【コトノネ編集長のおまけ日記】ついていたが、ついてなかった

コトノネ編集長のおまけ日記

どこにも行かず、ただボーっと過ごした、過ぎ去りし連休の思い出。

天気がいい日が続いた。ふと、嫁はんが、松本へ行きたいね、寄ってみたいギャラリーがある、と言った。松本に行ったのは何年前か。「蕎麦屋の三城(さんじろ)も、まだやっているかな。食べたいな」となった。「三城」は、事務所が半蔵門にあったころ、近くにあった。昼しかやっていない。昼前に開店して3時ごろにまでに閉まる。しかも、日本酒が1本付く、お決まりのコースだけ。松本で知らずに飛び込んだ蕎麦屋が、その三城だった。なんか、商売の仕方が似ている。おや、女将さんの顔もどこか、と思ったら、女将さんが話しかけてきた。やっぱり、あの半蔵門の、という会話になり、そばで聞いていた家族もよろこんだ。東日本大震災で東京を引き上げ、郷里の松本に戻ってきたらしい。

行こうか。突然、思い立って行くのもいいなあ。明日行こう。大人買いじゃなく、大人旅で、贅沢気分もいいなあ。

だが、松本を甘く見ていた。ホテルはなんとか取れた。JR町田駅に出かけ、松本までの特急を頼んだ。行きはあったけれど、翌日6日(日)の帰りの指定席がない。朝6時台の特急ならあります、と駅員さん。それ以降は、グリーン席もすべて満席。そりゃ、早すぎる。ホームで並んで自由席で帰るか。嫁はんに相談しようと思ったが、こんな時に限ってケータイを家に忘れてきた。後がつかえているから、あまり悩んでもいられない。自由席を買う。

小田急の町田駅まで戻る。やっぱり、座れなかったら、年寄りには立って2時間はつらい。嫁はんに確認しておこうと、公衆電話を探す。ない、見事にない。交番があったので、公衆電話の場所を教えてもらう。嫁はんは、念のために、6時50分の指定席を取ってくれ、と言う。また、JR駅に戻る。6時50分でもいいから、指定席と交換してください、と言うと、「お昼の1時がありますが、どうします」と返ってきた。少しの時間でキャンセルが出たんだ。お願いします、すぐ取ってください、と早口で答える。よかったですね、並び席ですよ、と言って渡してくれた。

家に戻って、嫁はんに報告。ついてたな、と言いあう。この時期の松本は、ぼくらのような年寄り夫婦の旅行が多いのだろう、だから並び席が空いたんだ、とよろこびあった。

さて、翌日。朝、嫁はんの持病が出た。めまいがする。いつもは予兆があるのに、突然、朝起きたらめまいが激しい。結局、松本行は取りやめにした。ホテルもキャンセルし、切符も払い戻しに行った。
 
2枚の切符は、すぐ誰かの手に渡っただろう。たぶん、老夫婦の手に。「よかったね、ついてたね」と言いあっているのだろう。無事の旅を祈った。