「この仕事をはじめたきっかけは、ポストに入ってた一枚のチラシなんです」。「国分地域福祉事業所ほのぼの」岡元ルミ子さん(前編)

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鹿児島県霧島市にある「国分地域福祉事業所ほのぼの」は、お年寄りや障害のある人への訪問介護や、学童クラブを運営している事業所。所長を務める岡元ルミ子さんが、この仕事をするようになったのは、ひょんなことがきっかけだった。

「離婚して、娘と実家に帰ったんです。母が祖母を在宅介護していたので、それを手伝ったりして。でもほとんど引きこもり状態で、何かしないと、と思いはじめたときに、ヘルパー講座のチラシがポストに入ってきて。ヘルパーさんの仕事ぶりを見ていたので、興味が湧いて、怪しげなチラシでしたけど(笑)、行ってみたんです」。

地域の困りごとを、仕事にする

この講座を開いていたのが、ワーカーズコープという協同組合。全国に約300の拠点があり、働く人みんなが出資、経営、労働の3つの役割を担うユニークな働き方を実践している。誰かに雇われるのではなく、働く人全員がいわば「経営者」。経営方針もみんなで話し合い、給料の額も決める。

そんな方針を掲げるワーカーズコープのヘルパー講座は、単にヘルパーの養成するのではなく、自分たちの地域や暮らしに何が必要かを話し合い、集まった人たちに「仕事おこし」を呼びかけるものだった。集まったのは、起業なんて考えたこともない主婦たちが多かったが、自分たちでも何かやってみようということになり、はじまったのが、この「ほのぼの」だ。まずお年寄りへの訪問介護をするヘルパーステーションを立ち上げた。

「わたしはシングルで子どももいるから、最初お手伝いをして、落ち着いたらほかのところで働こうと思っていたんですけど…」という岡元さんは、仕事をはじめるとおもしろくなってしまって、結局いまでは所長を務めている。
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「普通のおばさんでも、みんなでならできるんですよね」

訪問介護からはじまった事業は、地域に必要なものを考えていくうちに、学童保育や若者の就労を支援するサポートステーションなどに広がった。障害児の放課後デイサービスや、未就学児の発達支援事業も行い、いまや35人の雇用を生み出す事業所になっている。それでも岡元さんは自分のことを何度も「普通のおばさん」だと言う。

「一人では何もできないわけなんで、みんなで普通のおばさんたちが力を出し合って、こういうものができるっていう、醍醐味がありますよね。楽しいです。みんなでやるから、できるんです」。

ほのぼので働いている人の中には、引きこもっていた人や、障害がある人など、これまでなかなか働けなかった人たちもいる。地域の困りごとを仕事にすることで、困っていた人たちに働く場が生まれ、自分たち自身の力で、地域を豊かにしていく、そんな循環が生まれている。

「お金を儲けるっていうことは、結局競争になってしまう。それが悪いとは思いませんけど、やっぱりその中に入れない人が世の中にたくさんいる。東京じゃなくても、地元で、大金が稼げなくても、気持ちが豊かになって、体が健康になる暮らしができる、そのための仕事をつくっていく、そういうのを目指してます」。

※11月17日発売『コトノネ』20号の連載自然栽培パーティで、「ほのぼの」をご紹介しています。

写真:岸本 剛

取材協力
ワーカーズコープ
正式名称は日本労働者協同組合連合会センター事業団。現在全国約300の事業所で約6500人の組合員が働く。仕事は清掃、緑化、物流事業からはじまり、公共施設の運営、高齢者、子育て、障害者、生活困窮問題等に関わる仕事を展開している。