『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク⑩

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第10回】支えてもらいたい人も、支えたい人も、農福連携がつなぐ

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撮影/岸本 剛

農福連携は障害者だけじゃない、
ソーシャルファームへ広がった

里:今回、みなさんから話を伺って、農福連携によって、農業や福祉や地域の姿が見えてきました。みんな、何とかやってきたけれど、どうなの、このままで、いいの、と思い出していた。

農業も地域も、こんなもんだろう、いまさら、弱みは見せられないと思っていたけれど、ずっと昔から弱者だった福祉が、農福連携と言って回覧板を近所に配りだした。仕方がない、聞いてやるか、という受け身の顔をして、農業も地域も乗り出してきた。農福連携の貢献は高いですね。

吉:みんながつながりだしてますよね。自然栽培パーティもそうなんだけど。みんなで情報交換したり、問題を議論したり。これすごく大事だと思うんですよね。

里:農福連携によって福祉の領域も広がっていますね。障害者だけではなく、ソーシャルファーム(*1)的にいろんな就労困難者を受け入れるいう方向性も活発になってきました。

吉:この前長野で講演をしたとき、発達障害の支援者の方々専門の集まりでした。みんな現場にでずに頭で考えちゃう人が多い。だから、「発達障害には農業は向いてない」「農福連携って知的障害の人のためでしょって」と思っている。精神障害の先生なんか、精神障害の人に農業なんてできっこないっていう先生もいっぱいいるんですね。

発達障害の人って、生活困窮だったりひきこもりだったりいっぱいいる。昔は、ピアファーム(*2)さんは12人中11人が知的障害だったんですけど、いまは5割ぐらいまで減ってきて、残り半分は発達障害。

多摩草むらの会(*3)も、いま3割が発達障害や精神障害の手帳とってるひとたち。発達障害がきっかけになって、さまざまな障害がごちゃまぜになってきている。手帳をとってない人や、手帳をとるのに抵抗のある人もいて、就労には困っている人もいる。でも、そういういろいろ事情を抱えた人にも、農福は参加がしやすそうですね。

ソーシャルファームが進んで、ゆくゆくは、高齢者と子どもと障害者は混ぜたいですよね。シェア金沢(*3)とかが、どう広がるのかは、見てほしい。厚生労働省は事実が先行してるので、太陽の家が大分でやったから、あとからA型事業所ができた。実際にごちゃまぜができて成功したら、ごちゃまぜを制度化してくれると思うので。まずごちゃまぜの世界をつくっちゃう。

(*1)ソーシャル・ファームは、ソーシャル・エンタープライズの一種。障害者や労働市場で不利な立場にある人々のために、仕事を生み出し、また支援付き雇用の機会を提供することに焦点をおいたビジネスであり、組織をいう

(*2)NPO法人ピアファーム。P46掲載

(*3)NPO法人多摩草むらの会。コトノネ11号「『脱福祉』から『超福祉』へ」掲載

(*4)シェア金沢。コトノネ21号「『脱福祉』から『超福祉』へ」掲載

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撮影/河野 豊

衣食住を備えた、
いまの茗荷谷村をつくりたい

杉:グループホームの暮らしと、僕の暮らしと、スタッフも暮らして、近くにおもやのキッチンの飲食があって、農もあって、仕事場もあったら、ある程度ここで回る。小さくても、そこでコミュニティをつくるっていうのをやりたいなと思っていています。

滋賀県の田村一二(*1)さんが茗荷村構想含めてつくられたのは40代から50代。やっぱり行きつくところって、最終的に本気でともに生きるとか、本気でコミュニティつくるか、どうかかかっている。

これはじめていうんですけど…。衣食住の話になって、「食」は食べる、「住」は住む場所、「衣」は、洗濯だ!と思って。洗濯なら、コインランドリーだ、と思って事業所をつくるつもりです。毎日使うもので、生活の一部っていうのをひとつもって、自分たちで衣食住が成り立つような場所ができたら素敵だなって思って、いま妄想してます。

吉:食の場を持ってるのはすごく大きいと思いますね。京都大の藤原辰史(*2)先生が、外で食べる食の場所を再定義しないといけない、って言われている。食べることと同時に、そこに人が集まることが大事なんじゃないかって。ふっと、こころんさんとか、おもやさんのことを思い出した。そういうところでしゃべったりとかすることで、人がつながるじゃないですか。

杉:ほんとみんながつながる場所にしたいなーと思ってて、フリースペースにしちゃうおうとか。そうやってひとつのコミュニティをつくっていって、そこの価値観を共有する人たちが、もっと来たらええやん、と思って。無理やり色んな人を集めるよりも、面白そうなんやってるやん、と自然に人が集まりだすのって素敵だなと思うし、そこからごちゃまぜのコミュニティをつくりたい。

吉:きっかけは、みんなで食べるってところ。

杉:食は絶対ですね、食はコミュニティをつくると思ってます。京都大の山際(*3)先生は、ゴリラはごはんを家族で食べると。とってきたものを分け与えて食べるっていう社会があるけど、最近の社会はサル化してる。だからいっしょにご飯食べると、意外と色々見えるでと。

(*1)田村一二。明治42年、舞鶴生れ。昭和3年、大阪府立市岡中学校卒業、昭和8年、京都師範(現・京都教育大学)図画専攻科卒業。昭和21年、滋賀県立近江学園設立し、寮長を務める。茗荷塾開設。昭和50年、茗荷村塾創立。昭和54年、山田典吾監督により『茗荷村見聞記』が映画化される。
*茗荷村とは、知的障害者だけでなくみんなで、働き、暮し、集団社会を運営している「田村ユートピア」。田村一二が提唱してつくった村。

(*2)藤原 辰史(ふじはら たつし)。1976年生れ。農業史研究家。京都大学人文科学研究所准教授。専攻は、農業思想史・農業技術史。『ナチスのキッチン』(第1回河合隼雄学芸賞)『分解の哲学 ― 腐敗と発酵をめぐる思考』(2019年でサントリー学芸賞)など著書多数。

(*3)山極 壽一(やまぎわ じゅいち)1952年生れ。人類学者、霊長類学者。チンパンジー研究の第一人者。京都大学理学研究科教授を経て、京都大学総長。日本学術会議会長。著書に『家族の起源 父性の登場』(東京大学出版会)、『サルはなにを食べてヒトになったか 食の進化論』(女子栄養大学出版部)、『暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る』(日本放送出版協会)、『家族進化論』(東京大学出版会)、『「サル化」する人間社会』(集英社インターナショナル)、 『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』(毎日新聞出版)

最終回第11回(4/3金)へ続く>