【超・幻聴妄想かるた、できました 新澤克憲】第4回 詩人と確認恐怖症

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ひとことで確認癖というけれど、益山さんは大変です。

こんなふうに話してくれました。

「冷蔵庫の扉が開いているかが気になる。最近は磁石でくっつくので思い切りしめなくてもいいとわかっている。それでも気になる。シンクの上の蛍光灯も、ちゃんと消えてるか気なる。蛍光灯って消えてると思っても、時間がたってから点いたりするでしょう。だから、しばらく見ていないと油断ができない。
それから、水道の水。いつか友達の金ちゃんが水道の蛇口を閉め忘れて、高い水道料金を請求されたと言っていたのを聞いてから、気になって仕方がない。蛇口を締めて、その後、水がポタっと落ちてこないか、しばらく見ています。
判断するために視覚、聴覚情報を使って大丈夫だと思おうとするのだけど、それを打ち消すような不安がやってくる。こんなことやってたら間に合わないよ、もう時間がないってところで、ええい!と自分の直感を無視して出かける。つまり自分の心配する気持ちとの戦いなんですよ」。

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写真:齋藤陽道

そんなわけで益山さんがハーモニーにやってくるためには、他の人の何倍もの時間がかかるのです。午後3時にやっとハーモニーに到着して、残してある昼ごはんを食べます。だから明日はどうしても、イベントに参加しなくてはという時には、金ちゃんのウチに泊まります。玄関のドアがちゃんと閉まっているか確認するのは、金ちゃんなので気が楽です。そのために、益山さんは金ちゃんのウチに置いておくための自分用の布団を買いました。

益山さんの苦労はそれだけではありません。いつのころから自分が、盗聴、盗撮されている監視されているという感じがしています。「盗聴盗撮に自由を奪われている気がするんです」と言います。見られていることを意識するので、いつも気が抜けず疲れてしまうのです。「おまえら勝手に覗いているだろう!」とイライラすることもあるそうです。

私が益山さんと出会ったのは10年ほどのことでした。いままでできなかった「自分を表現すること」をやってみたいと伝えてくれたので、二人でいろいろとアイデアを出し合いました。「芸能界にデビューすることを目指して『西城秀樹のものまね』をしてYouTubeに動画をアップする」という楽しい企画もありましたが、素晴らしかったのは詩です。書きためた大量の詩をみせてくれました。益山さんは若いスタッフと共に3冊の詩集を作り、ハーモニーのイベントやwebページで販売しました。
益山さんがハーモニーに来て、ほどなくして書いた詩があります。

妄想と岩石と愛と煙

今日も今日とて
天井を見つめて寝ている
どうしたら自分に進歩が有るのか
日常の様々な出来事に
思いを巡らすと
その度に
いつもの決まり切った
天井の図様は
まるで、ディスコティックの
ミラーボールのように
色々な自分の
希望的人格を照らし出す
君を抱きたかった
あの日、あの時
君は僕の手を握った
手を引かれるがままに
アフターファイブに
みんなと、いっしょに
ディスコへ行けばよかった
人間の進歩とは
自分には出来得ないと
思われる事を
実際に実行することにしか
在り得ないと
今になって解った
君の全てを知りたかった
いまでも君は僕の世界にいる
精神障害と云う名の僕のもとに
テレパシーで僕の考えている事を
謎の放送で
世の中に伝えてくれている
君と夜明けを迎えたかった
赤裸々なままの
君の姿を見てみたかった
しかし、今の僕は
ただの精神衰弱の
統合失調症患者だ
僕はいつも事務所の喫煙室で
同じ病を持った仲間と
煙草を吸っている
僕らの燻らす
煙草の煙は
病んで弱った心のように
くるくると部屋の中を回っては
換気扇から外に出ていく

今は昔の物語
君と僕がオフィスで
デスクを並べた
わずか一カ月の恋の日々
あの頃も
僕は煙草を吸っていた
僕の吸った煙草の煙は
今、一体、何処にあるのだろう
この地球上の何処かで
物質の一部に
なっているのだろうか
君の姿が見える
綺麗なヴィーナス
しかし、君の声は聴こえない
僕等のテレパシーは
いつも一方通行だ
(後略)

この詩を読むと、ハーモニーに顔を出しはじめた当時の益山さんと仲間達の喫煙室での様子が思い出されます。後悔と行き場のない焦燥感と挫かれたプライド。その空気は益山さんだけのものでなく、ハーモニー全体のものだったようにも感じます。誰もが何かを喋り、嘆き、怒りたかったのに、どこにもそれを受け止めてくれる「聞き手」を見いだせないような重たい空気感。

シリーズの2作目『新・幻聴妄想かるた』ができた2014年の夏の頃です。益山さんは、『幻聴妄想かるた』のイベントなどを通じて石田多朗さんという若い作曲家と知り合うことになります。石田さんは詩に感銘を受けて曲をつけることを申し出て下さいました。
私は、それが転機だったように感じています。益山さんは新しい詩ができると、石田さんにメールで送信しつづけました。そしてついに2年後の4月には谷中のHAGISOというスペースで、益山さんの言葉は歌となって、人々のところに届いたのです。

その時に披露された一曲がYouTubeにあったので、紹介します。
『街角のかぐや姫』
さとうじゅんこ(うた)・岡野勇仁(ピアノ)・ 益山弘太郎(詩作)・石田多朗(作曲)

ちらし
リサイタルのチラシ。当日は詩の朗読や歌もあり、益山さんは大活躍でした

益山さんの詩の力は、さらに広がっていきます。写真家の齋藤陽道さん(*)とは2014年の『新・幻聴妄想かるた』で写真をお願いしてから、ハーモニーの大事な仲間として交流が続いていますが、益山さんは齋藤さんの写真集『感動』におさめられた写真の一枚一枚に触発され、齋藤さんにメールで詩を送り続けています。(実は石田さんが曲をつけた『街角のかぐや姫』も齋藤さんの写真に触発されて書かれたものでした)
今年(2018年)、4月から齋藤さんは、益山さんの詩をnote上で紹介しています。それぞれの詩に添えられた写真は、益山さんがインスピレーションをうけた写真集『感動』の中の一枚です。
手に入れたばかりの携帯電話で時間をかけて齋藤さんに送る詩を、一文字ずつ入力していた益山さんの姿を思い出すと、私にはweb上で二人のコラボが実現したことが、まだ夢のようで、何ともいえない幸せな気持ちになるのです。

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写真:齋藤陽道

月日は静かに歩みを進めます。ハーモニーのメンバーのおよそ半数は家族と暮らしていますが、50代を迎えるころには、家族の中の介護の担い手として親を支えていることも少なくありません。ずっとお母さんと二人暮らしだった益山さんもその一人でした。お母様が90歳を超え介護保険の施設に入居した後も、ハーモニーの行きかえりに、施設に寄ってお世話する日々が続いていました。お母様の明るい性格が慕われたのかハーモニーの友達も気にかけてくれて、みんなで車いすを押して、休養ホームに行ったり、ジャイアンツの応援に東京ドームまで出かけたりしました。
その、お母様も今年、区内の病院で穏やかに旅立たれました。友達3人と私は、益山さんに付き添って斎場まで出かけ、フランスに行きたかったお母さんのことを思いながら、ミッシェル・ポルナレフの「シェリーに口づけ」を流して、笑ったり、踊ったりしてお見送りをしました。とても益山さんらしいお別れでした。

ちょっと驚いたことがありました。最近のことです。益山さんの写真集が出たのです。写真家の田中ハルさん(**)の『益山さんと歩きながら』です。Amazonのページには「同じ障害を持つ写真撮りの自分が益山さんの人柄に触れて、写真を撮りたいと思い立ちました」とあります。写真集では、力の抜けたいつもの益山さんが、街角でいつものように半ば途方にくれたような、半ば脱力したような表情で立っています。パックリと口全体で缶をくわえて缶コーヒーを飲む姿もいつも通りです。ハーモニーの友人たちは「なんだ、いつものマッさんじゃないか」と写真集を見て笑っています。

それにしても、施設長として私がハーモニーで益山さんとやったことはそんなに多くはありません。私が心がけたのは「幻聴妄想かるた」の試みを一時の思いつきでなく細く長く続けること。無理のない範囲でハーモニーを開いた場として、外と内を風通し良くしておくことでした。そうしているうちに益山さん自身の魅力に惹かれて才能ある人々がやってきてくれて、益山さんと何かを始めたのです。そのことがとてもうれしいのです。

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写真:田中ハル

最近、益山さんは、こんなことを話してくれました。
「最近確認しなくても大丈夫になったことが2つあるのです。電気の湯沸かしポットのコンセントが抜けてないんじゃないかという疑いと、夜中に寝ぼけて仏壇のローソクをつけっぱなしにしているんじゃないかという心配。こればかりは論理的に考えて、そんなことは起きないんじゃないかと考えている。そういうふうに考えると大丈夫なこともあるですよ」。

ホントに、大丈夫になったとすれば、なによりですよね。
<了>

次回は、「幻聴妄想みんなのかるた」です

*齋藤陽道
2014年の『新・幻聴妄想かるた』、2018年の『超・幻聴妄想かるた』の写真を撮っていただきました。

** 田中ハル

*** 益山さんの新詩集『益山弘太郎全詩集 未掲載もちょっとだけよ』は、益山さんの懐の都合により、予約が入ったら、印刷製本するとの事です。販売予定価格は1,000円。お手元に届くまで、少し時間を頂きますが、読んでみたい方がいらっしゃれば、こちらまでメールをいただきたいです。詳細をお知らせいたします。

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新澤克憲
1960年広島県生まれ。精神保健福祉士、介護福祉士。1995年よりハーモニー施設長。

就労継続支援B型事業所ハーモニー
東京都世田谷区にあるスペース。リサイクルショップ、ものづくり、公園清掃ほかさまざまな仕事を行っている。現在、30人ほどが利用している(2018年)。1995年に精神障害のある人たちが集う「共同作業所ハーモニー」として開所。2006年にNPO法人化、2011年に就労継続支援B型事業所に移行。

『超・幻聴妄想かるた』 ※本のみ、かるたのみでも購入が可能です。
購入は以下のハーモニーの注文ページまたは、全国の一般書店からの注文可能です。
現在手にとってご覧になれるのは、東京では、書店B&B(下北沢)、Title(荻窪)、on Sundays(神宮前,ワタリウム美術館内)、3331 CUBE shop&gallery(外神田,3331 Arts Chiyoda内)。そのほかには、鞆の津ミュージアム(広島県福山市)、書肆ゲンシシャ(大分県別府市)などです。

ご注文ページ
『超・幻聴妄想かるた(本+かるたセット)』 
定価 3,024円(本体2,800円+税8%)
http://harmony1.theshop.jp/items/11545156
『超・幻聴妄想かるた(本単体)』 
定価 1,728円(本体1600円+税8%)
http://harmony1.theshop.jp/items/11545170
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