『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク⑪

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第11回】障害も越えて、職種も越えて、みんな手をつなごう
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撮影/岸本 剛

企業も参画すると、
事業としてもおもしろくなる

吉:磯部さんのところは農家とくっついたけど、最近は企業と福祉法人がくっつくとかいうのが出てきました。京丸園(*1)さんは特例子会社の手伝いに入ってる上に、B型事業所もはじめて、複雑につながりだしてますよね。

ハートランド(*2)さんも、最初農業団地で孤立無援で水耕栽培やってたんですけど、7つぐらいの福祉施設が入って、くっつきだしたんですね。企業の力もすごく大事なのかなと。変なタブーみたいなのがないので。この人使えるからうちの職員に、みたいなことが平気でできる。

こないだ帝人ソレイユ(*3)の鈴木さんが、路地栽培に加わりたいと言っていましたね。胡蝶蘭のAlonAlon(*4)から教えてもらって、胡蝶蘭で稼いで、路地栽培は赤字でいいという状態にすると。胡蝶蘭で儲けて、特例としては黒字ですというプレゼンを親会社にして、こっちの赤字がいちばん宝物。そういう農場にしたいと言っててね。特例子会社でそういう考え方もあるのかと。

AlonAlonさんもなんでそんなんするのかといったら、ゆくゆくはうちのB型の隣に特例を建ててもらおうと。胡蝶蘭が上手な子は、匠になったら特例に移れば、キャリアアップになる。それでタッグを組もうと思ったとおっしゃっていて、あーおもしろいなと。色んなくっつきかたがあるから、これからがおもしろい時代だと思います。

杉:うちも最近、農家さんが3軒集まって、2ヘクタールの玉ねぎを、根っこと葉っぱだけを切ってほしいと言われて、おもやで受けたんです。みんなできるし、仕事としてすごくよかったんです。ほんなら、こんど6ヘクタールも頼まれました。おもやだけではそんなにでけへんから、JAさんを通して、振興センターが窓口になって、おもやだけでなく6つぐらい事業所が集まって、共同でやることになりました。

それもクリアーして、次、さらに倍にできないか、と農家さんが言ってこられました。そうなったときに、問題は目的なんですよね。農家さんはたくさんつくってたくさん売りたい。でも、福祉の方としては、みんなの収入が増やすために一生懸命に働くことやない。もうやめようかってなってしまいそうです。福祉で企業と組むときって、福祉の関わる目的と、企業と農家さんの目的の部分の共有のバランスが大事ですね。

(*1)京丸園。本誌78ページで紹介。コトノネ13号連載「農と生きる障害者」掲載。

(*2)ハートランド株式会社はコクヨの特例子会社。ほうれん草など葉菜類の水耕栽培に取り組んでいる。

(*3)帝人ソレイユ株式会社。帝人グループの特例子会社。自然栽培にも取り組む。

(*4)NPO法人AlonAlon。胡蝶蘭の栽培や花束・フラワーアレンジメントの制作指導などのフラワープロジェクト事業を障がい者施設で展開。『障がい者所得倍増計画』を掲げる。コトノネ27号連載「『脱福祉』から『超福祉』へ」で掲載。

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撮影/岸本 剛

福祉の仕事のすばらしさを、
農業が教えてくれた

里:福祉と農家はゴールが違う。農業ならゴールが違っても、同じ道を走れるんですね。では最後に一言、まとめのご感想をお願いします。

杉:この座談会では、里見さんにのせられて好き勝手なことを話過ぎました。私は福祉の仕事ができて幸せです。福祉は愛の仕事であり、農も愛の仕事でした。愛が共通なので連携できました。それが農福連携。

磯:今回楽しく座談会に参加させていただきました。みなさんとの話で「農福連携が農業と地域をおもしろくする」と確信しました。農業には本当に魅力がつまっていると思います。まだまだ知らないことがありますが、農業を楽しみながら勉強していきたいと思います。ぜひ、数年後に「農福連携が農業と地域をおもしろくした!」を出版してください。里見さん吉田さん杉田さんありがとうございました。

吉:里見編集長から、今回のメンバーで対談をしたいとの提案があり、「いいですね!」と即答させていただきました。その時は、絶対に独特のケミストリーが生まれて盛り上がるに違いないと思っていましたが、一方で、果たして対談がどこに着地するのか全く想像ができませんでした。その想像がつかない部分も含めて、とても楽しみにしながら当日を迎えましたが、果たして予想以上の盛り上がりとなりました。

しかし、こうして読み返してみると、竜巻のように盛り上がりながら上昇した後、見事に理想的な着地点に着地していますね。読み終えた誰しもが、農福連携の明るい未来にワクワクするのではないでしょうか。里見編集長、さすがの進行でした。楽しいひと時をありがとうございました。

里:障害者も働ける。働いて、自立できるカネを稼ぎましょう、という流れが押し寄せています。それも、悪いことではありません。しかし、生きることはそれだけやない。もうちょっと、ガンバってガンバって働いて、豊かな暮らしをする。その豊かさの種類を見直したい。

そうすると、障害者も働きやすくなり、健常者も生きやすくなる。その実験場として農福連携はとても役立つことが、みなさんのお話の中から見えてきました。シナリオを用意できないわたしをよくぞ導いていただきました。

吉田さん、磯部さん、杉田さん、ありがとうございました。

<終わり>