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④ビニール袋の口をできるだけ空気を抜きながら縛る
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⑤広口の電気ポット(お湯を入れたコーヒーポット、蓋つきの小鍋)に入れて、保温で放置する。(ポット保温なら15分。蓋付き小鍋は極弱火で13分。)
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⑥ビニール袋から固まった中身を出す
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⑦食べやすい大きさに崩しながら皿にもりつける
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「食べたい」と思った時から実は料理は始まっている。
大切なのはこれからの「おいしい」をどうやって作っていくか、ただそれだけ。
これまでのやり方とは違っても、これまでの自分とは違っても。
やさしく素朴な味は再びの「食べたい」をゆっくりゆっくり満たしてくれる。
からだとこころに沁み入る味の岩石たまご、出来ました。

これまでのお話は、コチラ
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