『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク⑧

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第8回】養鶏をやるなら、アニマルウエルフェアにしたい

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撮影/岸本 剛

「半農半X」
専業より兼業

吉:いま「半農半X」(*1)って言い方してますね。農業だけでは食ってけないから、色んなコネクションをつくって、農業をしながら暮らしていこうっていう人たちが注目されている。

里:「半農半X」の半Xをどう探すか。

吉:地域資源をうまく生かしながら、やれたらいいですよね。

杉:いままで仕事というのは、自分の大事な時間をそこに費やして、お金をもらうために頑張ることやった。いまの若い子らと話をすると、「自分らしく生きるためのひとつとして、仕事がある」っていう感覚。これからは「あなたも、わたしも、どう生きるか」っていうふうに問われてる。そのときに、わたしは有意義に生きるための仕事があります、それと農もあります、がいいのではないか。

農は「業」だけの専業農家さんは、ハッピーではないように見えちゃう。そうじゃなくて、自分が豊かに生きるために農をやっているから、作付けの面積がすこしでもちょっとずつやるみたいな「農」。そういう人たちが増えていったらいいと思う。それが「半農半X」やと思います。自然栽培パーティの中でやってるのも、それに近いところがあって、この人たちの生き方の中の「農」と、ナンボ売ってナンボ工賃上げるかっていうのと、バランスを取りながらやってます。

吉:農福連携って二種類あっていいような気がするんです。どうだ、すげーだろ、障害者ってこんなすげーのつくっちゃうんだぞ、ってバリバリの農福もあっていいし、生き方的な農福があってもいい。

杉:どっちもあって、たどりつくのが、農「業」じゃなくて「農」の、新しいいろんなあり方っていうのが、これからかなあと思ってて。

吉:一方で、大規模でAIも入れてなんとかって、ごちゃごちゃいっぱいあって、その中に色んな農がある。

杉:ごちゃまぜの中で何ができるかみたいなところの方が、むしろその地域の特徴が出ておもろくなると思う。

里:九神ファームめむろ(*2)は、工賃立派に払ってるところなんですよね。そのパターンももっといっぱい出てくるんですかね。九神ファームの成功は、仕入れと売るところ、入り口と出口が安定してるということですよね。それ以外に、金額的にちゃんと稼ぐいうのはあるんですか。

(*1)半農半Xとは、京都府出身の塩見直紀(しおみ・なおき)さんが提唱した生き方と働き方。農業による食糧の自給と自分の長所、特性を生かした仕事との組み合わせ手生計を立てる生き方。

(*2)株式会社九神ファームめむろ。P87掲載

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撮影/岸本 剛

効率化よりも高付加価値化
平飼いやアニマルウエルフェア

吉:平飼い養鶏をやってる人たちはみんな稼いでますよね。長野のくりのみ園も、福島のこころんさんも、北海道のたつかーむ(*1)さんも。

里:付加価値のある平飼いですね。

吉:農福連携では広がっています。動物好きの子にはたまらない仕事らしいんですよ。障害者とすごく相性がいいって言われています。世界全体でいうと、アニマル・ウェルフェアといって、のびのび育った鶏の卵を応援しようっていう動きになってる。有機農業と同じように、生き生きした鶏が産んだ卵を食べましょうと。最近そういう卵がちゃんと売れるようになってきてるから、いいなあと思ってるんですけどね。

里:われわれが食としていただくものだからこそ、生きているときはその動物らしい生き方をしてほしい。おいしいだけではなく、生きものへの尊厳ですね。

吉:こころんさんは30円から50円に値上げしました。くりのみ園は、小布施町と長野市、二カ所に養鶏場があって、直売所つくっている。
こころんなら、第2こころん、第3こころんができる、みたいになると、もっと地域性が出てくるのかなって期待してるんです。

宮古島の野菜ランドみやこ(*2)も、最初A型事業所で野菜をつくってたんですよ。立派に経営は黒字です。野菜が暑すぎてつくれないんで、ハウスでつくってるんですけど。ただ、B型ぐらいの子は断らなきゃいけなかったんで、今度B型の「トマトランドみやこ」をつくったんです。こんな感じで、良い事例が細胞分裂みたいに広がっていくと、とってもいい。

いま九神ファームと同じ考えで、次々に四か所くらいに広げている。横の動きが出てきて、点が面になってくるのを期待してます。
あと、磯部さんのところも、すごい。福祉とセミプロ農家のコンビっていうのは、すごくいいなと思うんですね。弱点をお互い補いあって、増えると思うんですよ。

(*1)たつかーむ。合同会社農場たつかーむ。北海道有珠郡壮瞥町

(*2)社会福祉法人みやこ学園・就労継続支援A型事業所 野菜ランドみやこ

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撮影/岸本 剛

農業をやっていれば、
自然とシアワセがやってくる気がする

磯:農業と福祉で地域をおもしろくなるっていうことを実感しています。やっぱり今の社会、農家はどんどん減っていく、障害のある人はどんどん増えてくる。そのときに、そもそも社会のビジネス的要素は、人を排除する仕組みになってるんじゃなのかなと。時給でやると、この人はいらないとか。

正直、しいたけだけやってた方が儲かるんですよ。しいたけも農業かもわからないですけど、僕たちはあまり農業と思ってなくて。

吉:一応、農業なんですけど(笑)。

磯:しいたけハウスを増やしていくと、工賃は上がるけど、地域がおもしろくなるかっていうと、全くそうではない。町では休耕地の問題だったり、農業のさまざまな問題が出てくる。福祉事業所の仕事の創出としては非常にいいけど、地域福祉としてはどうだろうって思う。

もうちょっと、ビジネス的ではない、人が生きていく仕組みをつくった方がいいんではないかなと。美味しい食べ物を環境に負荷なくつくる仕組みとか、そっちから組み立てないと持続的じゃない。うちは、物々交換を大切にしていこうと思っています。必ずうまくいくとは思わないんですけど、そこに賭けたい。

僕は農業の福祉的な力っていうか、農業をやってれば幸せになるんじゃないかっていうのを、ふわっと夢みたいに思ってるんです。生きていくってことにみんなが向き合ったときに、もう障害者だからお前できないよね、とかいう尺度が取り払われてる感じがするんです。全部じゃないですよ、まだ。この人に何させようっていうのは日々現場ではやってるんですけど。

いま自分としては、豆腐をつくりたいなと思ってるんです。豆腐屋さんを復活させたいなと。これは別にビジネス的なイメージじゃないんですよ。もっと一昔前の生活っていうわけでもないんですけど、そのころやっぱり良かったんじゃないか、貧しいものでも満足できたっていうか。豆腐でも美味しいなっていって食べれたじゃないですか。

吉:田園回帰の延長にあるような気がしますね、その話は。

第9回(3/24火)へ続く>