私たちの「はたらく姿」を見てほしい――「九神ファームめむろ」ではたらくみなさん

写真
写真・岸本剛

十勝地方の中心都市・帯広市。その隣りにある小さな町が芽室町だ。人口はおよそ19000人。基幹産業は農業。「九神ファームめむろ」は、地域の障害者の「働く場」を作るために、2013年4月に芽室町に設立された就労支援継続A型事業所だ。2015年に完成したという新しい作業場を訪問すると、10数名のスタッフがじゃがいもの皮むきとカットの作業をしていた。とにかく驚かされるのが手の動きの速さ、正確さ。あっという間にじゃがいもの皮をむくと、別のスタッフが、皮むきの終わったじゃがいもを、同じ大きさに切りそろえていく。「うちで働くまで、この人たちは月に3000円しかもらってなかったなんて、信じられないでしょう」と話すのは、九神ファームめむろ・事業アドバイザーの且田久美さん。いまでは九神ファームめむろで働く人の平均工賃は、約11.5万円だという。

ここで、普通に働いて、普通に暮らす

芽室町長の宮西義憲さんは、芽室町で子どもたちが生まれ育っていくことについて、課題を感じていたという。「義務教育を終えてしまうと、行政として手を差し伸べることのできる政策がないのです」。たとえば、不登校の子どもがいたとして、中学生のときにどうにか不登校が解消したとしても、高校に入った後でもしっかりとした支えがないと、再び家庭に引きこもるようになってしまう。「社会人になった後でも、そういった子を支えることができたら、普通に生きていけるんじゃないか」。

生きづらい人、障害のある人が、個性のまま、地域でずっと生きていくために、行政として考えなければいけないのは、「働く場」と「住む場」をしっかりと確保することだ。そうすれば、自立できる。宮西町長は、そう考えた。当時、芽室町には大きな社会福祉法人が一つあるだけ。そこには就労継続支援B型事業所はあったが、A型や特例子会社など、障害者が本格的に働くことのできる場所はなかった。「うちでも働く場をつくろう、障害のある人の就労を考えよう」と、動き出した。

芽室町の思いに応えたのが、広島県で障害者雇用の先進的な取り組みを続ける、株式会社エフピコの特例子会社、だっくすしこくエフピコダックス株式会社で且田久美さんだった。且田さんは、エフピコの取引先である、愛媛の「株式会社クック・チャム」と連携し、芽室で十勝産の農作物を障害者が生産・加工し、クック・チャムのある愛媛県に送るというビジネスフローをつくりあげた。クック・チャムにとっては、障害者雇用を拡大することによる社会貢献活動としての側面はもちろんだが、「十勝産」の素材を使った惣菜づくり、弁当づくりができることによる商品力アップの効果も大きい。「出口」から構築した「九神ファームめむろ」の事業は軌道に乗り、今では芽室町内だけでなく帯広市内からも人を受け入れ、「働きたい」という障害者が自分の力を発揮できる場所として機能している。

写真
写真・コトノネ編集部

「彼らのはたらく姿」から見えてくるもの

「九神ファームめむろ」は、農業を通じた障害者の働く場所づくりから、さらにその世界を広げようとしている。それが「就労キャリア教育観光事業」だ。全国の特別支援学校の生徒や、障害者雇用に興味関心のある組織や団体の人たちが、修学旅行の旅行先として、あるいは研修旅行として「九神ファームめむろ」を訪れる。ここで働いている「先輩」たちの姿を見て、「働く」とはどんなことなのかを肌で感じる。夜には「九神ファームめむろ」で働く障害者とディスカッションをする。そこでは、働くことで感じた苦しさや楽しさが、生の声として語られる。すでに2015年には約300人を受け入れ、今後、その数をどんどん増やしていく予定だという。特別支援学校だけでなく、障害者雇用に関心のある企業の見学や視察も想定している。

去る2017年2月25日、東京・新宿で行われた「プロジェクトめむろ“就労キャリア教育観光事業”発信イベント−私たちは働いて生きていく−」では、九神ファームめむろのメンバーたちがステージ上で日頃から経験を積み重ねてきた仕事の技を披露した。壇上にずらりと並び、一斉にじゃがいもの皮をむき、カットする。素早く正確なその動きは、会場を訪れた人たちを驚かせた。働く彼らの姿は、特別支援学校から社会に飛び出そうとする後輩の障害者たちを勇気づけるだけでなく、「健常者」と呼ばれる私たちも、そこから学び取れることがある。

「障害者が働く場所」というだけはない。「九神ファームめむろ」からは、多くの障害者が芽室の町中に「巣立って」いく。また全国から障害者が「働くこと」を学びにやってくる。まるで「ポンプ」のように、障害者を地域に送り出すことで、芽室の町全体が「誰もが、あたりまえに働いて生きていける町」になろうとしている。