コトノネだらだら座談会 のぞき見版【5月25日 裏木隆さん】

5月の「コトノネだらだら座談会」では、神奈川県厚木市にある建築設計事務所「日比野設計福祉施設研究所」所長の裏木隆さんがお話してくれました。裏木さんは、障害者施設、高齢者施設を専門に手がけています。何がきっかけだったのでしょう。裏木さんが入社してはじめて、先輩について行った現場は、特別養護老人ホームでした。そこで寂しい雰囲気を感じた裏木さん、「人生最後の大切な時間を、もっと楽しく過ごしてほしい」と思ったそうです。

まず、事例を見せてくれました。多くの特別養護老人ホームは、利用者と面会する家族以外、ほとんど人の出入りがなく、一般の方が入りづらい。地域の人たちが気軽に入っていけるようにしたいと考えた裏木さん。施設の1階をカフェにすることで一般の方が入れる場をつくり、また、昔の町並みを写した写真展示スペースを設けることで利用者さんがおしゃべりできるきっかけをつくりました。

グランドオーク百寿

グランドオーク百寿

グランモールさくら汲川

グランモールさくら汲川

「いま、日本は高齢化率が高くなって、施設の待機者が増えてきてますし、施設の数も比例して増えています。でも、これからは、より快適な施設が求められて、そうでない施設は淘汰される時代になるんじゃないかと思うんです」と裏木さん。施設は、建物という箱があればいいというものでもありませんし、人と人との交流などのソフト面が大事にされる場所。「そのなかで、利用者に選んでもらえるような施設づくりのためにぼくたち設計者にできることってなんだろうって考えました。柱になっているのは、『コンセプト』、『利用者目線』、『コミュニティ』です」。

「コンセプト」は、法人の理念や、土地が持つ歴史など、お客さんの思いを引き出しながら決めていくそうです。「人が集まる場所にしたい」という思いを持っているなら、物の配置や配色、導線など、あらゆる仕掛けを考える。すると、その建物が、そこにしかないものになる。同じ規格の建物を機械的に建てるのではなくて、お客さんの思いを実現する方法を追求していくのだそうです。

二つ目に、「利用者目線」。どんな建物にするか、迷うこともあると言います。そのときは、誰のための施設なのかという問いに立ち返えります。施設に関わるのは、大まかに、管理者、職員、そして、利用者。「そのなかで第一に考えるのは、そこで生活する利用者さんのことなんです」と裏木さん。利用者さんが何を求めているのかを掘り下げていくと、そこには「家」があります。けれど、施設の雰囲気は必ずしもそうではありません。たとえば、通路。施設の通路は、ストレッチャーガードがついていたり、ふき掃除しやすい灰色の床だったり、無機質なことが多い。結果どんどん「家らしさ」は失われて、「施設らしさ」ばかりになってしまう。木材を中心に取り入れたり、絵を飾ったり、温かみを意識するだけでも、印象が変わると言います。

3

グランドオーク百寿

グランドオーク百寿

最後に、「コミュニティ」。どうやって自然にコミュニケーションをとれるようにするかも大切です。ごはんの時間を例にあげると、施設で出されたものを食べて、部屋に帰るだけというより、自分でメニューを見て、きょうは何を食べるか選択して注文できるようにしてみる。「それだけ?と思うかもしれませんが、自然と考えるってことをしているし、他の人との会話も生まれます。実際に、介護度が軽減した例もあるんですよ」と、裏木さん。

また、障害者施設の事例もお話してくれました。事業所の隣には公園があり、高齢者がゲートボールをしたり、親子が遊んだりしているのだそうです。そこで裏木さんたちがつくったのは、施設を囲むフェンスではなく、開放的なテラスデッキ。作業所でお昼を食べるときに、公園側のテラスに出ることができるようにしました。さらに、ガラス張りなので、カーテンで仕切っていないときには、事業所の中が見えます。裏木さんは「障害者施設って、外から何も見えないようにして、地域の方から見ると、何をやっているのかわからなくなってしまう。でもそれって、障害者と地域の溝を深めてしまうことだと思うんです」と言います。

PAL ASUNARO

PAL ASUNARO

PAL ASUNARO

PAL ASUNARO

福祉施設が「高齢者施設も、障害者施設も、生活の場。生活するって、自分にできることは、自分でやっていくってことだと思うんです。どうやったら、すこしでも自由に過ごしてもらえるかってことを考えながら、仕掛けをつくる。そういうふうに仕事してますね」と裏木さんはお話してくれました。

次回の座談会は、ワークショップデザイナーの加藤未礼さんのお話です。

(写真:日比野設計福祉施設研究所)