【コトノネ編集長のおまけ日記】名物編集者は、キラーパスの名手だった

コトノネ編集長のおまけ日記

「一体どこに起点があるのか。そんなキラーパスを次々に送り出す、名物編集長である」。

書き出しから引き込まれた。去る4月28日付朝刊の朝日新聞「be」のトップ記事に登場したのは、医学書院の編集者、白石正明さん。記者は、朝日新聞の藤生京子さんという方。

そして、続く。「たとえば、脳性マヒの小児科医がリハビリで得た官能の記憶。他力本願な“弱い”ロボット。治るのをあきらめた作家の躁鬱日記。月夜の晩に体がざわめく発達障害の当事者研究。難病で動けない母親を『蘭の花のように』看病した記録―。『シリーズ ケアをひらく』(医学書院)は30冊超。足掛け19年、たった1人で、予定調和とは無縁の本作りに挑む」。なんとまあ、簡潔な紹介。ポンポンとワンタッチで短いパスがつながる。「ケアをひらく」読者なら、どの作品のことか、わかるでしょう。読んでない人も、おぼろげながら、本の傾向は見えるでしょう。白石さんことは知っているし、手掛けられた本もかなり読んでいるから、わたしは、ひたすらこの記者の文章に引き付けられた。

的確な記者の投げかけ。白石さんの跳躍力のある返し。それを受けとめ、然るべき位置にカギカッコで納める。たとえば、本作りについて、白石さんがイメージするのは、東インド会社だ、と答えたあとは、「海を越え、紅茶を英国へ運んだ。移動だけで商品の価値を高めたわけですよね。編集者も、作品をまったく違う文脈に置くことで、輝かせたい」。

そして、締めくくりの言葉は、

「遠いまなざしはおそらく、自身に、そして次の著者を連れ出す大海原へと向けられている。」

わたしは、拍手で送った。素敵なショートドラマを見終えた気分になった。