「子どもは、社会の子。だから、みんなで育てるのが当たり前」。-共働き夫婦の味方!「富山型」ってナニ?(前編)

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1人なら5分の道のりが、子どもを連れていると何十分もかかる道に化ける。夕ごはんを食べさせるだけで、気がつけば1時間経っている。子育ては、こんなことが日常茶飯事。働きながら、子どもを育てるお父さん、お母さんは、毎日がやりくりの連続、時間との戦いだ。

共働き率が全国4位と、夫婦ともに働く人が多い富山県で生まれた、そんな働きながら子育てをする人にとって心強い味方、「富山型」というサービスを、ご存じだろうか?
富山型は、対象を限定しない、赤ちゃんからお年寄りまで、誰でも通えるデイサービスのこと。その「臨機応変さ」や、「ここでしか得られない経験」にひかれ、保育園代わりに利用したり、保育園や学校と合わせて利用している人もいる。この富山型のはじまりとなったのが、デイサービス「このゆびとーまれ」だ。

「子どもは、親だけの子どもじゃない」

代表の惣万佳代子さんは、看護師として20年病院で働いた後、「このゆびとーまれ」を23年前に立ち上げた。「病院で看護師として働いていくことの限界を感じたんです」(惣万さん)。病院という限られた場所ではなく、普段の生活そのものを支えたい。あらゆる人の居場所をつくりたい。そんな思いではじまった「このゆび」では、子どもたちは、お年寄りや、障害のある人たちといっしょに、ひとつ屋根の下に過ごす。おばあちゃんが膝の上で赤ちゃんをあやしている光景は、さながら近所のおばあちゃん家に子どもを預けている、そんな雰囲気だ。

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代表の惣万佳代子さん

その空気そのまま、利用の仕方もなんとも、ゆるい。たとえば、預かり時間は、朝7時30分から夜6時までだが、遅くなりそうなら、電話一本で、8時まで預かってくれる。土曜、日曜も面倒をみてくれるし、当日の朝に急にお願い、なんてときもOK。さらには学校までお迎えにもいってくれるし、家まで送り届けてくれることもある。サービスの方に、生活を合せるのではなく、あくまでその人の暮らしの方に寄り添うことを、大事にしている。

「確かに親は親権があるけど、社会の子でもある。自分だけの子どもやないってことを言いたいの。だからみんなで面倒みていくのが、当たり前」(惣万さん)。自分たちだけで面倒を見なきゃ、と抱え込みがちな子育てパパ、ママにとって、なんと頼もしい言葉だろう。ずっと「このゆび」にお世話になりたいと言って、近くに引っ越してきた夫婦もいた、と言う話もうなずける。

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奥の方で寝ている惣万さん。取材が入っていても、お構いなし

広がる富山型

「このゆびとーまれ」のような、対象を限定しない福祉サービスのあり方はいつしか「富山型」と呼ばれるようになり、いまでは行政もその設置を支援、富山県内に121カ所ある。さらにその実践は全国へも広がり、「共生型」と呼ばれる、複数の福祉サービスを1つにまとめたサービスを行う事業所は全国で1400カ所を数えるまでになった。国も動きだし、厚生労働省は今年(2016年7月)、「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」を立ち上げ、その実践例の第一として「富山型デイサービス」を取り上げた。その地域に暮らすありとあらゆる人が、その人らしく暮らすための拠点へ。福祉施設のあり方が、変わりはじめている。

※11月17日発売『コトノネ』20号の特集で、「このゆびとーまれ」をご紹介しています。

写真:岸本剛

取材協力

惣万佳代子さん/「このゆびとーまれ」代表
1993年に看護師仲間2人と、デイサービス「このゆびとーまれ」を立ち上げ。その「対象を分けない」新しい福祉の実践は共感を呼び、「富山型」「共生型」として県内、そして県外へと広がっている。2015年、顕著な功績のあった看護師に授与される世界最高の記章である「フローレンス・ナイチンゲール記章」を受賞。