これまでの経験が全部、生きてくる ―青葉仁会の場合(後編)

写真

さまざまなバックグランドを持った人が働いている奈良の社会福祉法人青葉仁会。福祉とはまったく違う分野で培ったスキルや経験を福祉の現場に生かして、働いている人も多い。入職5年目の溪神なつめさんも、そんな1人だ。

青葉仁会の農業部門の支援員をしている溪神さん。取材日は利用者といっしょに、お茶畑の手入れをしていた。「今日は、しばらくほったらかしで、ぼうぼうになっているところを、茶刈り機で刈りやすい高さまで切り下げる作業をしています。のこぎりを使える利用者さんに低く切ってもらって、それを運んでもらって。この作業をすることで、またいい葉を伸ばしてもらうんです」。

溪神さんの前職は、なんと「庭師」。自然が好きだったことから、大学ではランドスケープデザインを専攻、その後京都市内の造園会社に入り、寺社や仏閣の庭の手入れをしていた。仕事はおもしろかったが、続けるうちに、庭を整備するだけでなく、もっと人と関わり、いっしょに何かをつくっていくような仕事をしたいという思いが湧いてきた。そのとき、頭に浮かんだのが「園芸療法」。大学時代、園芸療法についても学ぶ機会があった。

写真

庭師のチーム「花庭組(はにわぐみ)」を、結成!

園芸療法とは、植物とのふれあいを通して心と体と生活を豊かにする療法のこと。植物が好きで、人と関わっていたいという溪神さんにはまさにぴったりの仕事だった。1年間勉強して、園芸療法士の資格を取得。この資格を生かせる職場を、と見つけたのが青葉仁会だった。自然活動を大切にしているここでなら自分の造園や園芸療法のスキルを生かせるのではないかと思ったと言う。「植物についての知識はある程度ありますし、園芸療法の勉強をして、自然や植物を介してどう障害のある人と関わるかっていう基礎のところは学んできました。ただ実際には、実地に入ってみないとわからないことがいっぱいありましたね」。

少しずつ仕事に慣れてきたころ、前職の経験を生かし、各事業所の植栽の手入れを利用者といっしょにやることを自ら提案。庭師のチーム「花庭組(はにわぐみ)」を結成した。
メンバーは、普段農作業をやっている人たちではなく、あえて木工など別の作業をしている人たちの中から希望者をつのり、編成した。季節によって変動はあるものの毎週1回程度、グループホームや各事業所などをまわって、植栽の手入れをしている。「すごくやりがいがありますね」(溪神さん)。

福祉の現場では、こんな風に法人の方向性と、その人のやりたいことが合致すれば、自分で新たに取り組みをはじめることもできる。これまでの経験を、「福祉の仕事」で生かしてみませんか?

※『コトノネ』22号の「脱福祉から超福祉へ」で青葉仁会の取り組みをご紹介しています。

写真:岸本剛