福祉の力で「課題」を「魅力」に――「多機能型就労支援施設KAeRU」(後編)

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「福祉の商店街」をテーマに、障害者施設を呼び込み、街に活気を集めている、北海道帯広市の「電信通り商店街」。その一つが、「多機能型就労支援施設KAeRU(カエル)」では、北海道が抱える「課題」を、福祉の力を使って「魅力」に変えようという取り組みに挑んでいる。

捨てられるエゾシカの革を、新生児の思い出の品に

「KAeRU」が入っている場所は、もともと、ランドセルを再利用してつくる「ミニランドセル」の工房だった。「KAeRU」は、就労継続支援A型と就労移行支援の事業所として「ミニランドセル」の事業を継承すると同時に、設備を利用してほかの革細工にも広げていこうとしている。そのテーマは、いま、食害が全道の課題になっているエゾシカの活用だ。

「KAeRU」がやろうとしているのは、エゾシカの革を使った、赤ちゃんが最初に履く靴「ファーストシューズ」だ。駆除したエゾシカの利活用については、肉は「ジビエ」として一般的になってきたが、革はまだ8割が捨てられている。鹿の革は柔らかく、子どもの足に優しい。単価は高くなるが、記念の品として長くとっておくものであり、また祖父母がプレゼントする習慣もあることから、価格の問題もクリアできる。ミニランドセル工房の設備が、そのまま使える。もちろん、ミニランドセルの事業も継続する。既存の資産を生かし、いくつもの社会的テーマを接続することで、人も金もインフラも集まってくる。「商店街の事業継承」で経産省から、障害者支援事業で厚労省から、さらにエゾシカの有効活用については、北海道から助成金の獲得を目論む。

札幌や本州で開かれた展示会に出品し、手応えも上々だという。「KAeRU」の施設長である清野真知さんは、「私たち道民はよく『北海道にはなにもないから』なんて自分たちを卑下してしまいがちなんです。でも、本州の人達から見たら、北海道は魅力の宝庫なんじゃないかと気づいて。私たちが自信を持って、北海道の文化を発信していきたいと思っています」。「課題」を「魅力」に変え、さらに障害者の「仕事」をつくることができれば、こんなにすごいことはない。

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※「電信通り商店街」の記事は、2017年5月発売の『コトノネ』22号に掲載されています。

写真:山本尚明