「農業をはじめて、みんなすごく変わりました」―いま注目の「農福連携」って何? (後編)

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昨年4月にはじまったハーブ農園ぺザンと、就労継続支援B型事業所リハスファームの「農福連携」。ぺザンの人たちと障害者たちは、毎日いっしょに働くようになった。
1年近くが経ち、お互いにどんな変化があったのだろうか。

見た目が変わる、中身も変わる

ぺザンに働きに来ているのは、精神障害や知的障害のある10名。みんな、すごく変わりました、と言うのはリハスファームの支援者、藤島健一さん。
「まず見た目が変わりました。日に焼けて黒くなって、しまって。それだけでまず全然違いますね。体を動かすので、声も出てくるようになって。秋までは外での作業が続いて毎日汗をかくので、自然と生活リズムも整っていきますし」。

ハーブ農園ぺザンのオーナー、俵朝子さんもその変化を実感している。
たとえば、おとなしい、ほとんど声を出さなかった人が、次第にあいさつをしてくれるようになり、先日ふと見ると、新しく入った人に自分から作業を教えていたと言う。
「最初は不安もありましたけど、いまはもうありません。わたしは、それぞれの人の個性を見つけるのが役目なのかな」と俵さん。

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写真左がリハスファームの藤島健一さん

農家にとっても、新しいやりがいに

変化は障害者だけでなく、農園で働いている人たちにもあった。
おととしぺザンにやってきた澤邊友彦さんは、愛知で農業を営んでいたが、ふるさとの金沢に戻って農業をすることを決意。ちょうど、たくさんつくって、どんどん売る「薄利多売」の農業のあり方に違和感を持つようになり、自分の納得できるやり方で作物をつくりたいという気持ちも大きくなっていた。

知人の紹介で、俵さんのところを訪ねてみたところ「ハーブは、野菜よりも付加価値がつけられる。作物としておもしろいなと思って。育てるっていうことでは、野菜といっしょなので」と、方向転換。ここで働くことにした。去年の4月からは障害のある人たちと毎日いっしょに汗をかいているが、躊躇はなかったようだ。

「若いころ、バックパッカーでカンボジアとかに行って、恵まれない子たちを見たりして。世の中に役に立ちたい、困っている人を助けたいという思いがずっとあった。なんかしたい、と思っていた」(澤邊さん)。
農作物をつくるだけでなく、障害のある人たちの可能性を広げていく「農福連携」に、澤邊さんは可能性を感じているようだ。

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写真左から4番目が、澤邊友彦さん

「うちの子が、こんなことができるなんて」

昨年末俵さんは、働く人みんなと家族も呼んでの、忘年会を開いた。それは忘れられない時間になった。「ほんとうに楽しい時間だったんです。家族の方ともいろんな話ができました。これからゆっくり一人ひとりと向き合って、もっといろんな仕事をつくってあげたい」と俵さん。

忘年会では、知的障害のあるスタッフが、みんなを楽しませようと「自分クイズ」なるものを、やりはじめた。たとえば「ぼくの好きなものはなんでしょう、1番ゲーム、2番ボーリング…」といった具合。クイズは大いに盛り上がった。その様子を見ていた父親は「こんなことができるなんて、思っていませんでした」とぽつりと言った。働きはじめてから、家族との会話も増えたと言う。

農家にとっても、障害者にとっても、可能性を広げていく「農福連携」。今後の広がりに、注目だ。

※11月17日発売『コトノネ』20号で、「株式会社クリエイターズ」と「ハーブ農園ぺザン」の取り組みをご紹介しています。

写真:岸本 剛