『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク⑥

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第6回】若者を呼び込める農福連携。「田園回帰」活動もヒント
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撮影/中 乃波木

都市農業や観光農業―
農福連携が新しい農業をつくる

里:これからの農業は大型化、IT化など色んな動きあると思うんですけど、農福連携だと、新しい農業の可能性があるのですか。

吉:いま注目してるのが、アメリカなんかでやられているCSA(Community Supported Agriculture)です。大都市の近郊で、有機農産物をつくって消費者とじかにつながる。それで4ヘクタールとか5ヘクタールとかでもちゃんと専業農家として生きていける。小さい農家が増えてるらしいんです。そういう農業ってどんぴしゃ農福連携でやれるじゃないですか。

北海道とか東北の大自然の中、大規模にやるんじゃない農業は農福連携におまかせ、みたいな感じになってくればいいですよね。みんなで楽しく支え合う農業みたいで。消費者側の応援団ともくっついていけると、農福連携ももっとひろがっていくでしょう。

里:それは、都市に近い、消費に近いところに向いている?

吉:アルベルゴ・ディフーゾ(*1)も広がってきています。いまイタリアで流行ってる、集落全部がホテルっていうスタイルです。居酒屋さんみたいなところが食事を出して、農家は観光客の皆さんを泊めるだけ。それで来てもらって、色々体験したり交流したりして帰ってもらう。遠くから来てもらって、農福の現場に入ってもらうみたいな。収穫祭みたいなことの延長でやれると思うんです。

里:町の暮らしそのものを、文化として観光化する。

磯:観光客は食材も買ってくれる。

吉:もちろん。あと、「今回は行けないけど、ちょっと収穫された農産物を送ってー」とかなりますよね。別になんか特別のものがあるわけじゃないんだけど、日常そのものの生き方、時間を観光化するんです。

里:中能登なんか、そんなん狙ってる感じですね(*2)。

吉:榊原典俊さんが代表の社会福祉法人青葉仁会なんかは、宿泊施設をつくれば、すぐADはできますね。

里:宿泊施設はあります。

吉:でも、宿泊業できないんですよ、社会福祉法人は。それで、タダで泊めなきゃいけなくなっている。ホテルや旅館を持ってる人がいて、その人が指定管理の委託でやれば問題ないんですけど、社会福祉法人の所有なので、タダで泊めるしかない。指定管理で福祉施設がやってるところあるんですよね、京都で。リフレかやの里さんです。

里:京都のどこですか?

吉:天橋立の近くです。そういう先駆け的なところがね、榊原さんが宿泊やってくれたらワンツーで出るなと思って、すごく楽しみにしています。

(*1)アルベルゴ・ディフーゾは、略してAD。アルベルゴはイタリア語で「宿」、ディフーゾは「分散」、ADは文字通り「分散型の宿」という意味。1980年代、地震で崩壊した北イタリアの小さな村を復興するためのプロジェクトの一環として始まった。現在ではイタリア、欧州を始め世界各国で過疎化に悩む町や村の救済策として熱い視線を浴びている。その土地に根付く歴史、文化、人の営みを、観光資源化する点がポイントである。

(*2)『農福連携が農業と地域をおもしろくする』P214「発酵する福祉」参照

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撮影/中 乃波木

農福連携でも難しい
中山間地の農業

杉:中山間地域にも関わらせてもらっているんですが、なかなか農業は、大変ですね。

農福連携でも解決できない問題がいっぱいです。これはもっと色んな人たちが、農業をやってほしい。兼業農家、週末農業者、いろいろな農業スタイルを作りださなければ解決できない。農地だって、もっと借りやすくしてほしい。学校給食にもダイレクトに卸せるようなシステムにしてほしい。

吉:中山間は人がいなくなって、地域で回すのが難しくなってきているのが心配です。

杉:農をやりたい人は増えてきているのに、活かしきれない。だいたい就農の最初でつまずく。

吉:おもやだったら良さそうですよね。住んでる所からすぐ農地に行けるし、中山間だってそんな時間がかからずに行けそうですしね。

杉:磯部さんところでも、新規就農者はいるんですね。

磯:いますけど、うちは中山間地域ではないですね。

杉:中山間地域の耕作放棄地の再生がバーッと取り上げられて、いい取り組みの記事なんですけれど、中山間地域の復活は簡単にはいかない。土地は守れても、売り上げ利益は出にくい。ビジネスにならない。これは農業の方の大きな課題で、どないしたもんかなあと。

里:農福連携でなんとかできる部分は…。

吉:やっぱり新しくその地域に来る人となんかやるしかないんですね。住んでいる人には宝があるのが見えない。外からくると、こんなええもんがあるのに!もったいない!というふうに見えるから、それを中心に仕掛けて何かやる。

藤山浩さん(*1)という島根県で「田園回帰」を研究されている方がいて、藤山さんによると、若い人が過疎地域にどんどん入ってきてるんですよ。都会にないものを求めて、都会が好きな方とは価値観が違う人たちが。そういう流れをどう大きくしていくかみたい研究も、うちの研究所でも若手集めてやってるんですけど。農福連携だけじゃダメで、総動員しなきゃダメなんですよ。そこが大きな課題です。

磯:身近なとこでやってたら事例になったり、そんな気分になったりすれば、できるかもしれないが。

吉:いまの10代の子たちって昔とちょっと違うらしいですね。一生社畜になろうと思ってる人いないし、生きてる間に何かいいことしたいと思ってる人もけっこういる。そういう子たちを取り込めたら、案外若手が「おもしろいから住み着いちゃおう」とかなるかもしれない。

里:農福連携で若者を呼び込もう。

(*1)藤山浩さん。島根県立大学連携大学院教授。島根県中山間地域研究センター 研究統括監。「田園回帰」により人口減少を解消するために活動。人口と所得の1%を取り戻す戦略を進める。

第7回(3/17火)へ続く>