【連載コラム ただいま暗中模索中!ぷらぷら作業療法士の鈴木洋介】「あなたにもできることはある」

ぷらぷら日記-01

またも北欧にきている。

ノルウェーのオスロは、とっくのむかしに夏至が終わっているとはいえ、21時ぐらいまで明るい。でも、着実に秋の気配しのび寄るで、長袖に何か羽織らないとちょっと寒い。それでも、友人宅のベランダでワインを呑んでいると、ひんやり気持ちよく、よくわからない友人同士のノルウェー語もまた心地よい。

オスロには、わずか2日間の滞在だったが、つくづく、「違う」を経験することの大事さに気づく。自分のものさしのちっぽけさに気づき、一度リセットして、お互いが歩み寄ることで「違い」を乗り越えられることに去年の旅では気がついた。そして、今回は、小さな心配りの積み重ねが人の幸せにいくらでも左右するのでは?ということである。

2010年にデンマークへ留学した時、エーバルド・クローさんに出会った。筋ジストロフィーの当事者である中で、当事者自身が社会の不十分な制度や偏見と言ったことに向き合い、グリーンコンサートという今ではデンマークでは知らない人はいない有名な屋外音楽イベントを始め、活動資金を集めたのである。

yousuke1
エーバルド・クローさんと(2010年)

自分なんて…と卑下していた私に、クローさんは、「あなたにもできることはある!」と言った。クローさんに影響を受けたあの時の自分は、社会を変えてやるんだ!なんて意気込んでいた。しかし、あれから9年も経って、時々、「自分は一体何をしてるの?」と問うことがある。クローさんのように、何か大きな影響力のあることを成し遂げている訳では無いのだ。正直、今の自分に自信はない。9年前の自分にごめんと言いたくなる。北欧にこんなにも来ているのは、もしかすると、そんな自分を慰めてみたり、あの頃を思い出そうとしてみたり、ちょっとした逃げ場になっているのかもしれない。

たくさんのノルウェー人の中にいると、会話はノルウェー語である。典型的な遠慮がち日本人である私は、へ〜とかふーんとか、わかりもしない中で相槌を打つ。そんな中でさりげなく英語に切り替えて会話を途絶えることなく続けようとする人がいる。それに同調して、みんなが自然と英語で話を始めてくれるのである。私はこの瞬間が好きだ。ここに自分が存在していることや、自分が戸惑っているであろうと察してくれたことが嬉しいからである。

こういう、ちょっとした瞬間に沸き起こる嬉しさに、いろいろな場面で出逢う。飛行機の中で隣の人の大きな荷物を見て、棚に乗せましょうか?と尋ねて、ありがとうと笑顔で言われると私は嬉しい。カフェに行って、「そのシャツ素敵ですね。」と言われると、認めてもらえた気持ちになる。赤ちゃんを抱いたお母さんに席を譲る少年をみれば、私自身もなんだか今日1日頑張れそうな清々しい気がしてくる。不安ばかりの「違う」ことばかりの中で、確実に救われるこの小さな積み重ねが幸せに繋がっていると実感している。

「あなたにもできることはある」。
私たちが日々の中で簡単に起こせる小さなアクションの積み重ねで、誰かを励ますことができるかもしれないし、誰かの勇気につながるかもしれない。わたしにもできる身近な小さな積み重ねで、社会はいくらでも変わっていく可能性があるとわたしは信じている。

yousuke2
オスロの友人たちと