『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク⑨
毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。
●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長
●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長
●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事
どうぞ、どうぞ、
オクラを取っていってください
磯:世の中を変えようというよりは、自分たちがしっかりと農業の楽しさやありがたさを追求してやっていくと、自然に答えが出てくるんじゃないかな。そういう話って抽象的で、理想論だけじゃんっていわれる話ですが。ただなんとなく、狙うとうまくいかない感じがしてて。
無門のポリシーとしては、それに関しては狙わない。損得なし、困ってるから助けよう、とか。シンプルにやっていく。そうすると意外と消費に繋がってたり。たとえば3反の田んぼで何人かが生きていける仕組みとか、それをもっと見せていったほうがいい。
一反でお米いくら取れるかなんてみんな知らない。トヨタ自動車のボランティアさんに言うと、米がこんなやっただけで300キロもとれるの?みたいに、驚かれるんですよね。うちも家庭菜園でオクラをやってるんですけど、うちの奥さんなんてびっくりしてますよ。あんだけで毎日こんなにオクラとれるの?食べ物に困らないじゃん!って。じゃ来年ももっと拡大しようって。
でも植えてるのは5、6粒ぐらいなんですよ。町の中にオクラ林をつくって、勝手にあそこに行けば食いものがあるっていうのをやってみようか、と思ったりします。
杉:うちアスパラガス農場つくってるよ。自由にお取りくださいって言って、ぱっと見、草ぼうぼうやけど、探せばアスパラガスがあって。体験農園のところにアスパラを植えてて。
磯:自然って本来そういうもの。そこから農業っていいよねっていう入り口もあるんじゃないかと。心で感じて入る仕組みというか、頭で考えると、考えてたこととは違うので挫折する。じゃなくて、豆腐食べて、この大豆こんだけでできたよ、これ2株だよと。えっ2粒でこれできるの?みたいな。
杉: 事業にしなきゃとなったとき、事業を続けていくのが目的になる。でも自然発生的に生まれて、いいねと思ったものを、みんながいいからやっていって、それが広がっていく感じ。
吉:オランダのケアファーム(*1)がうまく日本に導入できれば、それができると思うんですよね。重い障害の人が、俺がこんなんつくれちゃうのか!みたいなのが、1年やることでモチベーション高まったり、シアワセ感じる。
オランダは、障害者を農家が受け入れると、保険から農家におカネが出るんですよね。とにかく、ガツガツしないで、この人たちが気持ちよく農業してもらえるように、オランダはやってるんですよ。大切なことですね。
磯:農業に触れる機会を増やすとか、そんな感じですか。
吉:体験農園に混ぜるみたいなのは、いまはじまってるんですよね。体験農園をやって、市民の中に障害者も混ざってもらうみたいな。そこに支援のおカネが回るようにしてくれると、たぶん広がっていく。
杉:食べ物採るのってみんなすごく喜びますよね。体験農園に家族で来てて、よかったらキュウリどうぞってあげたら、こんどは向こうが里芋くれて。このやりとりいいな、と。もっと触れてほしい、もっと楽しんでほしい。おもしろいし、無理なくやってるので、これは続くもんやと。
吉:それがさっき言ったCSA(*2)みたいな話で、消費者も巻き込むとできるケースもあるんですよね。
(*1)ケアファームとは、「ケア(介護)」+「ファーム(農場)」。認知症や精神疾患を抱える人、発達障がいのある子どもたちなどにデイサービスを提供する農場
(*2)Community Supported Agricultureの略。第6回で紹介
食料の確保だけでない、
農業の価値を見直したい
磯:この先、九神フアームめむろみたいな事例を真似して成功事例が増えることもあると思いますし、養鶏や、しいたけとかもあると思うんですけど、やっぱり農業の価値を見直すような動きはあるといいのかな。
みんな捨ててるじゃないですか、農業。でもやりたいんですよね。おカネが動かんからできん、て言ってるけれど…。
里:取材してたら、みんなやりたがりますよ。土触りたいし、匂いも嗅ぎたい。
吉:そういう人は、教える側に回ってもらうと良いんですよね。あの子たちを教えてあげてくださいって言うと、すごいはりきって来てくれる。
吉:こころみ学園って最重度の人の施設ですよね。あそこでみんなちゃんとぶどうつくってるわけです。どこの施設でも受け入れてもらえなかった人たちがあそこに来て、働いている。重度の障害児の親御さんで、わたしのところにも来られて、一日中うちの娘に紙漉きとかじゃなく、もっとちゃんとした仕事らしい農業をやっているところが、この辺にないかねって言われるのです。
グリーンファームさんもそうですよね。生活介護とB型の両方の多機能型なんで、生活介護の人も堆肥運びをする。堆肥を持って行ってガシャッてひっくり返すだけで、堆肥って発酵するから無駄にならない。そういう仕事を障害の重たい人ができる。それが農業のいいところ。
里:農業って自分が関わったものが成長する。実る。誰かの食料になる。実りが見られて、実って、食べられる。わかるよね。手ごたえが手ざわりできる。
吉:そう、かなり重たい人もわかる。
里:それも強みやね。
吉:一方で軽い人ができる農業でもあるし。特例子会社が最近増えてるんですけど。浜松でヒナリさんがはじめたのが、「ヒナリモデル」と言われて、JALさん、パーソルサンクスさんとかに、ドンドン広がってる。そんなところは軽い人が多いけれど、重い人から軽い人まで広がりが大きい。多様な人を受け入れられるのが、強みですね。
<第10回(3/27金)へ続く>