【連載コラム ただいま暗中模索中!ぷらぷら作業療法士の鈴木洋介】 「立ち向かうこと、支え合うこと」

ぷらぷら日記-01

5月のはじめ、2年ぶりにデンマークへ行ってきました。
菜の花が咲き誇り、太陽の日差しを浴びながら青空の下で飲むビールは最高です。夜も21時ぐらいまで明るいので、平日でも16時ぐらいには仕事を終えた人たちが、家族や友人との時間を外で過ごす場面も見られました。

今回の旅の目的の一つが、ヤコブ・リースとその家族に会うこと。
ヤコブとは、2016年の秋、彼の登場するドキュメンタリー映画『リース遠征隊』の上映会を企画したときに出会いました。

ヤコブは現在25歳、10年前、マチャドジョセフ病という進行性の神経難病の診断をうけました。アシスタントヘルパーを利用しながら、一人暮らしをしています。

『リース遠征隊』は、病気が進行していく中、エグモントホイスコーレンという学校で出会った仲間たちと意気投合し、北ヨーロッパで一番高い山、ガルフピッゲンの登頂に挑戦、挫折しそうになりながらも仲間たちとの助け合いによって登頂に成功するまでを追ったドキュメンタリーです。

それはまさに不可能に近い挑戦。自分の可能性に限界を作らずに挑戦していくことは、「困難な状況を変えることができる」という希望を私たちに与えてくれます。登頂を目指す中、友人でもありアシスタントヘルパーでもある仲間たちもまた、ヤコブのユーモアに助けられることが多いのです。もはや助け合う上で「障がい」の有無なんて関係ありません。

ヤコブと、兄のアレクサンダー、母のヴィヴィさんと

ヤコブと、兄のアレクサンダー、母のヴィヴィさんと

デンマークでは、「全ての人は、社会の中でお互いに依存し、頼られながら育まれている存在」と考えられています。今回の滞在中も、そんなデンマークの考えを肌で感じる出来事がありました。

ヤコブの家に到着すると、兄のアレクサンダー、そして、母のヴィヴィさん、そして彼らのアシスタントヘルパーが迎えてくれました。早速、みんな昼食タイム。デンマークのレバーペーストやチーズが懐かしく、遠慮もせずにもぐもぐタイム。そんな中、ヴィヴィ母さんの言った「たくさんの避けられない辛いことがあった。そして、これからもあるのだろうけど、大事な家族、そして仲間がいる限り、絶対に大丈夫、そう信じている」という言葉がとても心に残りました。

ヤコブは、その隣でニコニコピース。今は言葉が話せなくなってしまったけど、文字盤で凝縮した思いを伝えてくれます。兄のアレクサンダーもまた、ヤコブの近くで見守っていた家族のひとり。日本大好き、ワンピース大好き。そして、ヤコブを支えるアシスタントヘルパーの存在も大きいです。それは、一方的ではない双方的に得るものがあるという関係性。「ヤコブと関わってみて不思議な力を感じたから」と、ヤコブのアシスタントヘルパーになった理由を教えてくれました。

ヤコブが、アシスタントヘルパーや友人と旅行した国に印をつけた世界地図

ヤコブが、アシスタントヘルパーや友人と旅行した国に印をつけた世界地図

さて、日本に帰ってきてみて、訪問リハのお仕事再開。
現場には、パートナーや両親の介護を在宅で行っている方が大勢いらっしゃいます。その際に、「Facebookにね、在宅介護をしている仲間がこういう記事を載せてたの」と、在宅介護者の思いを教えてくれました。

在宅介護は頑張れば頑張るほど
社会から孤立し賞賛とは遠い世界。

在宅介護って山登りと似てる。

なんで、そんなしんどいことするの?
と聞かれたら

そこに介護を必要とする父(山)がいるから。
と答える。

山登りもしんどいだけじゃない。
登る中で学び、得ることも多い。

だから、みんなまた山に登るんだもんね。

在宅介護も同じ。
しんどい、辛いだけでなく
喜びも楽しみも学びもある。
しんどいだけなら続けられない。
でも足りない物がある。

山には登らない私だけど。
ハイキングコースを歩いた時

すれ違う人がみんな。みんな。
「こんにちは」と挨拶し合っていて
清々しい気持ちで歩けた。

在宅介護者も、そんな「こんにちは」
が欲しいんだ。

「こんにちは」は応援の言葉、社会の支え。
今、圧倒的に足りないと私が思うもの。

 

在宅介護の大変さは、直接的に介護する身体的な負担だけではありません。「支援者のこころない言葉」「当事者家族の大事にしたい価値観からかけ離れた支援」…。制度や訪問サービスを利用してもなお、山登りの辛い思いを清々しい気持ちにさせてくれる「こんにちは」からはかけ離れたもの。

そこで出てくるデンマークの思い出。
在宅介護という山に立ち向かう方々に、すれ違うときの挨拶になるような支援って何だろうと考える。せめて、足を止めさせてしまったり、ましてや、突き落としてしまったり、しないような関わり。

それは、訪問支援者の1人として、「利用者に助けられること」「利用者から学ぶこと」がたくさんあるということ。それは、相手に関心を持たなければ生まれてこないのかもしれません。そして、目には見えない山に登ることの孤独と闘っていることを理解しようとすること。そして、土足で踏み込むような暴力的な関わり方はしないことだと思いました。

さて、そんなリース遠征隊が今年も7月に日本へやってきます。函館7/14、札幌7/16、東京7/19、静岡(島田)7/27で、リース遠征隊のドキュメンタリー、そしてトークセッションイベントが行われる予定です。残念ながら、ヤコブは今年は来日が困難になってしまいましたが、彼の仲間たちと、ドキュメンタリーを手がけた監督「マティアス・クロック」に会えるチャンス。挑戦することとは何か?それを可能にすることとは何か?もし、お時間がありましたら、いかがでしょうか?

リース遠征隊-上映及び講演企画

ヤコブ一家と、アシスタントヘルパーと

ヤコブ一家と、アシスタントヘルパーと

前回のお話は、こちら
【連載コラム ただいま暗中模索中!ぷらぷら作業療法士の鈴木洋介】「患者という言葉」