【梶原真智 連載コラム ワンハンドキッチン】番外編 「外食」のミカタ

onehandkitchen

コラムを書き始めて半年、経ちました。

これまで料理教室でつながる方々へのみ連絡や情報提供をしてはいたのですが、不特定多数の方々へ向けての発信は正直言うと、どうなることやらと不安でいっぱいなスタートでした。ですが、コトノネさんからのありがたいお声がけに感謝しつつ今日にいたります。今回は少し料理を離れて近況についてお伝えしたいと思います。

最近はどんな箸にもつけることができる「デコわんパク」を製作、販売しています。これは持ち歩ける小さな福祉。

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ハンデを持つようになってから様々なことが苦手になりましたが、その中でも一番ハードルが高かったのは実は外食でした。お腹がすいたらご飯を食べる。そんな当たり前のことも外出先では悩みの種となりました。今では当時が信じられないくらい出歩いていますが、それは常にこの小さなミカタがそばにいるから。

長い休みの期間には久しぶりな出会いも多くて「せっかくだから会おうよ」と誘い誘われる機会も増えます。日頃はできるだけ人混みを避けていても、外の空気を感じながらお互いの近況や情報交換をしたくなります。ハンデを持つようになった当時だってそう思いました。いつもと違うところでおいしいものでも食べながら、たまには気軽に過ごしたい。新しくできたお店や気になっていた評判の料理も見てみたい。さあ出かけよう!と気持ちは昂るのに、鏡をみた瞬間に準備する手がふと止まる。そこにいるのは気軽に出歩いていた前の自分、じゃない。またジロジロ見られるのかな。また一緒にいる人に気を遣わせるのかな。またざらざらした気分になるのかな。いきたい気持ちは嘘じゃない。だけど、やっぱり、断ろう。無理して今、会わなくてもSNSで十分だ。自分への言い訳だけはすぐに思いつく。まるで風船がしぼんでいくような感覚。外出に踏み出せない当事者と話しているとそんな共通する悩みが多く聞かれます。それは長い時間が経った今でも、変わらない。

自分の場合は怪我する前は左利きだったのに、その後の病気で力が入らなくなったことが大きく影響していました。利き手交換というトレーニングをして、代わりの右手を使うようになりましたがそれは思っていたよりもはるかに難しい道のりでした。それまでできていたことが手の使い方ひとつでまるで違う。構え方、使い方。その中でも大変だったのは、箸。
医療者として働いていた時には気がつかなかったけれど、これまでに行ってきた細やかな指の動きはこれまでの人生で体得してきたものだということを思い知る機会にもなりました。トレーニングに適した不格好な、無駄に大きい箸は確かに便利ではありました。でも日常生活でのそれは、ハンデがあることを主張するようなものに感じました。自分は障害者なんだと言葉でなく示すもののように思えてしまいました。持ち歩く専用の食事セットを取り出すおっくうさに、取り出す道具に注がれる好奇の目に、やむを得ず選択するカトラリーはいつしか楽なフォークになり、なるべく外食を避けるようになっていったのも必然だったように思います。

調理の場面でもそれは同じく、盛付に使う菜箸を取り落としてはため息とともにスプーンやフォークに持ち変えることは少なくありませんでした。それでも今ある道具でなんとかするしかないと諦めきっていたある時、この箸につける補助装具に出会いました。とても小さくて手の中に納まる大きさ。一見すると頼りないようでだけど、どこにも持っていける、どんな箸にも付けられる便利さ。あ、これならできるかも。急に目の前が明るくなったのを今でもありありと思い出します。

便利な道具はみんなに優しいものです。さらに自分自身にとってのお気に入りであればそこに嬉しさも加わります。自分の好きを大切にする。そんな当たり前をまた取り戻せたような、またおしゃれや外出を楽しんでいた眠っていた本来の自分を揺り起こしたような、きっと中途障害を持つことになった方々に通じる再スタートのエンジン音のようなそんな感覚。生活の中に生きるいろどりと楽しみ。この感覚を多くの方に共有してもらいたい、広めたいと思うようになりそして今、様々な方からご注文いただき製作、販売を開始しています。

繊細な盛付も思い付きの外食も自由に可能にしてくれたこの道具は、今では生活の一部になっています。箸の操作に悩んでいる方や箸文化になじみの薄い国の方、世代性別国を超えて様々な必要な方が使うことができます。
こんな品物もある、ということを多くの方に伝えていただけたらと幸いです。

現在、以下のお店で店頭販売をしていただいています。ご興味ご関心ある方は是非手に取ってお確かめください。

・Kamulier(カムリエ)様 東京都文京区本郷3-2-15新興ビル1F
歯科医療機器総合メーカーの株式会社ジーシー様が提案する、飲み込みやすさに配慮した食の提案と口腔ケアのコンセプトショールームと美味しく口溶け柔らかな美しいケーキで有名なカフェです。噛む楽しさをサポートする専門家のお店です。嚥下障害がある方へとろみ剤やゲル化剤で食介護を支援する、株式会社宮源の高橋シェフにも応援いただいています。

・美容室シュール様 埼玉県さいたま市北区宮原町2-125-14
福祉用具製作のこっぱ舎様が、新宿区で20年美容室を経営してきたスタイリストさんと共にオープンした、地域に根差したバリアフリーサロンです。近隣だけではなく、様々な車いすのお客様も遠方から来られている人気のお店です。

他、現在取扱いをお願いできるところを探している段階です(2018.12.25時点)。

ワンハンドキッチンとしての活動は、ありがたいことに多くの方々に応援いただいて少しずつ広がりを見せ始めています。
具体的な活動の状況については、別の機会にまたお伝え出来たらと思います。今年もまたよろしくお願いいたします。

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楽しみたいのは一緒の時間。
ただそれだけの背中押す、便利な道具が欲しかった。
できない、しらない、わからない、ないない尽くしだったから出会いのヒカリは強かった。
再び笑顔戻してくれる情報知識を活かしたい、年始の祈り出来ました。