『農福連携が農業と地域をおもしろくする』出版記念 3時間ノーカット・トーク⑤

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毎週2回(火曜日・金曜日)掲載。11回シリーズ連載。
現場の本音も悩みも、すべてノーカット。農福研究者の吉田行郷さん、自然栽培の実践家・磯部竜太さん、杉田健一さん、そして、コトノネ編集長の里見喜久夫が語り合う。

●吉田行郷さん
農林水産政策研究所 企画広報室長

●磯部竜太さん
社会福祉法人無門福祉会 事務局長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)理事長

●杉田健一さん
NPO法人縁活 常務理事長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長

●里見 喜久夫
季刊『コトノネ』編集長
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(略称:自然栽培パーティ)副理事長
NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)監事

 

【第5回】障害者との敷居も、農福連携が解きほぐす_31_PGs2_3107cr撮影/中原 了一

人のやる気を引き出す人
人のやる気をつぶす人

吉:お金の出所が違うからそうなっちゃうんでしょうね。

磯:いままで厨房で働いていた利用者さんで、仕事にやる気もあるし、できる人がいました。障害者雇用からパート雇用に切り替えたら、いままでのパートさんからえらい文句が来ました。時給はいっしょですか?みたいな。でも、働きぶり変わらないと思うんですけどね。

里:磯部さんから見たら生産性はあんまり変わらへんのですか。

磯:まったく変わらないですね。ただ、理解力は違いますよ。

吉:いままで自分が上だと思っていたのに、評価を落とされた気分ですか。

杉:それが福祉の職場で、あるってことですよね、いまも。

磯:農福連携をやってくると、そんな概念に縛られない。ときほぐされてきたって感じです。

里:それは、磯部さんが?

磯:わたしもそうですし、職員もそうなんじゃないかなと思います。

里:いま言ったパートの人とか、ほぐされない人もいてるわけですよね。

吉:彼らが努力して立派だとは思わないんですよ。

磯:そういう概念に世の中が支配されているからでしょうか。それを解決できるのが農福連携。

里:俺はこんなことほんまは嫌やねんけど仕方ないからやってんねんで、と言いたい。それはたぶん、やまゆり園の植松被告の心境やと思うんですよね。俺はお前よりも知能が高くて、それなりの大学行って勉強して、努力もしてきたのに、こんな目にあっている。お前は何も考えんとそのまま生きてきて、なんでそんなにみんなから守られんねやと。妬みですね。

吉:よく精神と知的が混ざってる施設でそういうトラブルがね。精神の方が知的の人をそういう目で見てるんで。なんで俺がっていうのはあるらしいですよ。

杉:福祉施設の職員で、そういう思いを持ってる人は少なくないと思います。

吉:障害者を子供扱いするようなすごい言葉遣い、いつまでもする人がいますしね。

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撮影/河野 豊

人を下に見なければ、
自分が肯定できない人

杉:指導者/利用者だから俺は言う、という一歩通行しかできない人には、「あなたは障害者とどう生きていきたいの?」ってたずねて一緒に考えます。その考えがまったく共感できないのであれば、障害福祉の仕事はしんどいと思うし、しんどいのにいてたら、そのスタッフはずっと不幸だわと思う。

だからもっと幸せな場所で働くべきやって思います。ここじゃない、このスタッフが輝く場所は。だからここにいるより、あなたがもっと輝くところの方いい。うちのスタッフもメンバーさんも、誰かを認めない、否定するような仕事の仕方とか意見とかを聞くと、違和感を感じるんですよ。

吉:そうはいっても、簡単にクビにできないしね。

里:パワハラ・セクハラの壁もある。それに、スキルの高いマネージャーを得られるわけでもない。悩ましいところです。

磯:農福連携をやるようになって、つくづく思います。自然とかけ離れすぎちゃったのかなーっていうか、生きることに、もっとシンプルに向き合えばいいんじゃないか、と。

何で生きてるかとか、僕そんなこと考えたことないですけど、大学卒業して勤めなあかんから勤めて、金稼がなアカンから稼いで、でもそれが生活だし、年収で評価されて生きてきた。そんな生きるってもんだと思っていた。

だけど障害の人をきっかけに農業を本格化させたときに、将来地域がこうあるといいなとか、自分たちが生きていく上で、こういうことって幸せだったよなっていうことに改めて気づいた。「カブがとれたねー、おいしい」って言って、夕飯カブだけでも十分なんですよね。自然に感謝して生きていく、そういうのが素晴らしいなっていう。そこに向いたときにいろんなルールがなくなってきた感じはあります。

吉:福祉の立場が、じゃまするんでしょうね。職員さんは障害者のための働く場所を確保して指導するのが仕事だから、国のお金が出てますみたいな。自分も指導者っていう感覚でやるから、どうしても上から目線になっちゃうところがあるのかもしれません。

杉:お互い農をするときに、種まいて、みんなが育てる、っていうこと。土台はみんなが作物の支援者になろうぜっていうのでいきたいんですよね。

吉:大阪いずみ市民生協さんは特例子会社とA型事業所の両方を持たれていますが、その整理が分かりやすくておもしろい。A型の方は、職員さんと障害者は、こっちが教える人、こっちは教わる人だから、同格じゃありませんと。この人たち(職員)は、この人(障害者)をいかに働けるようにするかが仕事です。この人たち(障害者)はできるだけ早く普通に働けるようになって(A型を)卒業するのが仕事です。特例子会社は違うんです。健常者も障害者も定年までいっしょに働く同僚で、ユニバーサル、同格ですって言う。上下関係はなし。その感覚っていうのが、働いてる人たちもいっしょにやってる感があるのかもしれない。

里:なんか僕は孤立してきた感じがすんねんけど…(笑)

杉:いやそんなことない!(笑)

里:けれど、杉田さんのところで、僕が障害者の人と上下関係でやってるとするやないですか。納期が遅れると。怒られるのは俺ですよね?

杉:メンバーさんにも言いますね。土日水やりしてるんですけど、平日の管理があれっ?ってなったときに、メンバーさんを含めて、みんなの前で言うようにしてます。「はじっこの水やり、なんで最後までやってへんの?」とか。スタッフの問題じゃなくて、みんなの問題やん、と思って。

里:スタッフとメンバーを上下関係にしないことが、大切なんですね。

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撮影/岸本 剛

自然からかけ離れていた。
おカネにくっつきすぎていた

吉:農業の空の下の仕事では、職員も利用者も一体感が出てくるんじゃないですかね。いっしょに何かやってる感ですね。

磯:いっしょにやる場面が、どうしても増えますもんね。ただ運ぶだけの人も、やっぱりありがたくなりますし。運ぶしかできんじゃん!とか思わないですね。

里:ありがたい?運ぶだけで。

磯:ありがたいですよ。この前も稲刈りで、夜8時くらいまでかかった。入所の利用者さんも3、4人も作業してたんです。

グループホームの利用者さんとか、最後うちの施設に来て、脱穀までして、「グループホームまで送っていきましょうか?」って言ったら、「一人で帰るからええわ」と返事がかえってきて。たくましい。

なんていうか、ほんとにいっしょになれる感じがありますよね、農業っていうのは。

里:たしかにそう言われてみたら、企画書明日までに上げてきて言うたときに、いっしょにやってる感がでないですね。マイナスばっかりが頭に出ますよね。これは、わたしの性格の問題なのか(笑)

杉:畑に出れば性格も薄まります(笑)

里:ほっといて。

磯:あと、あんまり時間にしばられてない感じがしますね。納期守らないといけないとかありましたけど、それすらもなくなってきてるのかな、うちは。納期を守らないわけじゃないんですよ。ただ、忙しかったりしたら、何してるの?って人もいますけれど、別にイライラしないですね。みんなでやってる感じはしています。

里:ギスギスしないんですね。

第6回(3/13金)へ続く>