障害者も高齢者も引きこもりも、どんな人にも仕事を作る!――全員参加の町づくり「藤里方式」って?(前編)

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人口3500人、高齢化率44パーセント。人口減少率が全国1位の秋田県の中で、さらに高い高齢化率という課題を抱える町、藤里町。しかしこの町では、全国でもユニークな仕事づくり、地域づくりの取り組みが行われている。「藤里方式」と呼ばれ全国にその名を知られる、その取り組みとは、一体どんなものなのだろうか。

ひきこもりも「町の担い手」に

「藤里方式」の象徴となる施設が、藤里町社会福祉協議会が運営する「福祉の拠点 こみっと」だ。ここでは、いわゆる「ひきこもり」と言われる人や、就職に困難を抱える人が、働きながら一般企業への就職や社会進出を目指している。就労困難者は、まず「こみっとバンク」といわれる人材登録制度に登録する。「こみっとバンク」では、町内外の一般企業や団体、個人などから寄せられるさまざまな仕事の依頼に対し登録者を派遣する。たとえば白神山地の天然水のボトリング作業など、地元企業からの依頼も多い。また「こみっと」の施設内にも働く場が用意されている。「お食事処 こみっと」は手打ちそばとうどんを中心にしたレストランで、そばやうどんの製造、あるいは接客などの仕事ができる。

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「こみっと」で働く人に話を聞いていると、「ひきこもり」という概念が、いかに曖昧なものかがわかってくる。彼らは、普通に外に出て買い物もするし、夏祭りがあれば出かけていって、同級生と話をもする。でも、働くことができない。その人が「ひきこもり」なのか、そうでないのか、線をひくことは難しいし、また線をひく意味もない。だから「こみっと」は、働くことが難しい人、みんなを支援の対象にする。そうすることで、彼らに「町の担い手」になってもらう。

全員参加の「プラチナバンク」

しかし「藤里方式」の凄みは、この先にある。藤里町社会福祉協議会会長の菊池まゆみさんは、当初から「町民全員参加・生涯現役」をテーマに取り組んできた。「こみっとバンク」でのひきこもり支援は、その一環に過ぎない。菊池さんが「全員参加」の切り札として立ち上げようとしているのが「プラチナバンク」構想だ。「こみっとバンク」が、ひきこもりなど就労困難者を対象にした人材登録・仕事紹介の仕組みであるのに対し、「プラチナバンク」制度は、藤里町に住む全員を対象にした仕組みだ。ここには、「こみっとバンク」はもちろん、「シルバーバンク(高齢者人材センター)」、ボランティア団体が集まる「ボランティア団体連絡協議会」、「老人クラブ連合会」などの団体に所属している人が、まず登録することになる。将来的には障害者施設などにも広げる。まさに「全員参加」のまちづくりが、過疎化に悩む「課題先進地」から生まれようとしている。

※11月17日発売『コトノネ』20号の特集で、「藤里方式」をご紹介しています。

写真:岸本剛