【コトノネ編集長のおまけ日記】初回は騙されよ

コトノネ編集長のおまけ日記

あれ、あれ、無窮会図書館が。
磯田道史さんの『歴史の読み解き方―江戸期日本の危機管理に学ぶ』を読んでいたら、突然出てきた。家に帰る坂の途中に、無窮会図書館はある。国学の図書館とは、威厳のある建物でわかる。滅多に訪れる人を見ることはない。恐れ多く、わたしなどは近寄りがたい。理事長は、元衆議院議員の平沼赳夫。会員制だ。会員でなくても、磯田さんなら、ニコニコ顔で通してもらえるのだろう。

磯田さんは、そこにある神習文庫の冊子「伊賀路のしるべ」を調べに来た。大正10年(1582年)、徳川家康が、伊賀忍者に救われて、伊賀越えをやって窮地を脱したときから、家康が亡くなるまでの34年間の伊賀忍者の記録が収まっている。
伊賀忍者は34年間で12回の合戦に出て、76人が死んでいる。伊賀組200人というから、戦死率は38%。忍者は映画で見る忍びの活動だけでなく、斥候役(せっこうやく/敵の状況や地形などを探ること)をやらされていた。
甲賀忍術書には、人間を見抜く方法として、「四知の伝」がある。それは「望・聞・問・切」。「望」は、人の風体、衣装と行動を観察する。「聞」は、周辺の人に聞き取る。「問」は、本人に聞く。最後の「切」は、その人の行動を試して、心の隠れたところ、心根までも知る。行動観察実験です。

わたしなどは、口は軽い、表情は露骨。人が読み取るには造作もない。しかし、訓練を積んだ大人の正体をつかむのは、むずかしい。口は思ってもみないことも言う。思っていても、いざとなればできないことも言う。できない時、心にもないことを言ったと思われたくないから、言葉を飾る。でも、行動は嘘をつけない。人を騙す行動にしても、それぐらいの手間をかけたいという思いは伝わる。
わたしは、会社を立ち上げたところ、仕事の声がかかったとき、足元を見られた(と思っていた)。用心していたら、相手も用心する。ホンマが見えない。だから、気持ちよく相手の条件通りでやることにした。買い叩く人もいる。予算はあるのに、買い叩くことを楽しむ人もいる。こりゃいいや、と思った人は、同じような悪い条件で声をかけてくる。認めてくれた人は、初回の埋め合わせるような仕事をくれた。2回目で、相手の心象が裸になる。それを見て、長い付き合いをさせていただきたい相手と仕事をしてきた。

正体を知りたければ、駆け引きするより、1回目は相手の思うがままに遊ばれよ。騙されても、その方が安く済む。