【コトノネ編集長のおまけ日記】関西の春はお水取りから。

コトノネ編集長里見のコラム、はじまります。
(できたら)毎週のペースで、と意気込んでいます。

コトノネ編集長のおまけ日記

「3月になっても、寒いですね」「日差しは春めいてきたのに」「やっぱり、お水取りがすまんと、春はきまへんな」「ほんまにな」。わたしが小さいころ、母親は近所の人とそんな会話を交わしていた。東京の春は桜だが、関西では、東大寺二月堂のお水取りが終わって、春が来る。

今年3月8日、お水取りに行ってきた。昨年に続いて2度目。昨年は、近鉄奈良駅から歩いて、二月堂に行った。参道から、さぞ、人の列がすごいことだろうと思ったが、まばらだった。ほとんどの土産物屋も食事処も閉まっていた。関西を代表する行儀なのに、なんと、奈良の店主は商売気がないのだろうと拍子抜けした。

今年は、小雨の中をでかけた。30分ほど前に着いて、列の後ろに並んだ。いつしか、雨は本降りになった。7時になると、境内の明かりがいっせいに消えた。二月堂の回廊の端に大きな焔が上がった。しばらくして、松明が駆ける。左から右へ。龍の尾のように焔が躍る。火花が舞う。

あれこれと、頭を思いや出来事がかすめていく。流れる雲のように取り留めなく、過ぎていく。ふと気づくと、何も頭に浮かんでいないことに気づく。無なんて、たいそうなものやない。焔をただ見つめているだけ。今という時が遠ざかったり、近づいたり。この気分がよくて、去年に続いて、今年も来る気になった。

というよりも、正確に言うと、今年の会社で「社長賞」をあげた人に、副賞のアートツアーの目的地に推薦した。社長賞は、年末の仕事納めの12月28日の忘年会でスタッフ1人を選んで渡している。その副賞に、2泊3日のアート旅行の権利がある。受賞した人が、自分の希望通りのツアーを企画する。今年は、奈良・京都のアート旅行になった。そのスタートが、このお水取り。帰りは、ホテルまで歩いた。雨は小降りに戻っていた。

また、来たいな、今度はひとりで、関西の春を迎えに。