【梶原真智 連載コラム ワンハンドキッチン】いまここのバターチキンカレー
ある日は夏日。ある日は寒気。気温の落差に体調を崩してしまう人が少なくない5月。それはこころにも影響するようで「なんだかだるい」「気分がはれない」「モヤモヤすることが多い」そんな声が入ってくることも少なくありません。経験的にマイナスの感情に気付いたとき、その都度対策することが、結果的に効率がいいように思います。うまく表現できない想いをできるだけ知っている言葉に置き換える、ゆっくり深呼吸する、原因を見える化してみる、とか。それでもすっきりしない気分の時は、自分の好きを大事に過ごす。例えばキッチンにたってみたり、とかも。
おすすめはカレーです。辛い味が苦手な方も、複雑に重なり合う香りの魅力には惹かれてしまう不思議なメニュー。これにはちゃんと理由があって。「求める味はいま自分に足りないものを教えてくれているのだから、気になる香りを取り込みなさい」と教えてくれた人がいたから。これは医食同源という言葉にも当てはまる考えなのかもしれません。複雑に組み合わせるスパイスであるからこそ感じる香りは体調や気分で変わるから網羅するカレーこそ万病に効くおいしい薬、とも。
実は怪我する前、匂いが強いものは少し苦手でした。けれど「スパイスには人を活かす効果があるの」そう聞かせて食べさせ元気をくれたママさんとの出会いがあって。まさにアドバイスをくれたのがその人。知り合ったきっかけはアルバイト先で作っていた片手のまかない料理で「面白いことできるのね」と笑いながら手元の動きをまねして頷いていた見物者の一人。元々生活エリアが共通ということもあり、少しずつ親しくなり、家庭料理をご馳走してくれるようになりました。お邪魔した食卓には色鮮やかな料理があって、添えてあるのはチャパテイという薄いパンのようなものとバサバサのお米。表現が難しい甘みのような頭の奥に響くような味わいの野菜煮込み、和えたもの。なじみのはずのチキンまで不思議な味で、だけど使っている材料は少ない。どうしたらこうなるのかまったくの謎。たくさんの瓶やタッパーに占められている謎のキッチンに興味がどんどん沸いてくる。思い切って「これつくりたい」お願いしてからはスパイスにはまることになりました。熱い国で育ったママさんは料理を勉強したことはなかったというけれど、生活の中にあるおいしい味を引き出す温度やタイミングを経験的によく知っていて、今日の出来事を片言で伝えあいながら教わるのがまた楽しかった。うまくいかないと悩む姿も面白がってくれて、失敗も当たり前と笑い飛ばす元気をもらいました。そうしたお付き合いから、近くに住む他のご家族とも仲良くなりまた異なる国由来の料理を知ることにもつながっていきました。広がっていく知り合いの中で自分が知っている和食の作り方や片手でのキッチンツールの使い方を共有することも多く、同じくハンデを持つ仲間も増えていきました。当然ながらいざこざや言葉の壁は沢山あったし、平穏無事な生活ではなかったけれど、今思うとあの経験は互いに共に生きていくことを体験学習していたようにも思います。
もしかしたら苦労も危険もなく穏やかに日本で過ごすという選択肢もあったのかもしれません。でも、どうしようもないことをわかっていながらいつか誰かが助けてくれるという根拠のない勝手な理想と変わらない現実とのギャップにいつかは限界を迎えていたのかもしれません。安全な管理された空間で過ごすよりもドタバタしながら現実世界で行動することを選び、試行錯誤や喧噪や葛藤の中でやりたいことを見つけ出せたことが、自分を救えるのは自分しかないと気づかせてくれたように思います。
①鶏肉を漬け込む
※唐揚げ用の大ぶりカットが気になるときはキッチンバサミで小さくしてもいい
※ビニール袋に入れてAを入れてもみ込む
※ヨーグルトは無糖大さじ3と砂糖大さじ1でもいい
※(できたら冷蔵庫に)30分以上置いておく
②トマトはちいさめに切る
※缶詰でも可能、生のトマトだとあっさり味になる
※今回は種を取っているがお好みで、ミニトマトであればそのままでもいい
③鍋にバターとBを炒め、トマトを入れる
※バターが溶けてきたらでOK
④漬け込んでいた鶏肉を漬け汁ごと鍋に追加して煮込む
※時々混ぜながら10分
⑤生クリームを加え全体に混ぜ込んだら火をとめ、盛り付ける
勢い強くはしるのも時には必要なんだけど
ひとりしかいない自分だから
疲れたときはおいしいのちから
やさしさのスパイス包むバターチキンカレー、出来ました。
これまでのお話は、コチラ