【連載コラム 超・幻聴妄想かるた、できました 新澤克憲】第1回 ジュリアンと謎の脳内発信機 -「幻聴妄想かるた」事始め

0001 (22)

「幻聴妄想かるた」はハーモニーの週1回の利用者(以下、メンバー)たちのミーティングでの話を題材に言葉を作り、自分たちで絵を描いて残しておく。そんな日々の活動の積み重ねの中で生まれたハーモニーの自主製品です。今年の6月に自主制作で発行した『超・幻聴妄想かるた』は、ハーモニーが制作した3作目の「幻聴妄想かるた」になります。

個人情報漏えいと新宿の女番町

最初にミーティングの中で「かるた」を作り始めたのは2008年でした。メンバーのジュリアン・ソウルさん(自称)の当時の悩み事は「脳の中に機械(発信器)を埋め込まれて、その機械から自分の個人情報や考えが漏えいしている」ということでした。
外に漏れた自分の考えや気持ちが筒抜けになって、それを周りが悪用していると。「みんな、俺の頭の中をのぞいて笑ってるんだろう」と隣の部屋から怒った顔でやってくることもありました。
ある日のメンバーミーティングではそんなジュリアンの困りごとがテーマになりました。頭の機械について、「シールドしたヘルメットを被れば電波が漏れないよ」とか「それは疲れている証拠だから、眠剤飲んで早く寝る方がいい」とか、中には「神社のお札が効くよ」などメンバーたちが口々にアドバイスを寄せます。話しあいは1回で終わることもあれば、同じテーマで何度か話しあうこともありました。
ハーモニーでは、ちょうど「幻聴妄想かるた」を作り始めていて、言葉になった彼の体験を元に、数人で絵を書き、その中の1枚をジュリアン自身が、これがいいねと選びました。

『幻聴妄想かるた』(医学書院2011)より

『幻聴妄想かるた』(医学書院2011)より

ジュリアンの話題提供は何回か続き、「脳の中の機械から発信された電波を放送局が受信し、ラジオ番組として自分の個人情報が放送されている」というふうに展開したり、「脳の中で作った曲が、アメリカのチャートのトップ40に入ったり」するのです。

『幻聴妄想かるた』(医学書院2011)より

『幻聴妄想かるた』(医学書院2011)より

『幻聴妄想かるた』(医学書院2011)より

『幻聴妄想かるた』(医学書院2011)より

メンバーミーティングで対応策を練ったり、みんなでジュリアン氏の話を聞いて苦労をねぎらっても、それで、たちどころに彼の悩みが消失するというわけではありません。それでも、仲間達の手により言葉や絵の形で表現され、困っている「脳の機械」の話が「幻聴妄想かるた」として共有されるうちに、ジュリアンは気分がよくなったのかも知れません。彼は、完成したかるたを前に「こんなもの、よく買う人がいるもんだよ!」と爆笑し「皆さんの力でこんな立派なものが出来た」と語りました。
それから、よく聞いてみると、ジュリアンには味方もいて「新宿の女番町」が、ジュリアンの個人情報を漏らしている人を捕まえて「そんなことをしてはいけない」と言って回ってくれていることも分かってきました。

(医学書院2011)より

『幻聴妄想かるた』(医学書院2011)より

これらのジュリアンのエピソードも載った「幻聴妄想かるた」は2009年に自主制作版が作られ、2011年には医学書院から刊行されました。さらに2014年には2作目の「新・幻聴妄想かるた」(自主制作)を作りました。それらは福祉施設である私たちに収入をもたらし、メンバーの工賃の向上にもつながったのです。

プレゼンテーション1

『幻聴妄想かるた』と、『新・幻聴妄想かるた』(※新・幻聴妄想かるたは、発売開始当初、限定で「齋藤陽道さんのポストカード」が付属し、箱入りで販売していました。現在は一時的に品切れですが、パッケージを新たにし、まもなく販売を再開します(ポストカードはつきません)。)

時の流れとともに

2作目の頃から、ハーモニーの日常はゆっくりと変わっていきました。水曜日のミーティングにひっきりなしにゲストがやってくるようになったり、大学や地域のイベントにかるたを持って出かけ、メンバーの講演や「かるた大会」を行うようになったのです。ハーモニーにとっての「幻聴妄想かるたの活動」は、ハーモニーのミーティングの場だけでなくて、学校の教室や、地域集会場の会議室、公民館やギャラリーや美術館で、次々に顔の見える人たちと繋がっていきながら、展開していきました。

明治大学中野キャンパスでのヒューマンライブラリーにおける「つくってみようみんなのかるた」のワークショップ 2017年 写真:齋藤陽道

明治大学中野キャンパスでのヒューマンライブラリーにおける「つくってみようみんなのかるた」のワークショップ 2017年 写真:齋藤陽道

メンバーたちも「精神保健のユーザーAさん」として病気の体験を語るのではなく、それぞれが名前のある個性的な生活者として、それらの場に参加しているように私には感じられます。
その人にとって確かにある「心的な現実」を出発点とし、対話の土俵を作ることで、次々に人々が出会っていくのを見てきました。ひとりひとりの異なった環境、異なった知覚の中での出来事を、「同じだね」とか「私はね」と確認しあうことで得られる繋がりは、「支援」とか「福祉」という言葉で括られるものとも、どこか違っていました。私はこれからも「話を聴く」ことから始まる関係の豊かな可能性をみていたいのです。

そして、最初のかるたを作って9年目の今年6月、3作目の『超・幻聴妄想かるた』が出来上がりました。今回は9年間に繋がった多くの人たちの力を借り、(いや、多くの人たちと合流してというべきか)、従来の枠を超えた新しい試みに満ちています。

『超・幻聴妄想かるた』

『超・幻聴妄想かるた』

次回からは、新しい『超・幻聴妄想かるた』の紹介だけでなく、今まであまり紹介できなかったかるた作りにまつわる「おもしろかった」出来事を紹介します。おもしろさについて語ることは、私自身を語ることでもあり、すこしばかり緊張している半面、うれしいことでもあります。
(つづく)

次回「バラバラだ 時間も空間も」
※新澤さんの連載は、毎月1回の更新を予定しています!
※バナーは超・幻聴妄想かるたパッケージより。デザイン:ライラ・カセム+ハーモニーズ


新澤克憲
1960年広島県生まれ。精神保健福祉士、介護福祉士。1995年よりハーモニー施設長。

就労継続支援B型事業所ハーモニー
東京都世田谷区にあるスペース。リサイクルショップ、ものづくり、公園清掃ほかさまざまな仕事を行っている。現在、30人ほどが利用している(2018年)。1995年に精神障害のある人たちが集う「共同作業所ハーモニー」として開所。2006年にNPO法人化、2011年に就労継続支援B型事業所に移行。

『超・幻聴妄想かるた(本+かるたセット)』 
定価 3,024円(本体2,800円+税8%)
※本のみ、かるたのみでも購入が可能です。
購入は以下のハーモニーの注文ページまたは、全国の一般書店からの注文可能です。
現在手にとってご覧になれるのは、東京では、書店B&B(下北沢)、Title(荻窪)、on Sundays(神宮前,ワタリウム美術館内)、3331 CUBE shop&gallery(外神田,3331 Arts Chiyoda内)。そのほかには、鞆の津ミュージアム(広島県福山市)、はじまりの美術館(福島県猪苗代町)、書肆ゲンシシャ(大分県別府市)などです。

ご注文ページ
http://harmony1.theshop.jp/items/11545156

『超・幻聴妄想かるた』は現在、福島県耶麻郡猪苗代町の「はじまりの美術館」で開催中の企画展「えらぶん:のこすん:つなげるん」(会期2018年7月28日 – 2018年10月21日)に参加中です。
9月16日(日)14:00-16:00には「ハーモニーの えらぶん:のこすん:つなげるん 超・幻聴妄想かるたトーク&ワークショップ~」と題されたイベントがあり、メンバー数名と新澤が出かけて行きます。ぜひ、御参加下さい。イベントについての詳細は「はじまりの美術館」のHPをご確認ください。