【梶原真智 連載コラム ワンハンドキッチン】番外編 挑戦のススメ

onehandkitchen

ワンハンドキッチンは当事者による当事者のための料理教室として、参加される方のおいしいと自信を作り続けています。

日常を中心にできることを少しずつ増やしていくきっかけとして、その人に合ったやり方を一緒に見つけていく。派手なパフォーマンスはないけれど、変わってしまう環境や思いがけない出来事にゆらぐ気持ちに寄り添いながら、少しずつ自身の世界を広げていくそんな関わりです。自分の経験からちいさくちいさくはじめた活動ですが、続けている内にひろがるつながりに自分自身が助けられることもあったり、改めて学ぶこともあったり。試行錯誤しながら時にはカタチを変えながら未だに成長を続けている、現在進行形の支え合いにも近いゆるやかな場作りの一つでもあるようで。

おかげさまであちらこちらからお声かけいただき、活動を続けていると、地域のおいしいもの便利なものに出会うことも多くあって、作っている人のことも含めてもっと沢山の方に知ってほしいとも思うことも少なくない。知られていないのはなんだかもったいないなあ、こうしたものを応援していけたらなあと思う場面も結構あって。これまでは活動の中で伝える「お土産情報」として工夫したり試したり参加される方々とその場でちいさく楽しんでいたのですが、あるイベントでのご縁をきっかけに新しい挑戦をさせていただきました。今日はその時のお話。

いいものを一つだけ紹介するイベントがある、というのは少し前から聞いていました。その名も、『旅するいっぴんいち』。SNSで流れてくる写真や動画を眺めてはいいなあ、行ってみたいなあと思うけれど毎回タイミングがあわず、よかったよ!楽しかったよ!との感想をうらやましいなと聞くばかり。いつかこうしたイベントへも挑戦できたらな。様々なことに関わらせていただく機会は増えたのだけど、車いすでの行動は歓迎されるばかりじゃない。以前参加した時の嫌な思いがまた頭を過る。諦める方が慣れている。深呼吸して、切り替えよう。活動を広げるが故の慎重な、といえば聞こえはいいけれど、実際にはすこしのトラウマを抱えてしまっていたそんな自分の背中を押したのは、これまで教室に参加してくださっていた皆さんでした。

「誰かを応援してばかりじゃなくて、あなたがやりたいこともやってみたら?」「応援する側にも、ならせてよ!」

そんな声々がありがたくて、ようやく参加するという挑戦を決めた次第です。

現在、ありがたいことに自分にとってのいいもの・好きなものに囲まれて生活しているのですが、ハンデや世代や場を限らずお勧めしたい“地域の良さが詰まっている、素敵なもの”となると候補は果てしなくあって絞り込むのはほんとに大変。だけど、手に取ってくださる方を選ばずにおすすめしたい!と最初に頭に浮かんだのはこれでした。手の中に納まるサイズの、片手で使える缶切り。

缶切

これは車いすを使うようになってから出会った、実は60年以上前からのロングセラー製品です。世界初のテコ式缶切りとして愛され続けてきた、株式会社プリンス工業(新潟県三条市)の「ゼット缶切」。縁起のいいひょうたん型でレトロかわいいこの感じ。実用品としてアウトドアや万が一の災害時にも活躍する、煙草の箱よりも小さいながら力強い存在です。

力弱くなった片手にちょうどいい持ち心地で、押し開いてきたのはけして缶のフタだけではなかったように思います。
出会いはバーカウンター。片手でシュポンと上手にビールの蓋を飛ばす友人が「いいもの、持ってるよ」と差し出してくれたのがこの品物で、赤い色が燻され色のテーブル面にまぶしくてあ!かわいい!と思ったのが初対面。裏側の突起がなかなかいい仕事していて、栓抜きになっています。カシュンとパワーレスな音でも自分で好きに開けられたのは嬉しかった。気に入ったなと見た友人がある日1つプレゼントしてくれたのですが、この品が入っていた箱にはまさかの日本語。手の中でくるくる動かしてハンデの有無に関わらず便利なちいさなものってあるんだ、改めて日本てすごいなあと思ったのが最初。これまで缶切りと聞いて知っていたのはもう片手で支えて、自分に向かい引くように動かす長細い姿。けれどこの缶切りの持ち方と手指の使い方で出来ることがぐっと広がって、そこからはなくてはならない存在。そんなに大事に使っていたのに引っ越しの混乱でいつのまにか失くしてしまっていて。いつか見つけ出したいと思いつづけていたところ、偶然リブランディングされた姿で再会することになったのもびっくり。

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イベントではものづくりの町のお土産としてもおすすめなこの逸品を中心に、ワンハンドキッチン®での活動エピソードもお伝えしながら、ブースに足を止めていただく方々と楽しく交流を重ねました。展示ブースの備品一つ一つも手作りしながら、展示するところから面白かった。イベント関係のスタッフさんや横並ぶ他のブースの皆さまからも温かくサポートいただきました。慣れない事ばかりではあったのですが、とても楽しくとても有意義な時間でもあって。ハジマリってどこから動き出すものかわからないけれど、ハジマルと生活に彩が戻ってくる。怖がるばかりじゃなくて、一歩前に自分でススメ。まだまだこれからも新しいこと、楽しんでいきたいなと思えるようになった挑戦でもありました。
※参加したのは虎ノ門の新虎通りで9/14開催されたイベントです

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新しいことに挑むとき不安の波にのまれてしまうけれど
うねりに身を任せてみると意外な角度の空も知ったり
風に吹かれて振り向いたとき思い込みの霧がはれたりもする
やさしい道具はみんなにもやさしいその当たり前を広げていきたい
だけどでもどうせの道切りひらくゼット缶切、いかがでしょうか。