【梶原真智 連載コラム】ワンハンドキッチン

梶原真智さんの連載コラム、はじまります。
梶原さんは、専門職として医療機関に勤務、スポーツサポートのボランティア中に交通事故に遭い、車いす生活に。その後、復職して、国内外問わず車いすのパフォーマーとしても活動していたこともあるそうです。現在、「ワンハンドキッチン」という、料理イベントを随時開催中。
2017年6月には「コトノネだらだら座談会」でお話もしてくれました。

コラムは月1回のペースで更新していく予定です。

onehandkitchen

ことばには宿る力がある。
どこかで誰かに聞いたような、そんな気がします。なんとなく、そんなもんかな、そうだろうな。
納得したようなしないような。そんな感覚。例えば、夏の風に乗って時にはソフトクリームのように、時にはキリンのように変わっていく雲。
なんとなく眺めて、面白いなー不思議だなーと思いながらも、だからって深くは考えない。知ってる何かに重ねることはあっても、自分事じゃない。お気楽なゆるく漂う、あの、感じ。
自分にとってその時は、『ことば』の力なんて実感することも、改めて見直すこともなかったのに、ある日の一言が人生変えることもある。

「よかったら、しゃべってみませんか?ここで」
2017年初夏コトノネ座談会。そう声をかけられて、初めて人前で自分の活動を伝えることに挑戦しました。この無茶ぶりが全ての起点だった、ように思います。言った本人は笑うかもしれませんがその一言に背中どつかれて立ったスタートライン。
上手くつたえられないもどかしさ、紡ぐことばのたどたどしさ。今から思うと取り消したいくらいの聞き苦しい内容だったはずなのに、何故か面白い !と評してくださった皆さんからの言葉を種に少しずつ、そこから発信を始めました。これまでこじんまりと細々と15年、目立つことなく過ごしてきた自分にとってそれは無謀な挑戦で。だけど取り巻く世界には飛び出さないと見えない景色もあったりして。上手くいくことはほとんどないけれど、それでもつながるご縁にいきるありがたみをしみじみ感じたりもして。
「よかったら、かいてみませんか?ここで」
2018年早春コトノネ連絡。新たな挑戦が再び。その一言に慌てながらもうなずいた、それが今ここだったりします。

はじめまして。ワンハンドキッチンの梶原です。
「片方のてのひらに乗るくらいのささやかな自信を毎日に」をモットーに活動しています。
活動のきっかけは自分自身の経験です。もともと料理は好きでした。休みがあれはツーリング、野宿とアウトドアが大好きな両親に連れまわされた影響だと思います。焚火でつくるご飯や缶詰のリメイク、炙ったベーコンや焦げたマシュマロの香りの中で育ちました。電気やガスもない自然の中で釣った魚や集めた貝等、少ない材料でバリエーション豊富に楽しみながら過ごす子供時代。なにができるかわくわくして、味から広がるイメージは果てしなくて、美味しいを分かち合う喜びは今にも通じる原体験。
料理をすることは、いつでもそこにある当たり前の生活で特別じゃない、だけど生きていくには欠かせない空気のような行動の一つでした。

ところが、ある日突然それが失われました。そんなことが自分に起きるはずがないと何故か、勝手に思い込んでいました。まさかのハンデ、まさかの当事者。車いすとなった世界には戸惑い混乱、不安と焦り。思うように動いてくれない体。なんとかしたいのになにもできないリアル。訓練が必要なのは理解できても、単調に繰り返される日々に心が悲鳴をあげました。情報はあふれるほどあるのに、欲しい情報はほどんどない。これがさらに自分を追い詰めます。どこにも居場所がなくなった。好きだった料理すらできなくなった。自分にとってそれは、とても辛かった。
自分よりも動ける誰かとの比較より、昔の動けていた自分との比較の方が逃げ場がなく、酷でした。

そんなある日。ふとしたきっかけから再びキッチンに。最初はこわごわ。だけど偶然も味方して思った以上に美味しくて。あ、じゃあ、これもいけるんじゃない?あれもこうしたら?それはどう?・・・試行錯誤が面白くて子供のころを追体験しているような感覚。もちろん失敗もあるけれど、楽しいという感覚が動き出した自分の中で、そこから本当のリ・ハビリテーションがはじまりました。
もちろん料理研究家ではありません。身近にあるものの組み合わせで、できることをやるだけ。そこにあるのは日々続く生活のちいさな様々と工夫、視点の変換です。

ほんの少しのサポートで人はまた前に進むことができる。もしかしたら、まだ、できることあるんじゃないか。そう気付くきっかけをつくれたら。背中に添えるちいさな手は、もしかしたら片方でも、いいんじゃないかな。情報がないなら作ればいい。自分にできる当事者のための、当事者による、当事者に向けた料理と考え方を伝えていこう。これがワンハンドキッチンの原点です。

では、実際にどんなことをやっているのか?
それは次のお伝えとして。しばらくお付き合いいただけたら、幸いです。