売り方は、野菜が知っている――NPO法人縁活 おもや・杉田健一さん(後編)

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野菜づくりは、楽しい。土に触れ、自然の中でじっくりと作業をするから、障害者にも向いている。でも、つくった野菜をどう売るのかは、けっこう 難しい問題だ。

「障害者と農業」が持つ可能性を広げようとするなら、障害者がつくった野菜を、もっと知ってもらわねば。知ってもらうには、買ってもらわねば。でも、どうしたら。

ここに「売り方は野菜に教わる」と言う男がいる。

これぞ、障害者の仕事

絶対に誰にも負けないような野菜をつくりたい。「おもや」の野菜でなければ、と人に言われるようになりたい。そして、それを本当に必要としてくれる人に売りたい。野菜のつくり方、つくった野菜の売り方、両面からの挑戦がはじまった。

そんなとき、人を介して、「パーソナルアシスタント青空」の佐伯康人さんと出会った。「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則さんの一番弟子であり、自らも愛媛県松山市で障害者と共に自然栽培に取り組む佐伯さん。この出会いを通じて入り込んだ自然栽培の世界に、杉田さんは驚かされたという。

「有機農法では、堆肥づくりが大変なんです。ちゃんと発酵させるために何度もかき混ぜて、面倒見なきゃいけない。それが自然栽培では、何も要らない。土に何も入れない、作物に何もかけない。なんだこれ?って」。

「おもや」でもさっそく 自然栽培を取り入れようとしたが、いきなりすべてを自然栽培にすることは、リスクが高いと思っていた。しかし「こっちの畑は有機農法で、こっちは自然栽培で、と言っても、利用者が混乱するだけ」と杉田さん。腹をくくって、全部の畑を自然栽培に切り替えることに決めた。すると佐伯さんが松山から来てくれて、いろいろアドバイスをしてくれた。そのおかげもあって、軌道に乗った。

「肥料も、農薬も買わなくてもいい。水をやればいい。虫とり、草とりなどの手間をかければいい。お金をかけずに、手間をかければいい、というのは、僕ら障害者施設が一番得意なところなんですよ」と杉田さん。障害者の強みを生かし、コストをかけず手間をかけ、無農薬・無肥料という大きな「強み」を手に入れる。偶然の出会いからはじめた自然栽培に、大きな可能性を感じた。

なぜ捨てる?「規格外」は売りになる

しかし、自然栽培でとれる野菜には、「強み」と同時に「クセ」もある。慣行農法や有機農法と比べて、野菜の大きさや形、収穫量は一定しない。ちょっとした気候や土壌の変化で、野菜は大きくその姿を変える。ダイコン やニンジンに「す」が入って、実が使いものにならなくなってしまったりすることは、しばしば起こりうることだ。京都・二条で八百屋「マルシェノグチ」を経営する野口泰亮さんと出会うことで、杉田さんは、そうした「クセ」をも「強み」にする方向性を見つけることができた。

野口さんは言う。「私の店には、安心・安全でクオリティの高い野菜を求めて、一般のお客さんだけでなく、京都市内や滋賀県域のレストランからもお客さんがいらっしゃいます。レストランに行くということは、お客さんは非日常を求めてくる。家でつくれるものをわざわざ食べたりはしない。だから野菜も、普通のものと正反対のものを欲しがるんです」。
たとえば、「おもや」の葉付き玉ねぎ。あるレストランでは、葉っぱと実を別々に焼いて添えて出したという。無農薬だからできることだ。小さなニンジンやほうれん草など、農家が「これは、売れないだろう」と思っていた野菜でも、レストランにとっては魅力的な商品になる、という。

「逆に飲食店さんは探していらっしゃったんですよ。『え、こんなのでニンジンなの?』というような、驚きのある野菜を。いままでは農家さんが自家消費していたんですが、その野菜を欲しがっている方がいるっていうことをお伝えし、きちんと対応すれば、それなりの値段で売れるんです」と野口さん。

先程の例で言えば、「す」が入ってしまったダイコンやニンジンなら、もう少し育てて、その「花」を商品としておすすめする。ダイコンの花ならダイコンの、ニンジンならニンジンの味がする花がとれる。軽くソテーして出すだけで、特色ある一皿ができる。

今日も野菜の声を聞く

「おもや」が、自ら飲食店の経営に乗り出したのも、こうした「野菜の声」を聞きたいという思いからだ。「オモヤキッチン」は、地域に、リーズナブルな価格で「おもや」の味を楽しんでもらう飲食店であると同時に「おもや」の研究開発のためのスペースとしても活用する。「なんでも商品になる可能性がある、とわかってきましたから、それを逆手にとって、どんどん提案していけないかと思っています」。自然栽培をやっているから、慣行農法の枠組みの中で見ると「規格外」のものができる。でもそれは、「失敗」なのではなく、新しい商品の「可能性」だ。野菜の声を聞きながら、野菜に売り方を教わって、今日も杉田さんは畑に出て、お客さんを回り続ける。

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※「おもや」の記事は、2014年8月発売の『コトノネ』11号に掲載されています。

写真:岸本剛