病院勤めから、障害者と一緒に農業をはじめた!――「千葉農産」の稼げる農福連携(前編)

写真
白石賢三さん(写真左)

農業と福祉が連携する「農福連携」が注目を集めている。障害者の働く場所を広げ、また後継者不足や耕作放棄地など、農業の持つ課題も解決しようという動きだ。「千葉農産」は7年前から障害者を雇用し、房総半島各地で農業を展開している。障害者が働いている部門である「福祉部」の白石賢三さんは、農業のプロではなかった。白石さんがこの道に踏み出したきっかけとは、いったいどんなものだったのだろうか。

「納得いかない」が原動力の障害者雇用

株式会社千葉農産福祉部の白石賢三さんが、障害者と一緒に畑で汗を流すようになって、もう7年になる。白石さんは、以前は精神科の病院に勤めていた。「医者ではなく、介護と相談支援事業の補助をしながら、ソーシャルワーカーを目指していました」。五年ほど勤めたとき、父親で千葉農産社長の白石真一さんが体調を崩し、そのことをきっかけに、病院を辞め、千葉農産に入る。そこから、本格的に障害者雇用をはじめた。

なぜ、障害者と農業をすることにしたのですか、と聞くと、病院時代に精神を病んだ人たちを見てきた経験がその根底にあるという。「納得がいかないんです。精神的な病気を持っていて、そのことを履歴書に書いたら、面接も受けさせてもらえない。おかしいでしょ。彼らのため、というよりも、ぼくが納得いかないからやっているんです」。

「福祉部」として白石さんが立ち上げた障害者部門も、15人ほどの人数ではじめたものの、何をしていいかわからない状態だった。最初はなかなか作業がうまくできずに、大して仕事にならなかった。そこで、作業の仕方を工夫した。「知的障害の人と身体障害の人をペアにしたんです。知的障害の人は収穫作業ができるけど、選別が苦手。一方で身体障害の人は、ずっとしゃがんで作業するなんてできない。じゃあ、知的障害の人に、とにかく刈り取りをしてもらおうと。刈り取ったものを後ろに放り投げてもらって、それを身体障害の人が、座って選別する」。この作業方法がうまくいって、「福祉部」も、収穫作業に貢献することができるようになった。それどころか、こちらのほうが効率よく、作業も速いと、この作業方法を健常者も取り入れるようになったという。このことをきっかけに、福祉部は本格的に農作業を手伝うようになった。

「気合と努力」の農業経営

今では、福祉部で働く人たちの月給は、13万~14万円。「障害者だからといって、5万円とか10万円とかの月給で、どうするの、って思うんです。家族がいる人だっているし、これから結婚したいっていう人だっているでしょ。彼らだって、生活していかなきゃいけないんですから」。会社の経営と、働く人たちの生活を成り立たせるために「気合と努力」を重ねる。たとえば「ここ3週間くらい、ずっと雨が続いているじゃないですか。ほかの農家は、みんな植えられないんですよ。『じゃあここで植えてやろうぜ』って。ほかが植えてないときに植えれば、10円、20円、高く売れる。雨が降っていても、がんばって植えちゃおうよ、って」。「納得がいかない」という違和感からはじまった千葉農産の障害者雇用は、彼ら障害者の力を証明しつつある。

写真

※11月17日発売『コトノネ』20号の特集で、「千葉農産」をご紹介しています。

写真:山本尚明