コトノネだらだら座談会 のぞき見版【6月21日 安曽潤子さん】

右奥に立っているのが安曽さん

右奥に立っているのが安曽さん

6月の座談会でお話ししてくださったのは、インクルーシブミュージアム代表の安曽潤子さん。博物館の学芸員・科学コミュニケーターとして、年齢も属性も様々な人と向き合ってきた安曽さんの弾むようなトークに、会場はあっという間に熱気で包まれました。

博物館というと、マニアックな展示をしていて、なんとなく敷居が高い……というイメージがあるかもしれません。でも本来、博物館は「すべての人に公開されること」が保証された場。「特殊なニーズを持った人々には特別の配慮がされなければならない」と、国際博物館会議の倫理規定にも定められています。そのために行われている様々な工夫が、今回のテーマ。

お話は、「子どものころ好きだったことは何ですか?」という問いかけから始まりました。安曽さんは、小さいころに図鑑で見た「変な形の生きもの」に心ひかれて、古生物学の道へ進んだそうです。その後、海外の博物館で始まった「ハンズオン」(展示に関わる内容を、実際に手で触れて学ぶことができる)という取り組みを知った安曽さんは、「これがやりたい!」と、学芸員になる道を選びます。

安曽さんがインクルーシブミュージアムに興味を持ったきっかけは、病院内学級のドキュメンタリー番組で「この子は死ぬのに、どうして教育が要るんだ」という医師の言葉を耳にしたこと。教育は何のためにあるのか。誰でもいつかは死ぬのに、学ぶのはなぜか。教育の本質を問われ、「一番届かないところに届けたい」と考えた安曽さんは、のちに病院内学級でのゲスト講師を始めました。「そのときに子どもからもらった手紙ほど嬉しかったものはない」と言います。

「誰にでも開かれた場所」であるために、博物館で行われる取り組みは、来館者に対するものだけではありません。資料として障害者やマイノリティの作品を扱ったり、展示やイベントなどの表現を工夫したり、多岐にわたるといいます。ハード面から、常設展示、ソフト面の工夫にいたるまで、世界各国の取り組みが紹介されました。

最後に、安曽さんは強い実感を込めてこう語ってくれました。「伝えることをあきらめてはいけない。自分があきらめられたら悲しいと思うから」。知的障害のあるお子さんなど、複雑な内容を理解するのが難しい方でも、自分でもできる体験を重ねるうちに、展示に向き合う姿勢がどんどん積極的に変わっていくといいます。「博物館が、社会の中で暮らす第一歩になれば」そう話す安曽さんの目には、「伝えたい!」という熱い思いと、誰もが「知りたい!」という気持ちを叶えられる未来が映っているような気がしました。

安曽さんの取り組みについてもっと知りたい方は、こちらのブログものぞいてみてください。
「地球科学(古生物学)」「博物館」「ソーシャルインクルージョン」などの話題が、詳しくない人にも分かりやすく、ゆるっと紹介されています。
http://slack-geo.blog.jp/

次回の座談会は7月26日。日本セクシュアルマイノリティ協会の伊藤淳史さんにお話いただきます。
お楽しみに!