【梶原真智　連載コラム　ワンハンドキッチン】満たすみかん

ワンハンドキッチン　梶原真智

2019年12月26日

【梶原真智　連載コラム　ワンハンドキッチン】満たすみかん

冬といえばみかん。寒くなってくるといろんなものがおいしくなってくるのだけど、食べたいなあと思うのは、やっぱりみかん。季節を問わず手に入る時代になっても、冷たくなる風に頬強張らせながら帰る部屋でほっと食べたくなるのは、昔懐かしいこの味。一番おいしく感じるのは冬であるように思います。特に好きなのは手に取るサイズは小さいけれど独特の香りを持つ温州みかん。いろんな国の様々な柑橘類を食べ比べてみても、このおいしさは特別。うすく剥ける皮の中からやさしい色の果肉がのぞくとつい微笑んでしまうのは自分だけではないような。白く見える筋部分にも栄養がある、乾かした皮は薬にもなると聞かせてくれたのは誰だったのか。家とのつながりを連想させる果物といえば、やっぱりみかんなんだよなあとしみじみ感じてしまう存在感もあって。師走になり、なにかと慌ただしくなるこんな時期だからこそ、少し落ち着いて味わいたい。本当はそんな時間も欲しいのかもしれないのだけど。

身体が資本とわかっていながら無理を重ねることが増えてきたこの冬、久しぶりに体調を崩しました。病院にも薬にもできるだけお世話になりたくなくて、健康だけには気を配ってきたつもりだったのに、身体のあちらこちらが悲鳴をあげるこの感覚。具合が悪いってまさにこういうことなんだなと思う自覚がある内に、思い切ってリセット時間をいただきました。
外が明るくなっていくのを感じながらも目を閉じていると、やらなきゃいけなかった事が次々押し寄せるトゲトゲしい波とそういえば自分に優しくする時間とれていなかったというどんよりした波とが交互に押し寄せてきます。ただ後悔。ため息つきながら、でも今は療養しなきゃとさらにきつく目を閉じる。もしかしたらこのまま寝込んでしまうのかも、なんて、気持ちまでなんとなく病気になっていく気配。一人暮らしの気楽な孤独は健康あってのものだよなと思ったり、ベッドサイドのペットボトルに反射する光が壁にゆらいでいるのをぼんやり眺めたり、繰り返すもやもやとした気だるい時間。食べたい気持ちが湧いてこない。水分だけでも取らなきゃとわかっていても、なるべく動きたくないという思いがどんどん活動を小さくしていく。そこからまたうとうとするけれど眠りきる体力がない。典型的なエネルギー不足。

それでもおやつ時まで休めば苦しかった息がようやく楽になって、さあ切り替えようとカーテンを開けると、いつもの草取り軍団がこっちに向かって座っているのが見える。え！と驚く暇なく「ちゃんと寝とるの」「生きとるか」「食べんとだめよ」「起きとるか」「歩けるか、あ、歩けんか」顔みせたとたんにまあ賑やかなお見舞いが押し寄せる。いったいいつからそこにいたのか。しばらく畑も休むくらい忙しくて、どうやら調子が悪いらしい自分のために、これなら困らないだろうとそれぞれが持ってきてくれたのは示し合わせたように、みかん。ほいほいと手の上に積み重ねられる果実は軽いはずなのに、ひとつひとつがずっしりと感じられる。ようやく絞り出した「こんなに食べられないよ」の声に、「大丈夫」「みんなで食べるから」「ビタミン不足だったのかもねえ」と大笑い。そういえば今年はまだ食べていなかった。やわらかい果肉と果汁がほんとにいい色でまぶしくて、久しぶりに食べてるなあと楽しいが蘇る感覚。もう冬だねえ、お家でみかんはおいしいねえと分かち合いながら、ちょっとだけ泣きそうになったのは内緒だけど。