コトノネだらだら座談会 のぞき見版【8月24日 松田成広さん】

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写真いちばん右が、松田さん

8月の座談会でお話くださったのは、東急百貨店たまプラーザ店で障害者雇用の責任者を務める松田成広さん。たまプラーザ店の縁の下の力持ちとして、さまざまな業務を引き受ける「えんちか」というチームを立ち上げ、主に知的障害のある人たちといっしょに働いています。
2017年5月にこの座談会でお話いただきましたが、もう一度お話を聞きたいと指名が入り、2回目のスピーカーに。前回とは異なり、「カッコ悪いやつも」ということで、直面している課題や実際に起こったトラブルもまじえ、「すいません、2回目です!(裏話含む…)」というタイトルで話してくれました。

松田さんいわく、百貨店業界は、従来の小売業からテナントから家賃収入をもらう不動産賃貸業へとシフトし、自前の売り場が減っている=仕事も減っているのが現状。効率化が求められる中、機械化やペーパーレスも進み、単純作業も減ってきていると言います。
しかし、その一方で企業の法定雇用率は年々上がり続けており、これまで以上に多くの障害者を雇うことが求められています。「百貨店全体としての仕事が減る中で、雇用する障害者は増やす」というジレンマに直面しているのです。

そんな中で、障害者雇用の責任者として、松田さんがいちばん大事にしていることは、「理解を求めるよりも先に、仕事で信頼される」ということ。「障害者雇用は周囲の理解が不可欠というふうによく言われますが、たまプラーザ店で働くみなさん一人ひとり、何かしらいろんなことを抱えながら生きています。声高に彼らだけを理解してくださいっていうのはおかしな話で、とにかく理解を求めるよりも先に、まず自分たちが信頼される仕事をするんだということを心掛けてやっています」。

最低賃金の958円をもらっている以上は、プロフェッショナルとして仕事をする。信頼される仕事を続けることが、社内で障害者雇用をさらに推し進めるためには不可欠だという思いがあるのです。
また、「チームえんちか」の存在を社内、社外に積極的に周知することも大切な仕事だと考えています。ちょうど直近の社内報にも「チームえんちか」が紹介されたんです、とうれしそうな松田さん。たくさんの人に知られる、見られるということは、働くメンバーのモチベーションを維持する上でもいい循環を果たすと言います。

「チームえんちか」を立ち上げて、今年で7年目。コミュニケーションはしっかりとるようにしていますが、いまでも日々、悩みやトラブルは尽きません。
たとえば、簡単に口にしがちな「がんばれ」という言葉。「どこまでがんばれって言っていいのか」ということを、松田さんはいつも迷うと言います。「ぼくは身体障害だからわかりやすい。お医者さんは右手右足が悪いぼくに『松田さん、走れるようにがんばりましょう』なんて絶対言わないですよね。白い杖をついている視覚障害の方にも、『目が見えるようにがんばってくださいね』なんて言う人は誰もいないじゃないですか。だけど知的の子ってどこまでがんばれって言っていいのかわからない。その境界線がわからいなんです」。
がんばれと言って、できなかったことができるようになる。そんな場面にも数多く立ち会ってきた一方で、「知的障害ゆえにがんばれないこともあると思うんですね、能力的に。そんなところまでがんばれよってぼくは言っちゃっているんじゃないかなと、常にそういうことを感じながら言っています」。

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抽象的な言葉は、どう説明するのがいいのか。日々起こる人間関係のトラブルへの対処。成人し一社会人でありながらも、どこまで親御さんにも関わってもらうか、といった課題…。

7年間関わり続けてきて、ひとつわかってきたことは、一見突拍子のない行動や発言に思えても、よくよく話を聞いてみると、そこには彼らなりの考えがある、ということ。たとえば、「結婚したい」とあるとき宣言した男性の気持ちの裏には、その人が好きだというよりは「『結婚』すればゲームのようにもう一度人生をリセットできるのでは」という思いが隠されていたそうです。

「一人ひとりの人生に寄りそいながらなので、生半可な気持ちではこの仕事はできないなと。尊い仕事をさせてもらっているなと思っています」と松田さん。これからもっと素敵な大人になってもらうための後押し、サポートをしていきたい、と話を締めくくってくれました。

次の座談会は9月20日(木)。スピーカーは、農林水産政策研究所の吉田行郷さんです。
http://kotonone.jp/job_magazine/2018/09052459.html?fm=k_home_change

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