【超・幻聴妄想かるた、できました 新澤克憲】第2回 バラバラだ 時間も空間も ~あるいは、すべてのことがわたしとつながる

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ハーモニーでは本年6月に、シリーズ3作目にあたる『超・幻聴妄想かるた』を刊行しました。このかるたは、ハーモニーに集う人々(以下、メンバー)の、日々の出来事を題材に、言葉をつけ、絵を描いたものですが、もとになっているのは週一回のミーティングでの、一人ひとりの近況報告です。この連載では、これまでのかるたには、掲載されなかったエピソードを紹介できたらと思っています。

世界で起きていることは、相互に関係しあっている

メンバーのなかには、目に見えない繋がりに敏感な人がいます。私自身でいえば、その種の感覚が鈍感なのか、毎日の出来事に追いたてられ過ぎて想像力が枯渇してしまったのか、即物的なものの捉え方から、なかなか離れられません。
ハーモニーのメンバーが語ってくれる世界と自分の結びつきの物話は、それが「妄想」と括られるものであっても、それぞれの願いや憧れ、不安や怖れなどに導かれた、一人ひとりの生と直結した表現であるように感じられます。私はユニークでスケールの大きな話には驚嘆し、不安や悲しみには、慰めや平安が訪れることを願って耳を傾けます。
彼らの心は時空を超えて、様々なものと繋がります。私が単純に時間的な前後関係(「Aが起きて、その後Bが起きた」)ととらえることも、彼らは因果関係(「Bが起きたのは、Aが原因だ」)があると考えたりします。物理的な距離の近さや語呂合わせが繋がりの証(あかし)であったりするので、仕事を始めた頃は、ずいぶんと驚いたものです。

発明王登場

小川さんはギターの上手なビートルズ世代。60代半ばの男性です。

「『ウォークマン』って知っていますか。ポータブルカセットテーププレーヤーのことです。あれは僕が発明したんですよ。当時は鉱石ラジオしかなくて、イヤフォンも片方の耳だけでね。両耳でステレオで音楽が聞きたいと思ったものです。
ある時、受診の時に主治医の先生と話していたら、カセットテープのステレオヘッドを作れるのは、日本の技術しかないですとおっしゃったので、僕もその技術があるのはソニーだけですよねと言ったんですよ。それに、もしできるならばカセットテープのケース位の大きさのプレーヤーができるといいとお話ししました。先生が、それならばモーターはどうするんだと聞くから、僕は日本の優れたターボモーターを使えば出来ますよとお教えしたんです。
しばらく、そのことは忘れていたのですけれど、9年後になんとソニーから『ウォークマン』というポータブルカセットテーププレーヤーが発売されたのです。すぐに僕の発明だって気が付きました。先生が僕のアイデアをソニーに教えたらしいです。先生はいつもセカセカ歩く癖があったので、僕は先生のことを密かに『ウォークマン』って呼んでいたんですよ。それが動かぬ証拠です」。

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ミーティングで書いた小川さんの発明の絵

小川さんの「発明」はこれだけではありません。今年の2月、ハーモニーのメンバーたちは美術家の深澤孝史さん(*)と共に「かみまちハーモニーランド」(**)というアートプロジェクトを行いました。
深澤さんと小川さんは、小川さん自筆のイラストを使った「ハッピーワークス」という発明品カタログを作って、プロジェクトの会期中に展示しました。「ウォ―クマン」のほかに「光ファイバー」「写ルンです」「ソーセージの剥がしフィルム」「シートベルトの留め具」「電子タバコ」などの小川さんの「発明品」が掲載されています。

小川さんの発明話には、共通点があって、それらの発明は精神科のドクターや盗聴犯によって企業にリークされ、商品化されてたりするのですが、小川さんには発明者としての見返りが何もないというのです。それでも、小川さんは人を恨んだりすることなく、「世の中の役に立ったし、先生にも喜んでもらえるので、幸せですよ」と話してくれました。
「ハッピーワークス」には、その他に、高校1年の時に予言したという「ジョン・レノンの髪型」や、発売された時には既に知っていたというビートルズのアルバム「アビーロード」のLPジャケットなど楽しい記事が満載でした。

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DCF00661  プラモデルから思いついた『光ファイバー』

僕はビートルズ?

小川さんのかるたの札には「馬事公苑で僕が体験したことをジョン・レノンが歌っていた」(『新・幻聴妄想かるた』2014)というのもあって、この記事を書くために小川さんにビートルズのことを教えてくださいとお願いしたら、こんなメールを送ってくださいました。

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『新・幻聴妄想かるた』2014

「LPの『HELP』 の中の2,3曲は僕の弾いたピアノでした。『ジョンの魂』の写真は彼女と僕なんですよ。あの写真は世田谷の馬事公苑(ばじこうえん)の草むらです。
ポール・マッカートニーのレゲエのリズムは入院中の16歳のベッドの上で膝を叩いたリズムです。その時『オブラディ・オブラダ』も口ずさみました。隣のベッドのクマさんっていうあだ名の人が伝令役でビートルズに教えたんですね。レコードは直ぐ発売になりましたよ。買ってきてクマさんに見せたら「これはなんだ!」といってしばらく見ていましたよ。

はたちの頃、ピアノで世界平和の優しい曲を作って弾きました。そのままジョンの『イマジン』でしたよ。ポール・マッカートニーの夢の旅人は入院中の病院の電気オルガンでした。bagpipeのような音です。でも、あんまり思い出さなくなりました。
ジョンの『ジェラスガイ』ですがピアノの音に青空を見ました、こころに来た歌でした。17の時見に行った秋の武道館の空とは違っていました。今では、ジョンとジョージも千の風になって空を飛びまわってますね」。

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高1の時に予言したジョン・レノンの髪型とメガネ

小川さんは今日もそれらの物語を胸に秘め、スーパーでお惣菜を買い、家族の皿を洗ったり、洗濯したり、ゴミ捨てや洗濯、その合間に電車に乗ってハーモニーにやってきます。
すでに50年近い歳月を入院や通院に費やしてきた小川さんの日々は穏やかな日ばかりではなかったと聞きました。しかし今、「発明」や「ビートルズ」の世界と、淡々と流れていく日常の生活を、時折、交差させながらも矛盾なく小川さんは生きているように見えます。

前述した深澤孝史さんと行ったアートプロジェクトのテーマの一つは「複数の現実」でした。どれか一つだけを正しいと選択するのではなくて、それらの物語を対話や交流の場に出してみることで、小川さんも私たちも、何か新しい関係に踏み出せるのではないか、少しだけよいことが起きるにちがいない。 それが『超・幻聴妄想かるた』にも続いている私たちの試みなのです。

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新作『超・幻聴妄想かるた』の中の小川さんのエピソード「冷蔵庫にある盗聴器から僕の発明が盗まれたんです」

<了>

次回は「本当の妄想、ウソの妄想」です

* 深澤孝史
美術家。1984年山梨県生まれ。場や歴史、そこに関わる人の特性に着目し、他者と共にある方法を模索するプロジェクトを全国各地で展開している。
http://fukasawatakafumi.net/

**かみまちハーモニーランド 2018. 2.26~3.3
「東京都の事業TURNにて開催。精神障害の方の通う事業所ハーモニーと行ったプロジェクト。
ハーモニーメンバーの幻聴、妄想と呼ばれる多様な現実を、見学者さんがアトラクションとして体験していくテーマパーク風な装いで施設を開いた。多様な現実(幻聴、妄想)を信じる態度が、人間の信仰の起源を結びついているのではないかという仮説のもとに、信仰と精神障害を繋ぐトーク、施設見学やまち歩きをした。」(深澤さんのHPより)

新澤克憲
1960年広島県生まれ。精神保健福祉士、介護福祉士。1995年よりハーモニー施設長。

就労継続支援B型事業所ハーモニー
東京都世田谷区にあるスペース。リサイクルショップ、ものづくり、公園清掃ほかさまざまな仕事を行っている。現在、30人ほどが利用している(2018年)。1995年に精神障害のある人たちが集う「共同作業所ハーモニー」として開所。2006年にNPO法人化、2011年に就労継続支援B型事業所に移行。

『超・幻聴妄想かるた(本+かるたセット)』
定価 3,024円(本体2,800円+税8%)
※本のみ、かるたのみでも購入が可能です。
購入は以下のハーモニーの注文ページまたは、全国の一般書店からの注文可能です。
現在手にとってご覧になれるのは、東京では、書店B&B(下北沢)、Title(荻窪)、on Sundays(神宮前,ワタリウム美術館内)、3331 CUBE shop&gallery(外神田,3331 Arts Chiyoda内)。そのほかには、鞆の津ミュージアム(広島県福山市)、はじまりの美術館(福島県猪苗代町)、書肆ゲンシシャ(大分県別府市)などです。
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