少しずつ、地元に「仲間」が増えていく ―リベルテのいま(後編)

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古本の買取と販売をしているバリューブックスさんのブログ、転載記事の後編です!

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彼女たちの目に映る世界

「午前中に刺繍を、午後は絵や詩を書いたり、アクセサリーを作っています。もともと手芸が好きで、独学でやっていました」。そう話すのは関愛香さん。リベルテ最初のアーティストだ。写真に撮られるのが好き、という彼女はカメラを向けるたびにニッコリと微笑んでくれる。

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最初の頃は週に1度、たったひとりでリベルテへ通い、お昼にはスタッフの黒岩さんが作ったお弁当を武捨さんと3人で食べていたという。今では、多くのメンバーに囲まれ、お昼の時間もずっと賑やかに。手芸の腕もみるみる上達し、今ではミシンや織り機もなんなく使いこなす。

「ものづくりの仕事はすごく楽しい」と話す彼女が手がける絵や詩のテーマは「大きなラブ」、略して「OL」。カラフルな画用紙には、ハートやリボンが散りばめられ、愛で溢れた言葉が並ぶ。心にきゅっと刺さる素直なフレーズに、バリューブックスが運営するブックカフェ〈NABO〉では、愛香さんを先生に迎えたポエムの会を開いたことも。

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小説や絵を得意とする那月さんは、春から参加した新メンバーだ。そんな彼女が自身の発達障害を知ったのは去年のことだった。

「学校を卒業してからはずっと家にいました。外と交流がなく刺激のない日々からか、家族とぶつかることも多かったです。発達障害だとわかってから、生活の相談をしていた支援員さんを通じて、ここを紹介してもらいました。もともと表現することが好きで、食べたものや聞いた歌、読んだ小説からイメージして日記代わりにイラストを描いていました。それはそれで楽しかったんですけど、リベルテへ通うようになり、幅広い交流ができてから、視野がうんと広がったんです。“こういう観点あるんだ”“この発想おもしろい!”と、自分には見えないものが見えるのがうれしくて」。

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リベルテでの交流のなかで始めた取り組みもある。「言の葉の種」という名前のプロジェクトは、メンバーから集めた言葉をもとに、物語を紡いでいくというもの。部屋の壁にあるポスターには、テーマとともにキーワードを集める付箋が貼り付けてある。
「他の人の意見や感想を取り入れながら、創作するのがすごく楽しいです。いまはスイーツをテーマに第2弾を募集中です」。

街の人のための居場所作り

創作活動だけでなく、街との新たな接点を作る取り組みとして、リベルテでは今年から、上田市内のゲストハウス〈犀の角〉にて、喫茶の仕事をはじめた。

「去年の10月頃かな、メンバーからの声もあり、そろそろアート活動以外の仕事も具体的に検討していこうと思っていたタイミングで、犀の角の代表・荒井さんから昼間の営業を始めたいという相談をいただいたんです。メンバーが街の人のために働けるのはいいことだし、ぜひ一緒にやらせていただきたいです、とお返事しました。まずは清掃やチラシ配りの仕事から徐々にはじめて、今は火・木・金の週に3日、喫茶の仕事をお手伝いさせてもらっています。注文をとって、コーヒーを淹れたり、料理をサーブしたり。働きたいという強い意欲のなかで、苦手な接客も前向きにこなしています。今までは、スタッフが主体的にメンバーの居場所作りをしてきたけど、今度はメンバーから街の人たちへ、居場所を提供する。障害を持つメンバーを応援することが、巡り巡って自分の居場所作りにつながる、そういう循環がぼくはいいなと思ったんです」。

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この日、犀の角で働いていたのは、リベルテに参加して5年目の両川さや香さん。カウンターを覗けば、真剣な面持ちでコーヒーを淹れる姿があった。もともと美容師を目指していたという彼女は緊張した様子ながら、「やりがいがあります」と接客を楽しんでいた。運ばれてきた料理の隣には、リベルテのメンバーによる手刺繍のお手拭きが添えられている。さや香さんも喫茶の仕事がない日は創作活動に打ち込み、ブローチなど彼女の作品の一部は犀の角の店内にも展示されている。

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人間らしさに気づかされる

「ここへ通う以前は、自宅だけで過ごされていて、表情も乏しく、“なにもできないですよ”といわれ入ってきたメンバーがいました。メンバーとして活動していく過程で、創作のなかにきちんと自分の意思を表現するんです。一部は近くの映画館にも飾ったこともあります。小さなものから大きな作品まで、すごくいい絵を描きますよ。なによりよく笑うようになりました。僕の子供を連れてきた時には、アンパンマンの絵を描いてくれたり。勝手に家へ帰ったかと思ったら、お菓子を持ってきてほかのメンバーに配っていたり。人間らしい部分がどんどん見えてきて、こんなに優しい人だったんだな、と気づかされました」。

さまざまな活動を通して、日々、少しずつ変化していくメンバー。なかでも「スターバックスさんとの取り組みは本人だけでなく、家族や周りの人たちの気持ちに大きな影響を与えました」という。

それは、今年6月から期間限定でスタートした〈Book Meets Smile〉のこと。リベルテとバリューブックス、長野県内20店舗のスターバックスが合同で行うチャリティープログラムだ。

街や人を緩やかに巻き込みながら

〈Book Meets Smile〉は、長野にはじめてスターバックスができてから15周年になることを記念し、街に感謝の気持ちを届けようという思いのもとはじまったプログラム。チャリティーの仕組みは、スターバックス店内に設置した専用ボックスにてお客さんが読まなくなった本を回収し、バリューブックスが査定、本の買取金額をリベルテへ寄付するというもの。不要な本たちは、アーティストがもっと自由に表現できるための、画材や素材へ姿を変える。

20店舗それぞれに設置された古材を活かした回収ボックスは、諏訪市にある〈ReBuilding Center JAPAN〉の協力のもと、各店舗のパートナー自ら板を削り、組み立て、制作した。黒板の内容にも店舗ごとに少しずつ異なる。それぞれがオリジナリティ溢れ、リベルテや長野の街への愛が感じられる仕上がりになっている。

さらに一部店舗では、「コーヒーのある風景」をテーマに作品を展示。期間中は時々メンバーも店舗へ出向いては、コーヒーのサーブやライブペイティングを行なっている。

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「このプログラムをはじめて、メンバーはもちろん、ご家族や周りの人々に大きな変化がありました。ふだんは厳しいお兄さんが、弟であるメンバーがスターバックスで展示をすることを話すと、すごく喜んでくれたり。顔写真の掲載が遠慮がちなご家族も、楽しそうに制作に取り組む姿や、店内に展示された作品、街の人たちが応援してくれている様子を知り、メディアへの顔写真の掲載について、メンバー自身の意志にゆだねてくれるようになりました。ご家族の方の変化が、個人にも影響を与える。一番近い人と一緒に楽しめる、喜びあえるって大きいですよね」。

一冊の本が支えるこのプログラムを通して、本人と社会、そして家族との間に、確かな変化が起きている。

今日着る服を選ぶこと。お気に入りのペンを持つこと。気持ちを表現すること。リベルテが描くのは、お互いに「何気ない自由」を尊重できるような、あたらしい街のかたち。街やその住人を緩やかに巻き込みながら、自分を自由に表現できる場所をひとつ、ひとつ増やしていく。

※期間限定プログラム〈Book Meets Smile〉は、9月30日(日) まで。
自宅からの郵送も受け付けています。
http://www.starbucks.co.jp/responsibility/bookmeetssmile

Written by 北村 有沙
Photo by Yukihiro Shinohara
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