【超・幻聴妄想かるた、できました 新澤克憲】第5回 つくってみようみんなのかるた

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障害/健常

言葉とは難しいものです。「障害は個性!」、「みんな違ってみんないい」そんな言葉が聞かれるようになったのはいつ頃だったでしょうか。それら言葉たちを眩しく感じながらも、「障害者」が排除と差別のなかに置かれてきた歴史を思うと、その楽観的な言葉には抵抗があります。精神障害の範疇だけでも、未だに解消されない長期入院、メディアの偏った「通院歴あり」の報道等の当事者を社会から切り離すような壁は、「優生保護法」の下に断種手術を施した過去とどれほど隔たりがあるというのでしょうか。

また、「障害者は、美しく、純粋」といったステレオタイプの褒め言葉にも違和感を感じます。社会から排除されてきた障害当事者に人としての尊厳と可能性を見出そうという言葉であったとしても、社会が固有のイメージの中に閉じ込め、排除していることには変わりない気がするのです。
大事なのはすべてを個人の属性に帰すことでも、「障害者とは」「障害とは」と一般化することでもないと感じています。一方は障害当事者が既に被っている不利益を見えなくしてしまい、もう一方は、個別の違いを覆い隠すラベリングにつながります。

そんなことを言っている私自身も20数年、障害福祉の現場に身を置いていながら、そういった「線引き」や「排除」に加担してこなかったと言えるのだろうか。いろいろ考えることはあるけれど、幻聴妄想かるたを発信することを通じて「障害/健常」の境目をグルグル回りながら、答えの出せない問いを発し続けているだけかもしれません。

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2014 @東京都狛江市

つくってみようみんなのかるた

ハーモニーがつくった「幻聴妄想かるた」のシリーズには、直接「精神症状」を扱ったものもあれば、当事者の日々の生活のつぶやきのようなものもあります。
かるたを手にした人がどんなふうに感じてくださるのか、私たちもとても関心がありました。取材に対して「楽しんでください」と答えることはありますが、できるだけ「こんなふうに感じてほしい」というメッセージは控えるようにしています。

ある時、展示会場にゲストブック代わりの白い札を置いて、来場された方たちに、自作の札を書いていただいたことがあります。色鉛筆などで色をつけられるようにしたのですが、これが予想外に好評でした。

メンバーへのメッセージを記されたもの、子供たちの絵など楽しいかるた札が沢山のこされました。それに加えてご自身の「不思議な体験」「いままで人には言わなかったけれど、頭から離れない思い」「少々もてあまし気味の自分のくせ」など。描いてくださった札の多彩さに驚きました。
もしかして、かるたになりたがってる体験や思いは、ハーモニーの人たちだけでなく、日本中にあるのではないかと思い立ちました。

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2015年 @女子美大学

その後、展示会や講演会の会場で、白い札を置いて来場者にご自分のかるたを描いていただいたり、「つくってみようみんなのかるた」と題したワークショップを講演会の中でも行ってみました。
かるたのテーマは幻聴や妄想には限定せず「人にはあまり言わなかったけれど、自分でも奇妙だなと思っている自分のこと」「人から不思議がられる自分の癖」ありますか?なにも思いつかない場合は「ハーモニーのかるた大会をやってみた今の気分でもいいですよ」ということにしています。

そして、来場者のつくったかるたにハーモニーのメンバーが感想を言います。「やっぱり闇の組織はあると思うんですよね。がんばってください」とメンバーの田中さんがコメントしてみたりするのです。
当事者の集まりでは「入院なんて18回したぞ」「保護室を壊しちゃった」とか「深夜、自販機に指令を受けて一晩中歩きまわっていた」という内容に札には、ハーモニーのメンバーたちと歓声をあげました。

つくられたかるたの例

聞こえたよ、災害でもないのに サイレンが

みんな宇宙人 じぶんだけ 何もしらない

再入院 オレは多いぞ!18回

精神疾患の診断を受けていない人の中にも6%の人が「声」を聞いた体験を持つという調査結果もあるそうです(*)。「声」を病気に症状のみに限定する必要はない気がします。
学生たちの札には「誰かに見られてる気がする」「名前を呼ばれたはずなのに」「着信音がしたのに着歴がない」など。人との関係からくる不安を表したものがあります。若い人が対人関係にナイーブなのは昔も今も変わらないのだなと10代の頃の自分を振り返って思ってみたりしますが、LINEが題材になっているところに今という時代を感じます。

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2018年 @駒沢大学

ホワイトマン

ハーモニーの「幻聴妄想かるた」がキッカケとなり、参加者それぞれの経験が呼び起こされ、絵となり、その場の人たちとシェアされる。それが、それぞれの人のうちにある心と名づけられた不可思議な現象や「障害/健常」の境目のあやふやさについて思いを馳せることに繋がれば、それが何かのはじまりになるかもしれません。

そして、参加者に描いていただいたかるたによって私たちが力を得ることも少なくありません。私にとっても忘れられない何枚かのカードがあります。
絵札は鉛筆で丁寧に描かれていて、うっすら色鉛筆で塗られています。和室の室内が描かれていて、掃き出し窓のカーテンの向こう側の床の間あたりに白装束を身にまとった人が立っています。マントをヒラヒラさせている様子は、往年の戦隊ヒーローや月光仮面のようです。

字札には七色の文字で「ホワイトマン 来てくれて ありがとう!」と綴られています。
原因はわからないけれど、10代後半の息子さんが長い間、家から出られない時期があったそうです。心配しても何も話してくれず、心配な毎日が続きました。ある日、彼が、窓の方を見ながら、突然言ったそうです。「ほら、おかあさん、カーテンの所にホワイトマンがいるよ」

彼女には目をこらしても誰かいるようには見えません。どうしてしまったのだろう?一瞬、息をのむような思いでしたが、息子さんの話を否定してはいけないと、動転する気持ちを抑えて、そうね、ホワイトマンだねと答えたと言います。
ほどなく不思議なことが起きました。あんなにかたくなに外との接触を避けていた息子さんが少しずつ、外に出られるようになったのです。成人した彼は、今では元気に毎日を送っているということでした。

あの時、自分には見えなかったけれどホワイトマンが息子に会いに来てくれたのではないかと言います。「今頃になって言うのもおかしいけれど、私には見えなかったけれどホワイトマンは確かにいたんだ。ホワイトマン、息子を迎えに来てくれてありがとうと言いたくて、この札を書きました」。

無題

私は、描いた札を見せてもらい、話を聞いた時の自分の心の動きを今でも新鮮に思い出します。
息子さんから話しかけられた時に、お母様はホワイトマンを見てはいません。しかし、息子さんの声を否定せず耳を傾けています。そのことを私はハーモニーの人たちの話を聞き続ける自分自身に重ねていました。ホワイトマンは、私にとっては「地面を揺らす若松組」であり「起きている間はずっと見えている小さいおじさん」だったのかもしれません。
当事者が、自分の身に起きたことを語ることをためらい、迷い、足踏みをするように、その話を受け取る側も戸惑いながら、そこにいます。「信じてよ」と言われて身体がこわばり、「妄想かな」と尋ねられて一瞬言葉を飲み込む。それでも私やハーモニースタッフは「見た人の言葉に耳を傾ける」「聴いた人に思いを馳せる」ことを続けてきました。言葉を受けとめることの可能性を、このホワイトマンのエピソードは思い出させてくれました。

「みんなのかるた」のワークショップで描いた札を誰もが見れる展示室のような書庫のようなものがweb上で、できないかなとスタッフと話し始めたのも、ワークショップを続けている頃でした。後に加わったスタッフがHPをつくってくれました。まだまだ、発展途上ですが、アーカイブのページには500枚ほどの札が納められていて、今も新しい札が加わり続けています。(**)

<了>

(*)日本臨床心理学会編「幻聴の世界 ヒアリング・ヴォイシズ」中央法規2010 p.36

(**)幻聴妄想みんなのかるたHP

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この記事を書いている時点で、決まっている直近のハーモニーのイベントは次の2つです。よろしかったら、私たちの新しい『超・幻聴妄想かるた』を体験し、いっしょにかるたを書いてみませんか。

1.「新春 幻聴妄想かるた大会『は:歯車はガチガチだと動かない 少し余裕があって動くんです』

1月19日(土)19:00~20:30頃まで
*かるた大会の後、希望者による懇親会も予定しています
場所:Readin’Writin’BOOK STORE
(東京メトロ銀座線田原町駅から歩いて3分ほど)
定員:12人
参加費:1,500円 *お雑煮付き

2.齋藤陽道写真展「感動、」の関連企画

3月23日(土)14:00~16:30まで
益山弘太郎(詩人)×齋藤陽道
就労継続支援B型事業所「ハーモニー」の皆さん
ワークショップ(15:00~16:30)のみ事前申込・先着順(定員20名)無料(要申し込み)
申し込み、問い合わせは東京都人権プラザまで。
電話:03-6722-0123 ファックス:03-6722-0084 Eメール:tenji@tokyo-jinken.or.jp
申し込みは件名に「ワークショップ・幻聴妄想かるた」と明記のうえ、(1)代表者名(2)参加人数(3)住所(4)電話番号をご記入ください

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新澤克憲
1960年広島県生まれ。精神保健福祉士、介護福祉士。1995年よりハーモニー施設長。

就労継続支援B型事業所ハーモニー
東京都世田谷区にあるスペース。リサイクルショップ、ものづくり、公園清掃ほかさまざまな仕事を行っている。現在、30人ほどが利用している(2018年)。1995年に精神障害のある人たちが集う「共同作業所ハーモニー」として開所。2006年にNPO法人化、2011年に就労継続支援B型事業所に移行。

『超・幻聴妄想かるた』※本のみ、かるたのみでも購入が可能です。
購入は以下のハーモニーの注文ページまたは、全国の一般書店からの注文可能です。
現在手にとってご覧になれるのは、東京では、書店B&B(下北沢)、Title(荻窪)、on Sundays(神宮前,ワタリウム美術館内)、3331 CUBE shop&gallery(外神田,3331 Arts Chiyoda内)。そのほかには、鞆の津ミュージアム(広島県福山市)、書肆ゲンシシャ(大分県別府市)などです。

ご注文ページ
『超・幻聴妄想かるた(本+かるたセット)』
定価 3,024円(本体2,800円+税8%)
http://harmony1.theshop.jp/items/11545156
『超・幻聴妄想かるた(本単体)』
定価 1,728円(本体1600円+税8%)
http://harmony1.theshop.jp/items/11545170
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