『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク⑦

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第7回】農福連携が、農業そのものの福祉力を目覚めさせた
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撮影/岸本 剛

農業なら、頑固なおじいさんも、
障害者の仲間にできる

吉:農福連携がすごくいいなと思うのは、いちばん障害者に遠そうな頑固な農家のおじいちゃん、障害者に何ができるか!ふん!とか言ってたおじいちゃんが、意外と障害者とくっついてみたら、障害者のための工夫とか夢中でしてくれて、とってもいいおじいちゃんになったりする。農福連携のおもしろいのは、そこなんですよね。

本来は交わるところにいなかった人たちが、案外交わってみたらいいじゃん、みたいになってて。変にグレーな立ち位置の人は、なまじ障害者との距離が近いから、妬み嫉みみたいなのを持つけど、こういうおじいちゃんと障害者の関係は、そういうの超越してるから。

里:結局、さっきと同じ話に戻ってきます。農業と社会福祉が持ってるのは、結局そういうつながりのおもしろさなんですね。

吉:混ざりやすいっていうのがある。消費者だって、収穫祭おもしろいからちょっと絡んでみようとか、手伝いありませんかってボランティア来たりとか、絡みやすい活動な気がする。

里:そもそも、福祉とくっつかなくても、農業そのものに福祉力がある。

磯:福祉事業所が進めるっていうのもやりやすいと思いますね。目的が地域福祉なので。知的とか精神の方って体が元気な人も多いので、体力仕事はできますし、無理くり仕事つくるよりは、福祉型農業法人みたいな感じで、違う予算でやればいい。

里:違う予算って?

磯:支援費というよりは耕作費みたいな感じで。社会福祉法人はみんな農業やればいいのに。

吉:社会福祉法人も認定農業者になりますし…。

杉:いや、ほんまにあのときはお世話になりました。認定農業者になりたいですって栗東市(おもやの地元)に行ったら、「そんな事例ないですよ」って言われて。吉田さんに電話して、「事例ありましたよね」って言ったら、「ありますよ、なんぼでもあげましょうか」って。それを言ったら、「たしかにありました、はい許可おります」みたいな。

磯:農地所有適格法人(*1)にはならないんですよね?

里:そんな色んな手法あるわけですか。

吉:いろんなパターンがあるので、要ご相談だと思いますよ。

磯:社会福祉法人が農地所有適格法人に該当する感じになればいいんですけどね。

吉:社会福祉法人は農地買えるんで…。

里:そんな僕なんか全然知らんねんけど、知らん人いっぱいいてるんでしょ。

吉:市役所の担当の人がよく知らんので、全然地域によってちがう指導の仕方するんですよ。

里:吉田さんみたいな人がアドバイスしてあげたらいいわけやね。色んな方法があると。

吉:僕は事例を紹介するだけです。役所って「前例がない」が一番ダメなんです。前例があればいいんです。

(*1)農地所有適格法人とは、ことば通り、農地を所有できる農業法人のこと。法人形態用件、事業要件、議決権要件、役員要件などの要件を満たせば、農地の権利を取得することができます。

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撮影/岸本 剛

福祉施設からのれん分けして、
新規就農者を育てる

里:中山間で農福連携でつくるモデルってどんなんがあるんですか。

杉:おもやで働いて、その後農地をお渡しして、農業者になってもらおうと思いました。農家が少なくなっていく中で、専業農家が耕作面積増やしていくよりも、兼業農家を増やす方がいい。会社やおもやで勤めながら、週末にはトラクターに乗ったり、野菜をつくって、それの半分から7割は学校給食におさめて、残りは自分で食べるか、ファーマーズマーケットで売る。おもやは、そうして農家を増やしていきたい。

吉:おもやの職員さんが独立して農家になってもらう。今風のれん分けビジネスですね。

杉:実際に一人いるんです。自然栽培を学んだあと、ほんまに会社を辞めて専業農家になりました。道具貸したり、農家さんともつながっているので、色んなつながりもありながら、自分でちょっとやってみる…。

吉:障害者も卒業させていくけど、職員さんも卒業して、地域に根付かせていけば、また新しい若い子を採れる。そういう人を育てる機能があると、いいですね。これが多角化していくと、おもやの加工の仕事しながら、農業してもらったり、おもやの仕事しながらの農家です、って人が何人もいてもいいよね。

里:新しい兼業、新しいのれん分けですね。

杉:日本の兼業農家ってめちゃくちゃ多いじゃないですか。でも、その後土地を継いで息子がやるのかっていったらほぼやらない。だからこそ、おもやとしてチャレンジしたい。

里:だいたい百姓って言われだしたんは、農業の中に百の仕事があるわけではなくて、兼業していたんです、もともとは。農業以外に色んな仕事をしていて、江戸時代以降専業化したらしい。そういう意味では、先祖返りです。どういうサポートしてあげたら、兼業が生まれてくるんでしょうか。

この前、長野県伊那にある「産直市場グリーンファーム」(*1)に取材に行って、そこがいいなあと思ったのは、何時に納品してもいいんです。JAですと、朝六時半に来い、になる。きまりが厳しい。ところが、ここはいつ何時に納品してもいい、いくらの値札を貼ってもいい。すべてお任せ。売る人本位の商売。高齢者が卵納品に来るの見たんですけど、1パックを売りに来た。これはビジネスとは言えない。遊びですよね。でもそれなら兼業できると思うんですよ。

(*1)「産直市場グリーンファーム」。本誌151P、コトノネ30号「特集1地方で芽生えた『規格外』商法」で紹介

第8回(3/19木)へ続く>