イタリアの精神障害者によるプロフェッショナルな劇団「アルテ・エ・サルーテ」、稽古体験記/増川ねてる

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2018年10月、浜松・東京の2カ所でイタリアの劇団「アルテ・エ・サルーテ」の公演が行われます。「アルテ・エ・サルーテ」は、イタリアの精神障害者によるプロフェッショナルな演劇集団。今年、日本ではじめての公演が実現しました。

今回演じられる戯曲「マラー/サド」の正式名称は、「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」。
長いタイトルですが、1964年に初演された戯曲で、のちにピーター・ブルックによって映画化もされた作品です。
マルキ・ド・サドは、長い間刑務所と精神病院に入れられ、その作品の多くを獄中で書いたとされるフランス革命期の小説家。この戯曲は、“精神病院を舞台にサドが、患者たちを演出し、フランス革命時の指導者ジャン=ポール・マラーが暗殺された出来事を劇にする”という劇中劇のかたちをとっています。

精神病院を舞台にした作品を、精神障害のある人たちが演じるという今回の公演に、この劇団を召集したNPO法人東京ソテリアのピアサポーター、増川ねてるさんも、なんと出演するとのこと。
いま、イタリアで稽古真っ最中という増川さんに現地の様子を伝えてもらいます。

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ああ、そうか、
「ジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」。
これは日本では、忠臣蔵なんだ。

フランス革命の史実を題材にしたこれは、日本でいうなら、「忠臣蔵」が、或いは「坂本龍馬暗殺」なんだ。考え方の“違い”、世界観の“違い”がどうにもこうにもいかなくなって、その時、「誰かが誰かを殺める…殺めた」という歴史の中の出来事。後世の人たちが、その時々の価値観で(世評の中で)繰り返し描いてきたような(その国の人たちならば、そんなに詳しくなくとも、ぼんやりとであっても知っているような…そんな)「エピソード」。
それを、稀代の思想家であり、文筆家のマルキ・ド・サドが、入院中の精神病院で演出しているっていう物語。

なので、日本で言えば、

坂口安吾の演出のもとに
東京大学病院精神科で入院患者によって演じられた
忠臣蔵

或いは、

太宰治の演出のもとに
東京武蔵野病院・精神病院患者によって演じられた
坂本龍馬の迫害と暗殺」

とか、そんな感じになるんだろうな…。
そんな風に思ったのは、この演劇の稽古の3回目。1回目、2回目の稽古でセリフの練習を通して一回ずつ行い、そしてこの演劇の見どころの一つである「カントーレ(歌)」の練習が終わった後…でした。

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みなさん、NPO法人東京ソテリア・ピアサポーターの増川ねてるです。
僕は、今、イタリアはボローニャの地に滞在(約一カ月、アパートを借りての一人暮らし)しています。

その目的のおっきなところは、

2018年10月11日・静岡県浜松市・クリエート浜松ホール
2018年10月13日・東京都千代田区・イタリア文化会館

で行われる、アルテサルーテ劇団の上記演目をイタリアの劇団員の人たちと共に演じるために、ナンニ・ガレッラ監督の下、稽古をし、劇団のみんなと日本公演に備える…。

僕としては、この2年間をかけての計画(最初の訪問の時に、ガレッラ監督に「君は、俳優だねぇ」言われたのをきっかけに、法人の代表からも「ねてる君、本気でチャレンジしてみなよ」と言われ…、「なら、やってみたい!」って僕も思ってのチャレンジなのです)のいよいよの本番。集大成!!

劇の演目が、「マラー/サド」って決まってからは、原作を入手し読み、イタリア語を勉強…していました。しかし…この物語、なかなかに頭に入ってこない…。

しかしそれが、それが、共に台本を読み、共に歌ってみると…

あ!これは!!
忠臣蔵だ、
坂本龍馬の暗殺なんだ

って、まるでステージの幕が開いたようにみえてきました。
そんな風に、ビジョンが急に見えたのは、演じている俳優さんたちの力なんです。「演じる」ということの“力”なんだと思います。
つまり、「体」を持つということ。「体を持つ者」ならではの力。
文字だけでは持ちえない…「生きている者」が持つ“力”。

稽古初日…時間になってもビシッてみんなが集まって来ている訳ではない… 少しずつ人が集まって来て、ああ、バカンス明けだし、イタリアっぽいなぁー、みんな自由だなぁ、なんて、思っていました。
そして、打ち合わせをして、配役が発表されて…、一先ず、セリフを読み合わせてみようか…って、本読みが始まると…。

「なんだ、これは!」
みんなの…もう、気配が違うんです。
声もすごい通る!!
豹変ってさえ思う…そんな感じ。そして、休憩に入るとまた、元のみなさんで。
演じている俳優は、みんな僕と同じく(いわゆる)精神に障害をもっている訳なのですが…、演じているときのあの表現力!迫力…。
その日の日記に僕は、「本物だから響くのか」「響くから本物なのか」って書いていました。

そして、二日目の稽古があって、三日目の稽古…ここで歌の練習が始まったんです。そうすると、また、みんなの声の良さ、そして、歌の持つ響き、迫力。

ああ、これが、演劇。
人が持つ、「体」と「心」と「声」を使った表現なんだ。
人を…人体を通すことで、

「思想」は
「構造」は、

世の中に出現するんだ。
それを、ここの仲間たちは実践してるんだ。

って、僕は思いました。

そうなってくると、俄然面白い。
マラーとサドの議論も面白いし、病院という舞台でフランス革命を演じるという構造も面白い。そして、なんといっても、いい歌が多いんです!!

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そして、稽古は続いています。
毎回、いろんなことが起きてます。

ここで、一つのエピソード。

その日、僕は、なぜだかうまく歌えた時がありました。
その時は監督に「ブラボー、ねてる!」って言われ、俳優のみんなも、喜んでくれました。
また、大事な時に僕がタイミングを外した時がありました。その時は、「ねてるーーーー」ってブーイング。そんな風にして、稽古をしています。

日本の皆さんへのサービスシーンも、入るとか入らないとか…。ほんと、イタリア人の…アルテ・エ・サルーテ劇団の人たちの「表現」に向かうエネルギー…。

“プロとして” 演じる。

この劇団、以前監督が言っていました。
「人は、誰でも演技することができる。しかし、それと「俳優」をするということは、別のこと」。その意味で、ここは才能がある人が、演技の才能があり(…それに加えて何らかの)精神の障害をもった人が、俳優として活動をしている団体…です。

ああ、「百聞は一見に如かず」というのに、長く書いてしまいました。
でも、やっぱり、こうやって書きたくなる…そんなエネルギーがあるんです。

「社会」と「個人」
「規範」と「表現」
…共に、あるということ。

哲学的な主題を扱っていますが、それが好きな方にはとっても考えさせられる物語。
歌が好き!っていう方には、様々なタイプの歌(僕は、シャルロッテ・コーデーの歌が、今、とっても好き!!)が用意されています。もちろん、リカバリーに興味がある方にもあの力動は見逃せないものがある。

いずれにせよ!
日本の皆さんに、本場ヨーロッパの演劇をお届けしたいって思います。

そして、その時に、楽しんでいただけるように、僕がこの2週間の稽古のなか、劇団員のみんな、ガレッラ監督はじめ劇団のみなさんと過ごす中で感じたことをレポートしてみました。

allora,

10月、日本でお会いしましょう!

NPO法人東京ソテリア・ピアサポーター
増川ねてる

<公演へのお申込み・お問い合わせ>
東京ソテリア
メール:info@soteria.jp TEL:03-5879-4970