「ケアする人もケアする」がコンセプトの展示会~「湘南リハケア」

写真

2020年東京オリンピック・パラリンピックのセーリング競技開催地である江の島ヨットハーバー。ここで、11月26日(日)に行われたのが「湘南リハケア」というイベント。最新の福祉用具の展示や社会資源の情報提供、パラスポーツ体験などのほか、「車いすでも行けるSNS映えツアー!」と題して、人気のパンケーキ屋へ行くツアーも開催した。

普通、福祉用具の展示会といえば、メーカーごと、モノのカテゴリーごとの展示が多いが、ここでは「おしゃれ」「コミュニケーション」「移動」など、興味・関心ごとにブースわけ。また、厳密に“福祉用具”ではなくても、医療や福祉の現場で活用できるさまざまな商品を展示。誰でも手にとったり、立ち寄りやすいよう、見せ方から工夫していた。

さらにこのイベントがユニークなのは、商品を紹介しているのが、メーカーの人だけでなく、医療・介護者など、実際の現場で働いているさまざまな職種の人で構成されていること。どんな福祉用具があるのか、何に効果的なのか。当事者と商品をつなぐ役割を担う人たちが、ブースに立ち説明することで、商品についての理解をより深めることができるし、立ち寄る人から、どんな悩みや要望があるのか、生の声を聞くこともできる。ブースに出展している側も“勉強”になる、という仕掛けだ。

写真

野球ボールを、手すりにする

それぞれのブースの展示も、具体的にイメージしてもらえるよう、商品の紹介から発展して、実際の暮らしの中での活用方法やアイディアに焦点を当てた内容も多かった。たとえば、「住まい」のカテゴリーでブースに手すりの実例として、展示していたのはなんと「野球のボール」。

写真

これは、福祉用具を取り扱う株式会社スペースケアに所属している福祉用具プランナーの内田忠夫さんが東北の震災後、知り合いのリハビリテーション医師から声をかけられて、現地へ行き、実際に仮設住宅に設置したもの。
交通事故の影響で、高次脳機能障害が残り、全身の筋肉が不随にこわばってほとんど寝たきりで過ごしていたAさん。それまで現地の医療スタッフはAさんの回復をほとんどあきらめていたが、震災によりボランティアで介入したリハ医師との出会いで人生が変わりはじめる。もっと回復できるはずだと診断し、内田さんに声をかけた。現地のボランティアスタッフから送られた、調子のいいときは、流し台につかまり立ちをしているAさんの動画などを見るうちに、内田さんも回復の可能性は残っていると確信した。「あきらめるのはまだ早い」。現地に行き、こわばっているものの、左右とも握る力はある程度残っていることがわかると、現地のホームセンターで部材を調達、お手製の手すりをつくった。

ボールの大きさが少し変わるだけで、握りやすさの安定性は変化するため、いくつかの大きさを試し、直径72.5mmの軟式野球のA号ボールを採用。両手でしっかり握ることで、安定した体勢をとれるようになった。次のボール、次のボールと握りかえていくことが、そのまま歩行訓練となるので、ボールの感覚は「近すぎず、遠すぎず」の距離に設定。ベッドから流し台までの壁に計8個のボールつき手すりを設置した。翌日から歩行訓練を毎日はじめたAさんは、1カ月半後安定してきたことから、本格的なリハビリプログラムを開始し、8カ月後には歩行器を使って屋外の散歩を楽しめるまでに回復したという。

写真

そのほか、一般的な手すりであっても、より力が入りやすいよう斜めに設置することなども提案。福祉用具をもっと身近に、使いやすくすることで、生活をより快適にするための工夫やアイディアがつまった展示となっていた。