【連載コラム ただいま暗中模索中!ぷらぷら作業療法士の鈴木洋介】 「旅は人生を豊かにする」

ぷらぷら日記-01

実は、今、デンマークでこの記事を書いている。
もう少し、詳しくいうと、ノルウェーの旅を終え、デンマークに滞在している。
木曜の夜に日本を発って、翌週木曜の夕方に戻ってくる1週間の旅。
自分にとっては、「1週間も」休めるのに、2週間、3週間と休めるノルウェーやデンマークの友人たちには、「弾丸だね」と言われてしまう。

“実は”がもう一つあり、5月にもデンマークに来ていた。
福祉先進国と言われる北欧ではあるけれど、視察や見学ではない。自分がここにくる目的は、いつも、「友人との語り合いを通して、この国を感じること」である。

ついた初日は、以前来日した友人と材料の買い出しに行って、ビールを飲みながら、お互いの身の上話をしつつ、料理をするような感じであった。少しずつ酔いが進んでくると、東京に彼らが来たときには全く知らなかったような、失恋で苦しんでいたり、仕事で疲れていたり、マンションが早く売れることに夢中になっていたり、だいぶ、彼ら自身の、リアルな「日々の暮らし」が見えてくる。

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暖かい光の中で心地よい時間

私が仕事や将来のことで悶々としている頃、地球の向こう側で、彼らも彼らなりに、日々、悩みながら生きているんだ、という、当たり前だけれども、新鮮な気づきが得られた。

次の日の朝、ノルウェーの空港で買ったオレンジジュースは、500円。そういえば、友人とバーへ行ったときに、ジントニック頼んだら1500円で、絶句したけど、ノルウェーはお酒が高い国。100円すらもケチって節約生活をしている自分にとっては、ものすごい衝撃だった。おかげさまで、泥酔することなく帰宅。言葉も違うし、食べ物も違う。ドアの鍵の開け方、歩行者用ボタンの押し方、エレベーターの入り方、ありとあらゆることが違うから、みようみまねで学ばないといけない。友人との会話も、それぞれ母国語が英語でないから、お互い、「英語でいうとなんだっけ?」と確認しながら話す感じ。全部を理解できなくて、お互い、手探りしながら会話をしていく。違う事ばかりなので、共通点を探したり、違いを学んだり、違うということをまずは受け入れてみようとしたりする。そうしていると、自分がいつも正しい訳ではないし、正解とか絶対がないような気持ちになる。大事なことは、理解しようとすること、学ぼうとすること、受けいれようとすること。

翌日、友人が「クリスマスで綺麗だから」ということでチボリ公園へ。
待ち合わせ時間を聞くと、「じゃあ、仕事終わった後だから、5時ね!」と言われる…。最寄駅への向かう電車は、自転車の乗り入れがオッケーだけど(そのこと自体も驚く違いだけど)、15:30-16:30は、「帰宅ラッシュ」なので自転車の乗り入れができない。実際、17時の待ち合わせにと向かう電車の中は、帰宅ラッシュでそれなりに混んでいる。友人に、「日本の帰宅ラッシュっていったら、19時とか20時とかだよ」というと、「そんなのありえない。余暇の時間をどうしているの?」と、そりゃ、8週間の有給休暇が「当たり前」の彼らにしてみたら、驚くのも無理がない。「そんなに長い時間をかけないと仕事って出来ないものなの?」と問われる始末で、返す言葉がなくなる。デンマークの彼らにとって、仕事も大事だけど、同じぐらい家族や友人と語り合ったり、自分自身と向き合ったりする時間が大事なのであり、「ヒュゲ(hygge)」と呼ばれているデンマーク人独特の心地の良い感覚というのは、こういう暮らし方から出てくるのかなと思う。

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帰国日、チェックインカウンターで話しかけてきた酔っ払いの「おじいさん」は、「これからタイへ行くんだ!あそこはとてもビューティフルなんだ!」ということを、3回ほど繰り返した後、「酔っ払いでごめんね。昔、軍隊へ所属していてアフガニスタンへ行ったんだ。ここが(頭を指差して)イカれてしまったんだよ。だから、酒を呑まないと(辛い記憶が)忘れられなくて、呑んじゃうんだ」と語ってくれる。飛行機の中では、隣の席の中国出身の女性が「スウェーデンで研究職をしている」と話が盛り上がった後、実は、今朝、彼女の父親が神経難病で亡くなって、なんとかチケットが取れて飛び乗ったと語ってくれる。

この広い世界で、「違う」ばかりの彼らと、語り合うことで得られる気づき。語ることで、相手の世界に少し近づき、自分のモノサシがどれだけちっぽけなのか、いつも気づかされる。

旅は人生を豊かにする。
それは、日常の中にいては出会えない人たちに出会い、語りを通して、彼らもまた私と同じいろいろなストーリーを持った同じ人間であるということに気づき、自分のモノサシのちっぽけさを再認識しながら、「違い」を少しでも乗り越えられるような気になるからなのかもしれない。