これからは「福祉の仕事」がおもしろい! ―青葉仁会の場合(前編)

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あなたは「仕事選び」のとき、その選択肢に「福祉の仕事」を考えたことがあるだろうか?

そもそも特に興味を持ったこともないから…、と、端から選択肢から外している人も多いのでは。しかし福祉の現場を取材してみると、まったく福祉とは関係のない仕事を経験し、紆余曲折を経て、「福祉の仕事にたどりついた人」が、意外と多いことに驚かされる。

福祉の仕事というと、人のために尽くす、なにか崇高な志を持った人がやるものだといったイメージがあるかもしれないが、実際に福祉で働いている人たちを見ていると「自分たちが楽しんでいる、やりたいことをやる」、そしてそれを利用者たちと共有していく、というタイプの人も多いように感じる。

障害者福祉の場合、仕事の内容もいわゆる「ケア」が中心となる場合もあれば、カフェで障害者といっしょに働くといったように、普通のお店で働くのとあまり変わりない仕事をしている人もいる。障害者の仕事をとってくるために、外回りの営業が中心になる人もいるし、経営に興味がある人なら、自分で事業所を運営することだってできる。「福祉の仕事」は多岐にわたり、さまざまなタイプの人材が求められているのだ。

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山や自然が好きな人が、集まってくる

奈良駅から車で40分ほど、山道をのぼった先に法人本部を構える社会福祉法人青葉仁会。カンヌ最高賞に輝いた河瀬直美監督の映画『殯の森』の舞台となった地にも、ほど近い。

青葉仁会は「人はいくつになっても成長し変化し続ける」を理念にかかげ、「障害者が生きやすい場、活躍する場」をつくり続けてきた法人。暮らす部分を支える入所施設やグループホームを運営するほか、仕事と日中活動の場として、カフェに、パン屋、お菓子製造、紙漉き、木工、陶芸、石鹸づくり、お惣菜づくり、レトルトカレー製造、農業、アート、それにモンベルショップの運営など、さまざまな事業を展開している。

この立地だからか、それとも大の山好きである理事長の榊原典俊さんの影響からか、青葉仁会には、山や自然が好きなスタッフが多く集まっている。
たとえば入所施設「萌あおはに」の施設長、中谷徳明さんもその1人。青葉仁会で働く前は、山小屋で働いていたと言う。山はもちろん、釣りも大好き。アウトドア全般はお手の物だ。そのため障害者たちといっしょにカヌーに乗りに行ったり、山にも登る。1年に1回ある旅行では、中谷さんおすすめのアウトドアを体験できるコースも用意され、人気のコースとなっている。

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左が中谷さん。ご近所の方とおしゃべり中

理事長の榊原さんを筆頭に「自転車好き」が多いのも、ここの特徴。法人が運営するカフェレストラン「ハーブクラブ」の前の道は、大和高原を走り抜けることができるサイクリストに人気のコース。お店には駐輪場を設け、自転車をメンテナンスができるスペースも用意。店は、「自転車の道の駅」としての顔を持つ。
自転車好きにはなじみがある店を運営しているからか、スタッフには、自転車屋の店長だった人もいるし、以前は自転車競技の日本チャンピオンだった人も働いていたと言う。青葉仁会で働く障害者たちも自転車を趣味として楽しんでいる人も多い。

日常とは少し違う、自然の中に流れる時間に身をゆだねてみる。ときには、自分1人の力で新しいことにチャレンジしてみる。そのおもしろさを知っている人たちが、ここには集まってくるのだろう。

※『コトノネ』22号の「脱福祉から超福祉へ」で青葉仁会の取り組みをご紹介しています。

写真:岸本剛