【コトノネ編集長のおまけ日記】多田さんの施設全滅。悲痛なメール

コトノネ編集長のおまけ日記

何十年に一度という大雨特別警報がでた。とくに、九州、四国、中国地方には甚大な被害が出ている。みなさまのご無事をお祈りします。

岡山県でもはじめての大雨特別警報の発令だという。岡山は天災のない地域だと地元の友人は自慢していたのに、日本全国、もう安心して住める地域はなくなったのか。

次号コトノネ27号の『コトノネ観光課』で取材させていただいたNPO法人岡山マインド「こころ」さんのある倉敷市真備町の川が決壊した。洪水で民家の屋根が浮かんでいるような報道写真に驚いた。すぐ、代表者の多田伸志さんの携帯に電話をした。つながらない。近くの取材でお世話になった方に電話する。みなさんも連絡がつかないという。メールも出してみる。返事がない。

しばらくして、多田さんらしき方が救命ボートで救助されるところを、テレビのニュースで見た、と連絡があった。ご無事なら、少しは気が休まる。多田さんのことだから、自分も利用者も、しっかり避難しているだろうとは思っていた。車で5分程度坂を上がれば、多田さんの古巣、まきび病院がある。この病院は高台にあるから、まさか水につかることはない。

少し前、多田さんからメールが来た。「生きてます!」とあった。あぁ、よかった。「けれど、施設は全滅。携帯も水没」と続いた。「一からの出直しです」と終わっていた。そうか、地元の人に地ビールを楽しんでいただいたビール・カフェも、ビール酵母づくりから製造するビール工場も、ダメになったのか。水につかったのか。工場は建ってまだ1年も経ってないのじゃないか。

その施設も一からか。多田さんは、確か、60歳前。たいへんだ。けれど、目を小さく丸めてにこやかな多田さんの顔が浮かぶ。施設はなんとか立ち直されるだろう。でも、「あじさい問題から考える会」は、どうなるのだろう。施設の目途をつけるまで、活動のスピードは落ちるだろう。A型事業所「あじさいグループ」の障害者の大量解雇事件をきっかけに、多田さんが地元の人を募って立ち上げた活動だ。多田さんは、ろくな仕事がないのに、最低工賃をもらえることに疑問を持っていても、ここにしか仲間はできなかったという障害者に出会った。あじさいは許せない。しかし、あじさいを責めても問題は何も解決しない。「くやしい、いちばんの問題は、悪質A型事業所ではなく、障害者の居場所をつくれなかった地域の責任だ」と、地域のつながりづくりに駆けずり回っている。

多田さんなら、真備町を飲み込んだこの災害を、地域づくりを深めるきっかけにしてくれそうな気がする。それは、あまりにも無責任な期待かも知れないが。

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多田さんからいただいたメールを、現地の状況を伝える声として、こちらに転載いたします。

昨日早朝4時頃でしたか、緊急避難指示が町内放送で「高台へ逃げてください」と。それまで、1階のグループホームの人や、土地が低い場所の人たちを作業所の2階やまきび病院へ避難してもらっていたのですが、「もしや…」という思いでグループホームへ行くと、水が迫ってきていました。小田川の堤防が溢れた…慌てて「長屋まび」に身を寄せていた利用者さんたちをワゴン車に乗せてまきび病院へ。まきび病院はすでに町内の利用者や家族の方々が避難されて来ていて、まず8名を入院させてもらいました。残る人たち、2階のグループホームや作業所の2階部分に避難している人たちはすでに孤立状態、そこて泳いでいき、一人ひとりできるだけ高い場所へ移動させました。作業所まで泳いでいったら、そこは2階の床部分まで水が来ていて、そこにいた2名はかろうじて小さな窓から脱出し、流れてきたポリタンやタイヤにみんなでさばりながら屋根に泳いで上がりました。

そこから7時間、水かさが上がる中、救助を待ちました。見渡す風景は池の中に2階部分がにょっきりとはえていて、その上に何人かの人たちがいる。1階の屋根の上に上がっている高齢の男性は、腰のあたりまで浸かったまま立ちすくんでいる、このままでは、とその男性を私たちの大きな片流れの屋根に迎えたり、猫と一緒に屋根の先っちょにさばってる女性親子を屋根に上げたり、よく泳ぎました。隣の酒屋の主がタバコを投げてくれたり、この7時間は不思議に完全白旗の中で平静で、穏やかな時間でした。取材ヘリが飛び交い、消防のゴムボートが走り始め、私たち3名はオカへ上げていただきました。

その人たちをまきび病院へ送り、私は引き返して、2階のグループホームの取り残された5名を救出に。消防の人にお願いして、再びゴムボートで。5名は自分たちより、まわりの困っている人たちを優先するよう言い、最終でオカにあげていただきました。消防の人のおかげで、まきび病院まで送っていただいて、そのまま入院です。マインドのすべての部屋が浸水しました、まだ作業所は水の中、そこを復旧するまで彼らは入院です。でも、まきび病院があるおかげで本当に助けていただきました。

まきび病院は野戦病院のようでした、水道が止まっているので、屋上の貯水タンクが切れたら終わり…今日は朝から給水車の手配や急患の対応、避難所を回り、薬がない人への対応など、スタッフは夜通し走り回っています。私も今日は避難所の人の対応でマインドはそっちのけ、だってみんな居ない、ただあるのは泥だらけの建物だけですから。水も止まっているので、掃除もできず、明日以降から始めていくことになりそうです。

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