それぞれの「やりたい」から、仕事をつくる――フリーデザインと中川茂さん(後編)

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64歳で「就労移行支援センター・フリーデザイン」の門をたたき、長年の趣味だった絵を生かして地域に自分の居場所をつくろうとしている、中川茂さん。利用者それぞれの「やりたい」から、仕事をつくろうとする「Free Design」の考え方が、それを支えていた。

仕事に就いても、「Free Design」との関係は続く

昨年(2016年)の夏に「フリーデザイン」に入った春藤さん。今年の4月から就職が決まり、「フリーデザイン」を「卒業」して、今は都内に勤務しているが、「アートマーケット」が開催される日には手伝いに来て、自分の作品も売っている。また、「フリーデザイン」が発行するパンフレットなど印刷物のデザインも手伝っていて、今でもつながりがある。「今は仕事をはじめたばかりで気持ちも身体も余裕がないのですが、落ち着いたら休日をつかってデザインの仕事をもっとやってみたいです」。

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農学部出身の利用者が手がける「アクアポニックス」

「アクアポニックス」とは、水槽で魚を飼い、糞などで汚れた水を液肥に変え、その液肥で植物を水耕栽培、さらに水耕栽培できれいになった水を再び水槽に戻すという、水産と農業を連携させた循環型のシステムだ。農学部出身の利用者である白砂さんは、数年前からこのアクアポニックスシステムに興味を持ち、アクアポニックスの事業化を検討している不動産会社「株式会社イコム」を、自分で見つけてきた。「フリーデザイン」では、白砂さんがトレーニングできるように、アクアポニックスの練習用スペースを施設内につくると同時に、「株式会社イコム」に働きかけた。現在、白砂さんは「株式会社イコム」が運営するレンタル会議スペース「赤坂T-TIME」に設置されたアクアポニックスの運営業務に従事している。「この仕事はとっても面白いですよ。いつか、新宿にある大きなビルの吹き抜けを、丸ごとアクアポニックスにしてみたい(笑)」。

人それぞれにあった仕事を。ないなら、仕事をつくる

「アートマーケット」にせよ、「アクアポニックス」にせよ、もともとあった仕事ではない。利用者の「自分はこれをやりたい」「自分はこんなことができる」という声に応える形で、仕事を探したり、つくったりした結果生まれたものだ。「Free Design」代表の渡辺達也さんは「就労移行支援事業というと、『仕事ができるように人を訓練する』というイメージがあります。もちろんそういう側面もありますが、それだけでなく、人それぞれにあった仕事をつくっていくのもまた、就労移行支援事業の役割なんじゃないかと考えているんです」と話してくれた。誰かの「やりたいこと、できること」を、他の誰かの「役に立つこと」につなげることができたら、それはもう、仕事なのではないか。そんな思いを持った。

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