「ただのお客さん」を、「ファン」にする ―クラフト工房ラ・まの 前編

「ただのお客さん」を、「ファン」にする ―クラフト工房ラ・まの 前編

最寄りの鶴川駅からバスに揺られること10分。バス停で降りて、小さな公園の横を通り、細い坂道を上る。ほんとうにこの道で合っているのか。なんの目印もないから、心細くなってきたころ、ようやく看板が見えた。
「クラフト工房ラ・まの」は、東京・町田市にある障害のある人たちが働く染めや織りの工房。行きづらい場所にあるのに、夏と冬に年2回開催する展示販売会には、たくさんのお客さんがやってくると言う。

「夏も冬も、4日間開催するんですが、だいたい毎回400名ぐらいのお客さんが来ます。結構遠方からも来られたりして」と、施設長の高野賢二さん。
毎回、商品約1000点を並べ、お客さんを迎える。もちろんお店に卸したり、イベントでも販売をしているが、大きくは年2回のこの展示販売会に向けて、商品をつくるという流れができている。

商品は、たとえばマフラーが5000円、ショールが1万5000円といった価格帯。糸から草木や藍で染め、1つ1つ手で織った1点モノであることを思えば当然かもしれないが、決して安い値段ではない。けれど、「ラ・まのの商品を買いたい」というファンがついている。「去年は、はじめてアルパカ素材(糸)でストールをつくりました。アルパカは高級品なので2万5000円ほどするんですが、つくった12枚は、完売しました」。

クオリティの高い商品を、目指し続ける

ここまでファンがついている理由はなんなのか。いちばんの理由は、質のいい商品であるということに尽きるだろう。「福祉施設でつくった商品ということではなく、きちっとお金を出して買っていただけるクオリティを目指して、ずっとやってきています」。
あざやかな色味や、気の遠くなるほどの細かさの織りや刺繍。染めや織りをやっていたことがある人が、工房に来ると、その技術力の高さに驚くと言う。

それには、障害のある人たち一人ひとりと向き合い、彼らの適性を見極め、隠れた才能を見つけ出していく、スタッフの力量が問われる。人材不足に嘆く福祉事業所は多いが、ラ・まので働くスタッフは、何かしらクリエイティブに関わっていた人が多いと言う。
商品の質が高いということは、その商品に共感し、ここで働こうと思うスタッフを集めることにもつながっていく。彼らから、新しい商品のアイディアが生まれ、商品はさらに進化していく。

「ただのお客さん」を、「ファン」にする ―クラフト工房ラ・まの 前編
施設長の高野賢二さん

新しい仕事で、ファンの層を広げる

一方、どの福祉事業所も抱えるであろう「なかなか合う作業が見つからない人がいる」という悩みも、ラ・まのは、「新しいファン獲得」につなげた。

当初は「染め」と「織り」だけやっていたが、どうしてもこの作業に、なじめない人たちがいた。何か別の活躍の場を、と2006年から本格化させたのがアート活動。「障害児の造形教室を前身として立ち上がったという経緯もあって、動物園や植物園へ絵をスケッチにでかけたりとか、そういう素養はあったんです」。個展を開くほど、ファンがつく人も出てきたことで、それまでとは違う「アート好き」なお客さんにラ・まのを知ってもらうきっかけになっている。

やはり仕事の多様化のために企画した商品「鯉のぼり」は、家の中にも飾れるサイズ、昔ながらの型染めの手法を用い、植物染料で染め上げた逸品。口コミでじわじわと人気を呼び、ファミリー層にもファンを広げる結果になった。

「鯉のぼりの売上だけで、年間1000万円ほどになるようになりました。ただ、戦略的にやろうと思ったというよりは、メンバーさんの仕事をどうつくっていこうかな、ということで、アート活動やこいのぼりをやって、少しずついい効果がではじめたって感じなんですよね」(高野さん)。

「質の高い商品を目指し続けること」と「障害者の働く場であること」。
この2つのバランスをとりながら、変化し続けてきた結果が、ラ・まののファン拡大につながっていた。